オーバーロード セバスのほのぼの日常

きりんじ

第1話

1

ナザリック地下大墳墓では、ときどきほのぼのとした光景が見られます。

日常の一部を覗いてみましょう・・・



セバスは毎日ナザリックの為に忙しく働いているが、

今日は、ツアレの為に生活用品を買うために、お休みを取ったのだった。



________「さて、ツアレ今日は洋服を買いに行きませんか。良い天気ですよ」

と部屋にこもっているツアレの、部屋のドア越しに声を掛けていた。


「・・・・・申し訳ございません、セバス様。・・・怖いです、外に出るのが・・・まだ・・怖いです」

 

「あなたが謝ることは何もありませんよ、ツアレ。外に出るのが怖いのなら、町を馬車の中から覗くだけでも構いません。どうでしょうか?」

とツアレが外に出掛けやすいようにと、セバスは提案をする。



ツアレは恐々と話す。

「セバス様の・・提案はとても良いと思います。でも・・・・ナザリック地下大墳墓の方以外の男性がいると思うと、足がすくんでしまって・・」


「大丈夫ですよ、ツアレ。

以前もあなたに伝えたように、私と一緒にいれば全ての怖いことから、

あなたを守ります。私を信じてください」

 「・・・セバス様・・。」


「そして、そろそろツアレも新しい着替えが欲しいのではないのですか?」と

ツアレの洋服が、メイド服数着しかない事を知っているセバスは優しく伝える。

「・・そうですね・・。」とツアレの恐怖心と好奇心が、心の中でゆらゆらと揺れていた。


話を聞いたツアレは、また心の中で考える。


(うん・・メイド服・・研修で汚れてきちゃったから、新しい服も欲しい・・でも怖い。うーん、どうしようどうしようどうしよう・・・)

(でも、出掛ければセバス様と楽しく町を歩けるかもしれない、怖かったら馬車から出なくても良いっていうし・・・)



とツアレはドアの前で、ぐるぐる考えてしまって、10分は経過した。



なかなかツアレから返答がないのでセバスは、ドア越しに優しく伝える。

「ツアレ、無理はしないでください。いつでも話は聴きます。町に出掛けたくなったら、いつでも教えてください。では失礼致します。」

とセバスは一礼をして、ドアの前から名残惜しそうに離れた。

「・・は、はい!セバス様申し訳ありません!せっかく誘っていただいたのに・・・・」





_______________ツアレの部屋から離れたセバスはというと・・・・


「さて、本日の休みの予定がなくなりましたね・・・。何をしましょうか?」

と独り言をつぶやいた。


このあとセバスは、ツアレの為に町へ買い物に行くのだが、女の子の洋服選びは、こんなにも難しいものだと痛感することになる。


「む、この店は私以外は全て女性ですね・・・そこのお方、何か困ったことが?大丈夫でしょうか?」





______そのツアレとセバスのやり取りをこっそりと見ていたペストーニャは、にやにやしていた。

「こ、これはもしかしたら・・ワン。面白そうな事が起きそうだ・・・ワン!」

と一人ワクワクしていたのは誰も知らない。



 セバスは人だかりのある店を見つけ、そこならきっと良い品があるに違いないと足を向けた。

 看板には大きくこう書かれている。


 ――「銅貨三枚で洋服詰め放題!」


「……良心的な価格でございますね。これならツアレも、たくさん服が手に入ればお喜びになるでしょう」


 頭の中はすでにツアレの服のことでいっぱいだ。


 しかし、店先に近づくと、押し合いへし合いの勢いに弾き飛ばされ、地面に倒れている女性たちの姿があった。

 カルマ値が善のセバスに、それを見過ごすことなどできない。


「大丈夫ですか」

 倒れた女性の手を取って助け起こし、柔らかく微笑む。すると女性は顔を赤らめ、何も言わずに走り去ってしまった。


「……?」


 次に目に入ったのは、人の波に押されて泣いている小さな少女。セバスは膝を折り、目線を合わせて声をかける。

「お嬢様、ご無事ですか。お母上はどちらに?」


「……お母さん、この中にいるんだけど、はぐれちゃったの」


「ふむ、承知いたしました。私が探してまいりましょう」


 少女から特徴を聞き出すと、すぐに母親を見つけ出し、再会させる。だがその母親もまた、セバスの顔を見るなり頬を赤らめ、礼もそこそこに退散していった。


「……おかしいですね。なぜ皆さん、私が声をかけると逃げてしまうのでしょうか」


 首をかしげるセバス。だが実際には――

 彼の端正すぎる微笑みに気づかされた女性たちが、自分の“服を奪い合う醜態”を急に意識してしまい、恥ずかしくなって退散しているだけだった。もちろん、セバス本人は気づかない。


 それでも彼は、なおも倒れた女性を助け続けた。


 やがて店内の混乱が収まりかけたところで、壮年の店主が声をかけてきた。

「おい旦那、人助けは結構だが、あんたが動くと客がみんな帰っちまう。これじゃ商売あがったりだ」


「……これは失礼いたしました。ご迷惑をお掛けしたようですので、私はこれで」


 深く頭を下げ、セバスは店を後にする。


 石畳を歩きながら、低く呟いた。

「……人助けのつもりが店の妨げになってしまっては、本末転倒です。やはり、私は甘いのでしょうな」


 視線を上げれば、空はすでに傾きかけている。

「ツアレの服を探しに来ただけのはずが……思いのほか時間を要してしまいました。人助けも、ほどほどにしなければなりません」


 そう言い聞かせながら歩を進めると、街の外れに差しかかっていた。

 道沿いには、香ばしいパンの香り、見慣れぬ果実、甘やかな菓子を売る露店が立ち並ぶ。


「……これはツアレが好みそうですな。……あちらの果物も珍しい。……このパンも香りが良い。お土産に一つ持ち帰るのもよろしいかもしれません」


 思わず足を止めて見回すうちに、セバスは町はずれまで来てしまっていた。

 それでも胸の内にはただ一つ――ツアレに似合う服を贈りたい、その思いだけが残っていた。


街はずれに来ても、セバスの手にはまだ何も残っていなかった。


「……困りましたね。ツアレに似合う一着を見つけたいのですが」


 そう呟きながら、次に見つけたのは色鮮やかな布を山と積んだ露店。

 近寄ってみれば――


「いらっしゃい!派手さが命!旅芸人も驚くこの色合い!」


 差し出されたのは金と赤にきらめくドレス。腰には大きな羽飾りまでついている。


「……ふむ。これは……舞台用の衣装でしょうな」

 セバスは即座にそっと戻した。


 さらに進めば、別の店先には革製品が並んでいた。

「この頑丈さ!冒険者に大人気だよ!」と店主は胸を張る。


 並んでいたのは金具だらけの鎧じみたコート。

 布よりも革、装飾よりも鉄。まるで戦場に立つためのような一着。


「……いや。これは護身にはよろしいですが、ツアレが望むものとは違いますね」


 首を振り、また歩を進める。


 やがて、小さな店を見つけた。そこにあったのは子供服ばかり。

 並んだ小さなワンピースを見て、セバスは眉を下げる。


「……可愛らしいですが、ツアレには少々……いや、だいぶ小さすぎますな」


 結局、この日セバスが訪れたどの店でも、ツアレにふさわしい衣は見つからなかった。


 夕暮れに染まる街路を歩きながら、セバスは静かに息をついた。

「……ツアレに渡すなら、妥協はできません。焦らず、必ずあの方にふさわしいものを見つけましょう」


 彼の胸には、確かな決意だけが残っていた。


せっかくセバスが街へ誘ってくれたのに――怖くて踏み出せなかった。

 ツアレはベッドに突っ伏し、枕に顔を埋めながら足をばたつかせる。


「もう、私のばか……!」


 守ってくれるはずなのに。

 あの人と一緒なら大丈夫だと分かっているのに。


 

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