第38話 煩雑

起こされた愛犬クリスも眠そうな顔で大きなあくびをしながら出て来た。



首をズラし早織を目にする美菜萌



また後ろを振り返ったエレナも半分夢の中にいる早織へと視線を向けた。



早織「おしっこ…」



その瞬時



隙を突いた万頭が長棒から逃れ、横移動、今度は逆に美菜萌の首筋にボウイナイフが添えられた。



ピタリと刃が首筋につけられ、冷たい感触を受けた美菜萌が思わず声を漏らす。



美菜萌「うっ…」



エレナは目の前で、美菜萌の背後へと周り込む万頭を目にし絶句した。



すると



早織「おトイレ行きたい」



再び後ろを振り返ったエレナが口にする。



エレナ「おトイレね それならすぐそこにあるからいってらっしゃい」



早織「何処?暗くて怖いし分からない…」



早織がエレナの手を握り、口にした。



早織「怖いからエレナお姉ちゃんも来て」



エレナ「すぐそこだよ ほら 展望台がそこにあるでしょ その隣に御手洗いあるから1人で行けるでしょ?」



早織「行けない 怖いからついて来てよ」



エレナ「ごめんね お姉ちゃん今行けないの 怖くないから1人で行ってきて」



早織「真っ暗けで怖いもん おしっこ漏れちゃうよ」



殺し合いの真っ最中に何も知らない早織がフィールドへと入り込み、エレナの手を何度も引いている。



美菜萌「じゃあ早織ちゃん これ持ってけば大丈夫でしょ」



早織に懐中電灯を差し出した。



エレナ「お姉ちゃん達はここにいるから大丈夫よ 1人で行ってきて ほら クリスもいるんだから平気だよ クリス!一緒についてってあげて」



早織「ふ~ん 分かった お化け出たらすぐ来てね」



エレナ「勿論 さぁ~ いってらっしゃい」



万頭の存在にも気付かず、ライトを点けた早織がトイレへと歩いて行った。



すぐに目つきを変え、前へと向けたエレナ



美菜萌の背後へ周り、ナイフを突きつける万頭を目にした。



万頭「形勢逆転だな」



不利な状況に置かれたエレナがバールを構え、無言で万頭を睨みつけた。



すると



おもむろに万頭が内ポケからガラケーを取り出した。



エレナに緊張が走る



起爆する気か…?



万頭が携帯に指を伸ばし、起爆スイッチに触れると思いきや電源ボタンへと触れた。



そして思わぬ事を口にし始めた。



万頭「ふふ シラケるとはこの事だな… せっかくの殺伐が台無しだ」



エレナ「…」



万頭「再開した所で続けてもとんだ茶番は目に見えてる…ここはあの小娘の寝ぼけ眼に免じて幕引きにする 今回は見逃してやる」



エレナ「見逃す?どうゆう風の吹き回し?殺し合いするんじゃなかったの?」



万頭「この気温と同じくらい興も冷えきった今…趣をなくした…それに今ここでおまえ等を殺さずとも…こういった機会はすぐに訪れる… 次回仕切り直し それまでおあずけだ」



美菜萌「…」



万頭が電源ボタンを長押し、ディスプレイ画面が消された。



万頭「IEDは解除された…もうそいつはただの鉄クズだ…ブレーキを離してもかまわないぞ」



それからガラケーを後ろへと放り捨てた万頭



これで七海さんが足を離した途端 ボカン…なんて事は…ないよね?



嘘をついて油断を誘って…なんて事は…ないよね?



一瞬 あまりな展開に疑いから躊躇するも万頭の目にそれらは感じられなかった



エレナ「七海さん 足を離しても大丈夫です」



七海「え? ホントに平気なの…?」



七海が目を瞑り、恐る恐るペダルから足を離しはじめた。



そーと足をどけ ペダルを戻すが



何も起こらない…確かに解除されてるようだ



そして完全に足が離れ、転がったIEDを拾い上げた七海がすぐに爆弾を外へと放り投げた。



万頭「命拾いしたな…だが 次 相見(まみ)えた時はこうはいかないぞ…次は即殺する…相応の覚悟を決めて改めて来るんだな」



美菜萌の背後からナイフをまわす万頭が目つきや口調を変え、2人に告げた。



エレナ「覚悟なんてとうに決まってる それに命拾いしたのはお互い様よ」



万頭「何?」



気づけば



万頭の腹部には小刀が突きつけられていた。



そう… 美菜萌がいつの間にか隠し小刀を脇腹に突きつけていたのだ



万頭「ふっふふふふははははは やるじゃないか 女だと思って舐めてた事は認める…おまえ等 その辺の軟弱な男よりもエクスタシーを味わえそうだ 今後の愉楽に期待するとしよう」



そして頸動脈からボウイナイフを抜き、フードを被った万頭が颯爽と戦線離脱



暗闇の中へと消えて行った。



煙りの様に消えた万頭を無言で見送る3人の元に



早織「出たぁぁぁ~ きゃゃゃや~」



悲鳴をあげた早織が戻ってきた。



そしてエレナの太股へとしがみつき



エレナ「どうしたの?」



早織「いたんだよ お化けが」



エレナ「お化け?」



早織「うん 早織見たの 白くて細いのがニョキニョキ~て私の前を通ってったの…きっとあれお化けだよ」



エレナはしゃがみ込んだ



クリスもエレナへと寄り添い、エレナの頬をペロペロ舐める中



エレナ「そう じゃあクリスも見たの?」



早織「うん クリスも見たよね?」



エレナはクリスの頭を撫でながら口にした。



エレナ「お姉ちゃん見た事ないわ~ それはおっかないね でももう大丈夫 次 そのおばけ見つけたらお姉ちゃん達がやっつけてあげるから」



美菜萌「ふふ」



早織「ほんと?」



エレナ「うん ホントのホント」



七海「さぁ~ 早織 寒いんだから早く車乗って」



早織「はぁーい」



助手席へ飛び乗り、早織の膝上に飛び乗ったクリス



美菜萌「エレナさん 私達も行きましょ」



エレナ「うん」



そしてエレナが立ち上がった時



エレナ「はっ はっ クシュン」



強烈なくしゃみと共に寒気に襲われた。



エレナ「ううう~ ざみぃ~ 風邪ひいちゃったかも」



現在気温は0℃



キャミソール姿のエレナは凍える腕を擦りながら車内へと入り込み



エンジンを始動させたデミオが発進



エレナ、美菜萌、早織、七海等4人は襲い来る危険を無事潜り抜け



この窮地から脱出を図った。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



車内の暖房マックス全開の中



エレナ「クシュ はっ はっ クシュ」



上着を借りて、2枚重ねするが一向に寒気が取れないエレナは鼻水をダラリと垂らし、寒さで身震いさせていた。



そんなエレナを心配そうに見ている早織と美菜萌とクリス



早織「エレナちゃん大丈夫?」



エレナ「駄目…ささ さむ 寒すぎる…」



早織「これも掛けて」



早織が自ら羽織る上着をエレナの肩へと掛けてあげた。



エレナ「ありがど…」



七海「完全湯冷めしちゃってるね しかもあの山の中 裸同然じゃ無理ないよ 早く熱いお湯にブチ込まないとだね~ どっかあったっけなぁ~」



美菜萌「小さいですけど確かむつ市にもありますよね?」



七海「ないでしょー 銭湯じゃ駄目だよガスも火も止まってるから意味ないし 天然の温泉じゃないと」



美菜萌「分かってます 関根に温泉旅館ありませんでしたっけ?」



七海「温泉旅館?あ! 海沿いの外れにあるあの旅館か…生まれてこのかた行った事ないけど なんだっけな…う~ん い…いしなんたら」



美菜萌「石神温泉ですよ」 



七海「あ~ そうそうそんな名だった」



美菜萌「確かあそこは旅館もありますから泊まれますよ」



早織「え?じゃあまた温泉入れますのん?」



美菜萌「そうだよ早織ちゃん 詳しい場所はむつ市に入ったら私がナビします」



七海「そっかぁ~ こんな時間 なんか怖い思いもしたし エレナちゃんこんなだし… 嫌な事忘れる為にも もう一丁行きますかぁ?」



早織「やったぁ~ 早織温泉大好き またまたお ん せ ん お ん せん」



ノリノリな早織がリズムを刻む中



再度気分直しに温泉施設を目指し車を走らせた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



むつ市 関根



石神旅館 芍薬の間 3時08分



安全が確保された旅館



エレナ等一行は冷えきった身体を温める為再び温泉に浸かった。



そして十分温まり、早々に切り上げた一行は旅館の一間にて休息をとっていた。



それぞれ浴衣を借り、並べらた布団にくるまり就寝している。



早織「スー スー 」



七海「フー スー」



消灯された真っ暗な部屋に早くも早織と七海の寝息が聞こえ



その寝息を耳にしながら真っ暗な部屋の天井を見詰めているエレナ



一夜で起きた様々な事を思い浮かべていた。



黒フードの連中



洗脳され、物の様に扱われている村民達…



そして不気味な操り人形…バスタードと呼ばれる実験体の存在…



またバカデカい3頭の熊達… その中の1頭…ミナグロと呼ばれる山神の化身の存在



森では相変わらずなゾンビ達… その中にいたクリムゾンストーカーと言われるニュータイプなハンタータイプとの遭遇…



それにガスマスクを被った死神野郎や



テロリスト犯 万頭との死闘



そして最後にあの怪しげな術を使う黒フード達の頭領…



山吹の存在…



数えあげただけでも頭が痛くなりそうな問題ばかりだ…



これら色々な問題がこれから錯綜し混迷し混沌しようとしている…



これら問題が激動し、これから激戦になる事は必至だろう…



これらは避けられそうにない…



そうなれば…これから敵味方問わずまた多くの人が死ぬ事となる…



レジスタンスの仲間達だって…きっと犠牲になってしまうだろう…



エレナ「ハァー…」



深い溜め息を漏らしたエレナと同じくして



端に敷かれ布団で眠っている美菜萌



横向きの体勢で布団に入る美菜萌もまたエレナ同様考え事で目を開け



まだ眠れずにいた…



今はどう考えたところで何も変わらない…



早く寝なきゃ…



まだ髪の毛も完全に乾かぬまま



エレナ、美菜萌は強引にその目を閉ざした…



そして次第に意識が遠のいていった…

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