第55話 自覚と覚悟と
翌朝ギードたちに別れの挨拶を済ませ、馬に乗ってヘルズフェルトを出発した。
ケントには魔法が効かないので
「こうしてると俺もなかなか渋いだろう。どうだ、セシル?」
フフンと得意げに決め顔を見せるケント。
彼は金髪のウィッグと大きめの同色の口髭をつけている。セシルの見た感じではどこか胡散臭い商人か結婚詐欺師といった感じである。
「あ、うん。渋い……と思う。多分。」
セシルも暗殺者たちに顔がばれているので、幻影のペンダントで髪と目を薄茶色にして後ろで三つ編みにしている。そしてとどめは眼鏡だ。
一応設定では地方から出稼ぎにきた兄妹ということにしてある。
ようやく国境門へ到着した。ケントはまるでお調子者の商人といった口ぶりで警備兵と会話し、無事国境を超えることができた。なかなかの演技力だ。うん、演技だと思う、多分。
それから一度の野営を経てようやくグーベンの町へ辿り着いた。
「俺はこの町で初めて暗殺者に襲われて人を殺したんだ。」
そのときのことを思い出したのかケントの表情が曇る。セシルは彼の気持ちが痛いほど分かる。
「うん。でも生きるためだから仕方なかったんだよ。わたしが言ってもあまり説得力ないかもしれないけど……。」
「あ、ああ、ごめん。気を使わせちゃったな。大丈夫だよ、今は分かってる。思い出してちょっと気分が悪くなっただけだ。」
馬房つきの宿屋などそんなには数はないが、さすがに一度襲われた宿に泊まるのも躊躇われるので別の宿屋を探す。
ようやく宿を見つけて馬を預け、二人部屋を取る。部屋に入ってソファに座りケントが話し出す。
「この町からは真っ直ぐ王都だ。あまり一か所に長居するのは危険だが、今回は完璧なまでの変装だ。宿も偽名で通った。ここまでの道程は決して短くはなかった。俺はセシルに無理をしてほしくない。だからこの町で少しゆっくりして体調を整えよう。身元がばれて城の人間に漏れないとも限らないから冒険者ギルドの仕事はできないがな。金もある程度貯まっているししばらくは大丈夫だ。」
「うん。わたし初めて王国へ来たよ。ここがおばあちゃんとおじいちゃんがいた国なんだね……。」
元々おばあちゃんが住んでいた国だと思うとなんだか感慨深い。この国でおばあちゃんは聖女をしておじいちゃんに出会ったんだ。
「そういえば最近セシルは僕って言わなくなったけど、なんか理由があるのか?」
思い出したようにケントが尋ねる。
「あ、うん。なんかあんまり男の子に間違えられなくなったんだよね。だから無理に僕って言うのもなんか変かなって。」
熊のおじさんは男の子だと思っていたみたいだったけど、ギルドなどで男の子に間違えられることが少なくなった。今までは否定するのも面倒くさくて男の子の振りをしていたけど、間違えられないのに無理にそうする必要もないかと考えていた。
「そういえばセシルは少し背が伸びたかな? 最初に会ったときはこれくらいだったもんな。」
そう言ってケントが自分の胸の下あたりに手をやる。
「えっ、そんなに小さかったっけ?」
「ああ、多分そうだった。ちょうど成長期なのかもな。初めて会ったのはそんなに前じゃないのに。体つきもその頃に比べるとだいぶ女の子らしくなってきたから、これからは男でごまかすのはちょっと厳しいかもなぁ。」
なんとなく自分の胸元を見る。そういえば少しはふっくらしてきたのか。そんなセシルを見てケントが慌てて弁解する。
「いや、違うぞ! そこを見てそう思ったわけじゃない、全体的に見てそう感じただけだ。本当だ、信じてくれ!」
別に何とも思っていなかったのに、慌ててそう言い訳されるとなんとなく恥ずかしくなって思わず赤くなる。
それを見てケントがさらに慌てる。
「うわぁ、セシルすまん。まじで! ああ、年頃の娘を持つ世の中のお父さんはこういう心境なのか……。」
ケントが片手で目を覆い悩まし気に天井を仰ぐ。そんなに気にしなくていいのに。それに、娘っていうのは嫌だけど女性らしくなったと言われたことは素直に嬉しい。
「大きくなったっていってもケントにとってはまだ子供に見えるんだよね?」
セシルは首を傾げながらケントに尋ねる。するとケントは意外にも顔を赤くして答える。
「当り前だろう。いくつ離れてると思ってるんだ。俺は25だぞ?」
「でもわたしはケントのこと好きだよ?」
ケントはセシルの言葉を聞いてぐっと喉を詰まらせる。かなり衝撃的だったようだ。
「……お前、それはあれだ。憧れっていうやつだ。俺も幼稚園のときに先生のことが好きだった。あれと同じだ。」
ケントは腕を組んで真面目な顔でそう答える。セシルは慌てるケントを見るのが楽しくてさらに攻める。
「ようちえん? 小さい頃ってことならわたしもう12才だし、月のものも」
「だあぁーっ! やめろ! そういうことをあっけらかんと言えてしまうところが子供なんだ! 俺もお前を好きだが、そういう好きだとほら、変態ぽいというか、少女趣味みたいじゃないか。」
「えー? わたしが好きな分には問題ないでしょう? わたしの気持ちにどうこう言われたくないな、特にケントには。」
ケントには言われたくない。それに今言っておかないといけない気がした。この先、生き延びられるかどうかも分からないのだから。
◆◆◆ <ケント視点>
一体どうしたんだ、セシルは。こんなにぐいぐいくる子だったか? はっ! もしかして偽セシルか……! いやいや、そんなわけないか。
兄貴を思うようなもんだと思うんだがな。憧れを恋愛と間違えるなんてよくあることだ……と思う。俺はそこまで恋愛経験値は高くないからよく分からんが。
そりゃ俺だってセシルが大人だったらと思わなくもなくもなくもない……。が、今受け入れてしまったらヤバい扉を開けてしまう気がする。なぜならセシルの気持ちが素直に嬉しいからだ。
ああ! 俺はいったいどうしてしまったんだ! 俺はロリコンじゃなかったはずだぁ!
「セシル、その、俺は……。」
「いいよ、別に答えなくても。この先無事に生き延びることができて、わたしが大きくなったらプロポーズするからそのときにちゃんと考えてくれればいい。」
「セシル……。」
セシルはにっこり笑ってそんな男前なことを言った。その笑顔を見てどきりとした。確かに少女なんだが俺なんかよりも大人だと思った。どう考えても彼女に翻弄されている。
そして彼女の『生き延びることができて』という言葉に俺は息を呑む。この先王都へ入ったら危険な戦いになるかもしれない。いや、十中八九なるだろう。それなのに俺の気持ちは伝えなくてもいいのか……?
ぶっちゃけると俺もセシルにそういう気持ちを抱いているのかもしれないとは思っていた。認めたくなかっただけで。……だって12だぞ?
だが年齢の割に時折見せる大人っぽい表情にドキリとさせられたこともあったし、妙に達観したようなことを言うこともある。こっちのほうがガキじゃないかと思うくらいだった。
そうかと思えば幼い子供のように泣いたり笑ったりすることもあって、そんなときは守ってやりたいと思った。気丈なようでいて脆いところもあってその危うさから目が離せなくなっていたのは事実だ。
だが、だからといって……。どうすればいいんだ。この潰されそうなほど背中に重くのしかかってくる背徳感を! ……だがこんなことを思っている時点でもう自覚せざるを得ないのだろう。
そもそもだ。もしお互いにそういう気持ちを抱いていると自覚してしまったら、こうして宿で同じ部屋に寝泊りするのもまずいんじゃないか? これまでは兄妹みたいなもんだからと割り切っていたがそこら辺はどうなんだろう?
「セシル、宿で俺と同じ部屋に泊まって平気か……?」
「えっ、平気ってなんで? 何か問題があるの?」
俺の問いかけにセシルがきょとんとした顔で逆に聞いてくる。
ああ、そうか。セシルは恋愛感情には敏かったが、そっちの知識は全くなわけだ。セシルのばーちゃん、ちゃんと孫に教育しておいてくれ……。
だが襲撃の危険性を考えても別々に部屋を取るのは今はまずい。変に意識させるのはやめておいたほうがいいかもしれない。彼女が気にしないなら俺さえしっかりしていればいいんだ。さすがにそういう衝動は起こらんぞ……多分。
「まあいいか。明日は王都だ。早めに寝よう。」
「うん! それじゃわたしお風呂に入ってくるね。」
「おう。」
俺はベッドに横になり天井を見ながら考える。
まあ結局のところ俺もセシルを好きだってことだ。あいつが大きくなったら俺が嫁に貰いに行ってやる。そうなるように絶対彼女を守って生き延びてみせる。
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