第9話 魔女を怒らせてはいけないと学びました
「流行り病?どこで?・・・西方の森林地帯のあたりか。私が確認してくるよ。アウル、案内しておくれ。」
そう言い終わらぬうちに隼に変化して、飛び立ったのはボーイッシュな魔女のアニーだ。アニーの使い魔であるフクロウのアウルが鳥仲間から聞いた流行り病の噂を伝えに戻るや、すぐに飛びたった。
ショートヘアでボーイッシュなアニーに憧れる女官や後輩魔女は少なくない。もちろんエマも憧れている。
「アニーちゃん、変化してもかっこいいです!隼になれるなんてすごいですねえ。」
ほう・・・とため息を吐く。
「エマちゃんだって変化の魔法くらい使えるようになるわよ。」
「そうよ、そんなに難しいことじゃないもの。」
「魔力量は充分ですものね。」
先輩魔女たちが太鼓判を押してくれ、期待に胸が弾む。
エンマはかっこいい動物に変化してみたいです。
「それにしても心配ねえ。すぐに必要になるかもしれないから、薬や薬草のストックを確認しましょう。」
サマンサの一言で魔女たちがキビキビと動き出す。
準備できることを一通り済ませたところにアニーとアウルが戻った。
「ただいま。」
隼からボーイッシュな魔女へ優雅に変化する。
「おかえり、どんな様子だった?」
「心配ないよ。西方の森林地帯の近くにオーク族の集落があるだろう?集落の若いのが何人かで森林ドリアンの大食い競争をやらかしたらしい。」
「ええっ、あの森林ドリアンを!?」
「バカねえ。」
森林ドリアンてなんでしょうか?
「森林ドリアンは栄養価が高いフルーツだけど、食べ過ぎるとお腹を壊すのよ。」
「香りが強くて癖があるから、苦手な人も多いのだけど森林地帯では人気のフルーツなのよ。」
エマが首を傾げていると、魔女たちが教えてくれた。
「ちょうど今が旬だったわね・・・。」
「そう、あの地域でしか食されないフルーツ。特に手をかけて栽培しなくても充分な量が野生で実るけど、旬が過ぎれば熟し過ぎて朽ちてしまう。この時期が過ぎれば来年まで食べられないだろう?それなら今のうちに食べられるだけ食べておこうとした無鉄砲な3人がお腹を壊している以外は異常なかったよ。ちょうど持っていた薬を処方しようとしたのだけど、事情を説明してくれた長老たちが、特に苦い薬を作ってほしいと言い出してね。」
「人騒がせねえ。」
「畑にニガニガウリがあったわね・・・。」
「エキスを絞って飲み薬にしましょうか。」
魔女の畑には虫も動物も避けて通るニガニガウリが植えられている。絶対に食べたくない匂いを発しているが薬の原料になるし、虫除け、動物除けにもなるのだ。
ニガニガウリのエキス抽出はエマも近くで見学して、一通り手順を学んだ。濃い緑色の液体は青臭くて実にマズそうだった。
匂いに耐えられず「ほげえ・・・」と呻いて外に避難した。
この日からエマは、それまでよりも聞き分けの良い、良い子になった。
魔女たちを怒らせるようなことはしないと誓ったのだ。
「病気じゃなくてよかったですね。」
「そうだね、長老たちは怒っていたけれど病気でなくて良かったよ。」
朝から西方と魔女の館を往復し、疲れているだろうアニーの懐の広い一言にキュンとした。
「アニーちゃんもお疲れさまです、大変だったでしょう。」
アニーの腕に小さな幼女ハンドを置いて声を掛ける。
「隼は飛ぶ速度がずば抜けて早いからね、そんなにたいしたことではないよ。」
「エンマもいつかかっこいい隼に変化できるようになりたいです!」
「変化の魔法が使えるようになるより先に使い魔と運命の出会いがあるかもしれないよ?」
「使い魔!」
先輩魔女たちは全員、使い魔と呼ばれる動物をパートナーにしており、その信頼し合う様子に、密かに憧れていた。
薬作りや魔法の腕は勉強や訓練次第で上達することができるが、使い魔との出会いは運次第・・・文字通り運命なのだ。
「もちろん魔女の館の魔女たちは、エマちゃんが沢山の動物に会う機会を持てるよう協力するからね。エマちゃんも沢山の動物や魔物、精霊に心を開いて接してごらん。」
「ありがとう。」
えへへと笑うと、魔女たちの使い魔自慢が始まった。
「エマちゃんは猛禽類に憧れがあるようだけど、白蛇も最高よ!私のパートナーのカヴァディールったらハンサムなんだから!ほら、鱗が宝石のように美しいでしょう?」
巨大な蛇のカヴァディールは普段、小さくなって主であるファティマの腕に巻きついており、豪華な装飾品のようだ。
「ふふっ、サラマンダーも素敵よ。私のサラは可愛らしいでしょう?性格も優しいのよ。」
アビゲイルの使い魔であるサラも普段は小さなトカゲに擬態し、アビゲイルの肩が定位置だ。女の子らしい顔立ちのサラはとても可愛らしい。
みんなの使い魔たちが快く撫でさせてくれた。
すべすべな白蛇やトカゲに、ふかふかのフクロウ。
はふう、みんな優しくて可愛いです。
ランチに戻ると、窓辺で待っていたデイモンが両腕を広げ、抱っこスタンバイで出迎えてくれた。いつものようにデイモンに向かって、飛んでゆくと嬉しそうに抱きとめてくれた。
「おかえりなさい、エンマ。」
デイモンの嬉しそうな笑顔を見ると、ついエマも笑顔になってしまう。
「ただいまです、お腹空きました。」
コアラ抱っこでしがみつきながら答えると、床に下ろされそうになったので、慌ててしがみつく。
「エンマ?どうしましたか?」
「もふもふになって!」
とたんにデイモンの顔がとろける。
ケモ耳と尻尾付きの人型から、ボフン!と2足歩行のフェンリルに変化する。ふっかふかでモフモフなデイモンがいれば、当分の間、使い魔に出会う幸運に恵まれなくてもいいかと思えた。
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