第11-4話 勝利の代償

 ましず が最初に疑問になったのは、りんりの姿だった。

 金髪、コウモリ翼の魔族ではなく人間に変身した燐里になっているのだ。


「よし、勝ちって事で空間魔法解除してね」


 もちろん、姿と言動に騙される針田ではない。

 浮遊移動しながらぐるりと燐里を1周すると、鋭い視線を燐里に向ける。


「燐里、何の魔法を使った?事によっては不正とみなして、失格にするからな」

「…。見ての通り『戦意喪失』だよ。ほら、リルディに戦う意思がないじゃない」

「わ、リルディが倒れる」


 ふらりと体制を崩すリルディをましず が受け止め、地面に横にさせた。


「燐里『戦意喪失』にはエネルギー消失の効果はない」

「それはリルディが魔法連発したからでしょ。あんだけ使えば、誰だって魔力を使い切って倒れるわよ」


 言い訳をする りんり に ましず は見えない何かに気づいた。


「何か匂いがする」


 ましず の言葉に りんり は表情を崩したが、慌ててポケットからスマホを取り出し操作する。


「いっけなーい、ガデバウム様から緊急招集がかかってる。急いで行かないと」


 りんり はスマホ画面をタップして、そのまま姿を消した。


「…………」


 取り残された針田と ましず は顔を見合わせたが、針田はすぐにスマホを取り出す。


「あんの小娘。何か隠している」

「そのスマホ、どこから取り出したの?」


 ましず の疑問に答える前に通話が繋がり、針田は声のトーンを下げて話し出した。


「エギュラメ様、ハリダです。

 リンリ・ガデバウムのスマホのGPSをONにしてくれませんか……そうですね『申請した魔法情報の虚偽』って所で……はい」


 通話を終えたハリネズミは、小さ過ぎる手で何かを打ち込んでからニヤリと笑った。


「魔界のゲート管理職員に捕獲要請を出したから、りんり が人間世界から出られることはない」

「針田?」

「りんり の奴、リルディに『足止め』と『戦意喪失』の間に何か別の、それもこっちが知らない何かの魔法を唱えたのは間違いない。

 魔界に入れないようになった今、袋のネズミ同然。しかも強制遠隔操作で居場所はダダ漏れだ」


 そして針田の笑みに闇色が加わる。


「そしてトドメだ。

 お前さんの幼なじみ(百合娘)を解放してくれ」






 燐里は、とにかく走った。


「燐里ちゃーん。逃がさないわよ」


 魔族世界のゲートから慌てて戻ってきた燐里だが、数百メートル歩いた先に聖菜が現れ、追われる身となった。


「人間の姿だから、追いつかれる…かと言って変身を解除したら、もっと危険になるし…」


 後ろを振り返った燐里は、聖菜との距離がかなり縮まっている事に焦り、目に止まった角を曲がり、住宅地の中に入って行った。


 曲がれる角を右へ左へと曲がり、公園を通り抜ける。

 道路に出る前、燐里は後方を確認すると、聖菜の姿は見えなかった。


「……」


 公園にはブランコやシーソーと言った遊具の他に、コンクリートでできたドーム型の大きな遊具が中央にあった。上は幅の広い滑り台だが、その下は空洞で身を隠すにはちょうど良かった。しかし、燐里は何か嫌な予感がしてならない。


「聖菜がここを通れば、確実に探してくる…」


 とは言え、ずいぶんと走ってきたので、少し休みたい気分の燐里は、遊具を改めて観察すると、出入り口が2つある事に気づく。


「……」


 聖菜が現れたとしても別口から逃げられると判断した燐里は、もう一度、聖菜の姿がない事を確認してから、遊具に入り込んだ。


「ふぅ…」


 安全を確認して落ち着いてから、燐里から出てきた感情は後悔だった。


「赤点回避とはいえ、使うんじゃなかったなぁ、あの魔法」


 燐里は頭に手をやり、それから自分から漂う匂いに改めて後悔する。


「リルディの奴が魔法使いすぎるのよ…そうしたら、倒れる事もなくギリギリ吸収できて『戦意喪失』でごまかせたのに…」


 ぶつぶつと文句をこぼしてから、燐里は内部を改めて観察した。


「……」


 公園内で1番大きな遊具ではあるが子供が3、4人入れる程のスペースで中は何もない。


「…?」


 燐里は再度、左右にある出入り口を確認するが、誰かが入り込んできた様子もなかった。


「…」


 なのに視線を感じた。

 ねっとりと見つめる、燐里にとっては危険な聖菜の視線が


「!」


 視線の元が頭上からだと気づいた時にはもう、聖菜が降ってくる瞬間だった。


「うふふふふふ。みーつけた。そして捕まえた、燐里ちゃん」


 気がついた時にはもう、聖菜の生暖かくて柔らかい感触が燐里を捉え、覆い被さっていた。


「せせせ聖菜、どうやって潜んでたの?入った時、気配すらなかったのに」

「内緒」


 逃れられる隙はないか、燐里は手足を動かすものの、まるでタコかスライムのように、燐里の全身をねっとりと密着し、身動き1つ取れない。


「うふふ」


 聖菜は軽く起き上がり、経緯いきさつを話した。


「静馬君から連絡あったの。燐里ちゃんが落ち込んでいるから、慰めてくれって。

 しかも静馬君は急用があるから、邪魔…じゃなくて2人だけで過ごせるの」


 どう考えても監視役の針田が静馬のスマホを借りて送信したとしか思えない内容だった。

 救助の見込みのない、今燐里は『絶体絶命』の言葉しか思い浮かべない。


「さあ、燐里ちゃん。お姉さまに身を委ねてごらんなさい」


 身を起こしていた聖菜がゆっくりと燐里に沈み始める。


「せ、聖菜、慰めの意味、間違ってない?」

「やあねぇ、燐里ちゃん。心配しないで

 もちろん『身も心も全て』に決まっているじゃない」


 吐息が燐里の頬に触れ、それから耳に向かった。聖菜は唇だけで、はむっと燐里の耳たぶを軽く挟み感触を味わう。


「今日の燐里ちゃん、良い匂いがする」


 聖菜の顔が耳から燐里の頭部に移動し、どこまでも柔らかく大きな胸も移動する。


「うふふ、良い香りの燐里ちゃんに、聖菜、もう、我慢ができないわ」


 聖菜の顔が密接したまま燐里の前まで移動し、そのまま唇に触れる。


「……」

『さて、ファイナルアンサーといこうか』


 触れる直前で、針田の声が耳ではなく脳内から聞こえた。


『白状すれば、助けてやる』

「ファイナルアンサー、白状します。するから何とかして」

「良いだろう」


 針田の声が耳から聞こえた直後、聖菜の姿が消えた。


「あれ?」


 起き上がって遊具内を見渡すと、心配そうに見つめる ましず と、その肩にとまるハリネズミがいた。

 針田の小さな手には黒い星の形をした板がある。


「檻の魔法と幻覚を見せて自白に追い込む、灰色一族のマジックアイテムだ」

「じゃあ聖菜は?」

「聖菜? 燐里をここに追い込むまで協力させたけれども、公園にはいないよ」

「悪い幻覚を見せる効果があるからな、お前の脳内にある『恐れ』が聖菜となったんだろう」

「良かった」

「大丈夫、燐里? 幻覚とはいえ、また、うちの聖菜がやらかしちゃったね」

「ましず が謝る事はない、悪いのは誰だ?」

「はいはい、私ですよ。針田さん」

「ならば話せ。

 リンリ・ガデバウム、未申請の魔法を申告してもらう」


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