すごく読ませてくれる文章でした。言葉がすっと入ってきて、心地よくスラスラと読める。
優しさと品のある筆致で、不思議で綺麗な世界を見せてもらいました!
全体を通して、詩的で静謐な文体が非常に印象的で、
地の文や対話文が過剰に説明的になることなく、「わからなさ」や「余白」をそのまま残してくれるのがとても心地よかったです。
特に感情や成長の描き方が秀逸で、言葉ではなく、行動や表情、空気感を通して心の動きが伝わってくる描写に何度も引き込まれました。
物語を通して心に残るのは、やはり笹原隆太という存在ですね!
自由で不思議で、少し夢の中のような雰囲気をまといながらも、自分の軸をしっかりと持っている。
そんな彼が、時に“案内人”として誰かを導き、また“見守る者”として静かに寄り添ってくれる。
そして、彼と出会った人たち──等身大で描かれる美夏や村田たちは、彼との時間を“思い出”として胸に抱きながら、それぞれの歩みを続けていく。
笹原が思い出に残ることで、読者目線でも登場人物たち自身が深く心に残る。
それがこの作品の素敵な循環であり、物語全体にあたたかな余韻を与えてくれてると感じました。
読み終わったあとの余韻が心地いい素敵な作品でした!
わずか数話のなかに四季折々の情緒を感じます。これは比喩ではありません。豊富な情景描写により、時間を越えた体験を読者に与える作品です。
物語は主な二人と関わりのある人たちで構成されており、サブタイトル毎に違った世界へ案内してくれるものです。あらすじにも書いている「おかしな男子」――彼が世界の中心であるのは間違いありませんが、同時に相方(?)である実夏の存在の大きさも捨て置けません。幻想的な、でも情景が見えるほど具体的な、そんな不思議な場所へ彼が連れていってくれる傍らで、彼女の抽象的な感情がうまく対比していると思いました。この辺りの繊細さは青春小説たらしめる立派な要因のひとつです。また基本的に彼女視点で書かれていることも多く、切り替えを繰り返す視点の使い方も上手いと思いました。視点の使い方のひとつに「おかしな男子」の心情を少なくしている点も、私的には面白味がありました。本人の独白よりも、他人から見ることによって彼のミステリアスな雰囲気が一層際立っています。
また、私は本作の文章を「独特の文体」だと感じています。描写不足でも冗長でも無く、読者に臨場感と没入感を与えるほど書いていながらも、一方で竹を割ったように切り替えている。そんな文体だと思いました。さらっと夢から覚めたような進行だからこそ、夢のような世界に印象が残るのだと考えています。
様々な世界を演出する能力が高く、「臨場感、没入感」という言葉を上にあげましたが、第一話からすぐに惹きこまれます。
各エピソードに組み込まれているささやかなメッセージも素敵なものです。短編連作として、ぶつ切りではなくラストまで話は上手く繋がっておりました。読んでいる途中のわくわくはファンタジーさながら、そして読み終わった後のさわやかな感動は青春ドラマそのものでした。とても素晴らしい小説でした。
僕は心を打たれて歌詞を送ってしまうほど、この話が好きだ。
そして歌詞を書くにあたって、穴が空くほど読んだ。六周はした。
この話のエッセンスはすべて歌詞に注ぎ込んだので、そちらを見てほしい。物語の最後に、優しい作者がエンディングテーマとして採用してくれたぞ。しかも、作中でも引用されて一粒で二度美味しい。感涙。
で、レビューでは何を書こうかと迷ったのですが、僕なりに考察したいことが出てきたので勝手に考察します。
それは、
『何故、笹原は学校(勉強)が嫌いなのに給食は好きなのか』
ということ。
普通に考えて、学校は嫌いだけど給食が好きって子はたくさんいると思う。そこを深堀りするのかという意見も真っ当だと思う。しかし、笹原は孤独だ。一人だけ時を超えられる能力を持ちながら、普通の人と交わることは出来ない。
以下、作者が僕の歌詞に送ってくれたコメントより抜粋。
「笹原の孤独は、二度と戻らない時間 ― たとえば、美夏やその他の友人が過ごす青春の時とか、登山家の山下が失ってしまった友人との時間とかを見守ることはできるのに、いつも彼は傍観者。結局は、彼らとともに生きることはできないということを知っているからだと思うのですよ。」
以上から導き出した結論は、
「笹原って未来がないんじゃないのかな」
ということでした。
勉強って、未来のためにしますよね。でも笹原は、時間を行き来できるために、今、この瞬間にしかいられない存在なんだと思います。普通の人が持っている、一方通行の時間の流れがないために、過去も未来も持ってはいない。だから、未来のためにする勉強に意味を見いだせず、なおかつ現在を楽しむ給食やカラオケなんかは大好きというカラクリなんじゃないかなと思いました。
長くはなりましたが僕が一番言いたいことは、今を生きるって美しいなということです。それが分かっただけでも、この話を読んでよかったと思いました。
学校嫌い(でも給食は好き)なイケメン中学生、笹原隆太。
時を自ら飛び越えたり、もしくは誰かを飛び越えさせたりする不思議な力を持つ彼が、迷い、悩みながら生きる人たちにそっと寄り添い後押しする、温かな青春小説です。
季節ごとにエピソードが区切られていますが、どこを読んでも瑞々しく爽やかな情景描写を堪能でき、とても心地よい気分にさせてくれます。描写の勉強をしたい方におすすめです。
どのエピソードも読みやすいだけでなく、ささやかなメッセージ的なものも込められているように窺えます。読み手によって気に入りのシーンや心に残るフレーズが分かれそうで、どこに惹かれるかというのも興味深いですね。
個人的には、1話で隆太が言った「人間は忘れる、いや忘れられる。それってすごい機能なんだ。」というセリフが特に印象に残りました。
時が経てば、人は過去の様々なことを良きも悪きも含めて(全部ではないにしろ)忘れてゆくけれど、人は忘れることが出来るからまた新たに覚えることが出来るし、新たな時へと一歩を踏み出せるのでしょう。
笹原隆太は、その場所その場所で時を見据える存在なのでひとところには留まれないようですが、彼と過ごした温かく不思議な時間は、みな時を越えても決して忘れることなく、それぞれの胸に残っていることでしょう。