五章 死刑と監禁、でも真相は……3

 *



「さあ、君たち待望のベリーヒトだ。三人、仲よくしたまえ」


 脱獄犯二人をベリーヒトのいる室内にたたきこんだフローランは、ほっと息をついた。


 これで、まもなく三人まとめて始末できる。

 秘密は永遠に保たれるのだ。


(姫さまには、なんと言って、ごまかそうか。最初の予定から、ずいぶん、それてしまったからな)


 予定では、殺人犯は拘留中に脱走し外国へ逃げた、という筋立てになるはずだった。


 なのに、何を勘違いしたのか、ベリーヒトは変なことを言いだすし、逃亡犯は舞いもどってくるし、どうにも事態が、ままならない。


 フローラン自身もおどろいているうちに、ずいぶん、シビアなことになってしまった。


 無実の彼らには申しわけないが、ここまで来たら、ほんとに死んでもらうよりあるまい。


(秘密を知られてしまったんだ。彼らを生かしておくわけにはいかない)


 なぜ、こんなことになってしまったのだろうか。

 姉が死んでから、悲しいことばかりが続く。

 昔は、あんなに幸福だったのに。


 みんなが笑っていた。

 姉も、王も、姫も、民も、臣下も……フローランも。


 できることなら、あのころに戻りたい。

 でも、それはゆるされないのだろう。


 失った幸福をとりもどそうとあがくのは、おろかな行為だと、やっと気づいた。今となっては止められないが。


 階段をおりたところで、柱のかげから、マルグリーテが現れた。


「うまく行ってるようね」

「ああ。たったいま、逃亡していたミケーレと、もう一人の男を捕まえたよ。姫さまと小間使いは、武器庫に」


 マルグリーテはため息をついた。


「なぜ、帰ってきたのでしょう。あのまま逃げてくれれば、犠牲が少なくてすんだのに」

「そうは言っても、弟のことだ。ベリーヒトを見すてられなかったんだろう」


 マルグリーテはだまりこんだ。

 家族を不慮の死で亡くす悲しみは、彼女には痛いほど理解できるはずだから。


 半年前、猟奇殺人犯に殺されたのは、マルグリーテの妹だ。犯人を捕まえたいとマルグリーテが言いだしたことから、すべてが始まった。


 マルグリーテはフローランにとって幼なじみであり、姉の親友である。マルグリーテの妹ヴィオレッタをふくむ四人で、子どものころは、よく遊んだ。


 ヴィオレッタの死は、フローラン自身にも、ひじょうな悲しみだった。


 活発な姉やマルグリーテと違い、おっとりして、ひっこみじあんだったヴィオレッタ。


 大きくなったら結婚しようと、シロツメクサで作った指輪を交換したのは、十さいのとき。

 でも、大人になった彼女は、もういない。


 フローランは心ひそかに誓っていた。

 マルグリーテは犯人を捕まえるだけで満足のようだが、おれは違う。犯人を捕まえたら、自分の手で殺してやろうと。


 でも、できなかった。

 調べるうちに、ある事実に気づいてしまったから……。


(たった一つの愛が消えただけで、次々に大切なものが失われていく。あのころは、よかったな。みんなが笑っていられた。あのころに戻れたら……)


 フローランは悲しみに沈みそうになる自分を叱咤するために、マルグリーテを励ました。


「私だって、つらいんだ。でも、これ以上、こんなことを続けていくわけにはいかない。そうだろ? 誰かが終わらせないと」


「そうね。これ以上、家族を失って悲しい思いをする人を増やすわけにはいかない。ベリーヒトたちには悪いけど」


「いざというときには、すべての罪を私が引き受ける。それで丸く収まるなら、そのほうがいい」


「アネル。あなたが花嫁姿のヴィオレッタとならぶところ、見たかったわ」

「それは言わない約束だ」


 フローランはマルグリーテと別れた。


 処刑の時間まで、まだ気をぬくことはできない。

 彼らは、ひどく、事をかきまわす。おとなしくしていくれればいいのだが……。



 *



「やりましたぁ。姫さま。外に出られますよぉ」


 シャルランです!


 キイッと扉がひらくのを見て、姫さまは、あんぐり口をあけています。

「まさか、シャルラン。ほんとに、あけちゃったの?」


「え? だって、扉は鉄だけど、かんぬきは木でしたよ。ほら、体当たりで、まっぷたつ。このていどで、シャルランを閉じこめようなんて、甘いです」


「シャルラン、ケガしてない?」

「えっ? ぜんぜん、へっちゃらですよ?」

「…………」


 どうしたんでしょうねえ。姫さま。なんで、そんなにおどろくんでしょう。


「シャルランって……頑丈なんだね」

「はい! 元気は自慢です。さ、出ましょう。グズグズしてると、フローランさんが来ちゃいますよ」

「うん」


 ようやく武器庫をぬけだして、ほっと、ひといき。


「問題は、これからですよねぇ。どうやってご主人さまを助けましょうか」


 姫さまは考えこみました。

「お父さまにたのんで、ベリーヒトの処刑をやめてもらえば? 真犯人はフローランだって教えてあげれば、お父さまだって納得するわ」


 そう言う姫さまは、少し悲しそうでした。

 大好きな叔父さんが人殺しだったなんて、信じたくないですもんね。


「いいんですか? 今度はフローランさんが死刑になっちゃいますよ?」


「でも、しょうがないよ。悪いことしたんだもん。身代わりになって、関係ないベリーヒトが死ぬなんて、絶対、おかしい」


 姫さまはローズちゃんを抱きしめました。ローズちゃんが小さな手で、姫さまの涙をぬぐいます。


「ありがとう。ローズ。わたしは平気よ。あなたを作ってくれたベリーヒト。必ず、助けなくちゃ」


 あたしたちは王さまを探すことにしました。

 ローズちゃんが言います。


「ねえ、姫さま。王さまなら、あずまやにいるよ」

「なんで、わかるの?」と、姫さま。

「ローズの本体が見てるのぉ」


 そうでしたね。ローズちゃんは王宮の薔薇の木でした。


「お父さま。薔薇園がお好きだから」

「姫さまも好きですよね?」

 あたしが聞くと、姫さまは、こう答えました。


「もともと薔薇はお母さまが好きだったのよ。香水も、いつも薔薇。だから、あそこに行くと、お母さまのことを思いだすの」


 そうだったんですか……。


「じゃあ、薔薇園に行ってみましょう。姫さまの言葉なら、きっと王さまも信じてくださいます」


 よかった。ご主人さま。どうにか、まにあいそうです。お日さまは、まだ真上じゃありません。

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