五章 死刑と監禁、でも真相は……
五章 死刑と監禁、でも真相は……1
「じゃーん。見てよ。これが、わたしだけが知ってる秘密のぬけ道よ。マルグリーテも知らないわ」
得意げに姫さまが指さしたのは、つる草におおわれた城壁でした。ツタがからんで外からは見えないけど、子どもなら通れるくらいの小さい穴があいています。
「これって、ぬけ道というより、ただの城壁の傷みでは……」
「そうとも言うかもね。ここから、たまに、こっそり町へ出るの。と言っても、ちょっと、そのへんを散歩するぐらいだけどね。港まで行ったのは初めてだったから、楽しかった!」
手配中の罪人だってこと、忘れてますよねぇ、姫さま。
「じゃあ、まあ、ここから侵入しちゃいましょう。あたしは姫さまより苦労しそうだけど、なんとか通れると思います」
なれた感じで、姫さまは城壁のやぶれめに入っていきました。あたしもヘビさんになったつもりで長細くなって、どうにか通りぬけました。あちこち、ひっかかって大変だったけど。
「ふうっ。お洋服がドロだらけ!」
こんなカッコ、エイリッヒさんには見せられませんねぇ。お化粧も台なし。
「では、ご主人さまを見つけましょう。きっと地下牢ですよね。また、あの礼拝堂のところから出入りしますか?」
「礼拝堂は昼間だから、人がいると思うのよね。大丈夫かなぁ」
二人で、とことこ庭を歩いていると、あら不思議。バッタリ、フローランさんに出会いました。
「姫さまではありませんか。ご機嫌うるわしゅう。お散歩ですか?」
フローランさんはふつうに、あいさつしてきます。
変ですねぇ。もしかして、姫さまがお城から追いだされたこと、知らないんでしょうか?
姫さまがたずねます。
「……そうよ。散歩中よ。そういうおまえこそ、こんなところで何してるの? この時間なら執務のはずでしょ?」
フローランさんは、てれ笑いしました。
「そこは、いろいろヤボ用ってものがあるんですや。大人にはね」
「まーた小間使いをくどいてたのね。あんまりサボってると、いくらおまえでもクビになっちゃうから」
「いえいえ。自分で言うのもなんですが、私は有能なんです。左大臣さまが手放すはずがありません。それにしても、姫さま、なんですか? その町娘みたいな服装は?」
「ごっこ遊びよ。わたしはお金持ちの町娘。いじわるな継母に命をねらわれて逃亡してるの。どう? 似合うでしょ?」
姫さま、ずいぶん、フローランさんと親しいですね。いかにフローランさんが左大臣の補佐官で、高位の貴族でも、姫さまは次の女王さまになるおかたです。なれなれしすぎるのでは?
すると、フローランさんが言いました。
「お似合いですよ。姉さんの子ども時分に、そっくりです」
思わず、あたしは口を出しました。
「姉さんって、誰ですか?」
あっ、しまった。変装がバレたらいけないから、だまっとこうと思ってたのに。
でも、フローランさんは、あたしだと気づかないみたいです。
「新入りの侍女かな?」
「ええ、まあ……」
「だろうね。私が亡き王妃の弟だということは、城内では有名な話だ。古参なら誰でも知っている」
姫さまも言いました。
「そうなの。フローランは、わたしの叔父さんよ」
ああ、どうりで親しいんですね。
あたしと仲よくなるのも、それなりに、きっかけが必要だったのに、姫さまはフローランさんに、こんなになついてる。姫さま、フローランさんのこと、好きなんですね。
「そのおかげで私は貴族にとりたてられ、ありがたい毎日を送っている。持つべきは美人の姉ですね」
そういえばお妃さまって、庶民出身でしたっけ。
なるほど。フローランさんも、もと庶民ですもんね。
そういうことですか。出世のかげに、強力なコネありです。
姫さまは、むくれています。
「だからって言っていいことと悪いことがあるわ。どうせ、わたしは美人のお母さまには似てないもん」
フローランさんは苦笑しました。
「そんなことはありませんよ。ほんとに、姫さまは姉に生き写しです」
「似てないもん。お母さまには、ソバカスなんてなかったし」
「姫さま、知らなかったんですか? 姉は
「えっ? で……でも、お母さまは、わたしみたいにお鼻が上をむいてないわ」
「姉さんの子どものころのあだ名は、“可愛い子ブタちゃん”ですよ。いや、ほんと、わが姉ながら、大人になって、あんなにチャーミングになるなんて、子どものころは思ってませんでした。ケンカのたびに、あだ名のこと、からかって、なぐられてましたっけ」
えっ? なぐ……?
なんか一瞬、これまでの王妃さまのイメージが大きく損なわれる言葉が聞こえましたけど……。
フローランさんは昔をなつかしむような目をしました。
「姉さんのパンチは、すごかったなぁ。キックは、すでに武器の域ですからね。レディーになってからは猫かぶってたから、王さまはご存じないだろうなぁ」
ええ……優雅な白薔薇じゃなかったんですか? ちょっと、ガッカリです。
フローランさんは急にため息をつきました。
「もちろん、そんな姉でも、私は大好きでしたよ。強くて、カッコよくて、頭もよくて、なんでもできる自慢の姉でした。
だから、陛下に見初められて、王室に嫁ぐことになったとき、ほんとは反対だったんです。身分の違う結婚は、苦労が多いと思ったので。姉には幸せになってもらいたかった」
そこで、なんで考えこむんでしょうね。
「……まあ、結果的に、姉は幸せだったんでしょうね。あんなにも陛下に思われて、臣下にも慕われ、愛する娘を授かった。病気で亡くなったのは残念だけど、それは天命だから」
フローランさんは、また急に物思いからさめました。
「おっと、さすがに、もう執務にもどらないと。姫さまもご自室に帰ってくださいよ。地下牢から囚人が逃げだして、今日は城内も物騒なんです。まだ、どこかにかくれているかもしれない」
姫さまは、ここで大きな賭けに出ました。
「ところで、ベリーヒトが捕まったって聞いたけど、ほんと?」
「ええ、まあ。誰ですか? 姫さまに、そんなこと話したのは」
「いいから教えて。ベリーヒトは、どこにいるの?」
「なんで、そんなこと、姫さまが気になさるんです」
「ベリーヒトはお人形を作ってくれたからお礼が言いたいのよ。重い罪で捕まったらしいから、今のうちに……」
フローランさんは困ったような顔をしました。
「いかに姫さまのたのみでも、罪人に会わせるわけには……」
「そこをなんとか。おねがーい。おねがーい。おねがい聞いてくれないと、泣いちゃうぞ。それで、みんなに、フローランがいじめたって言いふらすわ」
「それは、ちょっと……出世にひびきますので、カンベンしてください」
「じゃあ、いいでしょ? おねがーい。おねがーい。」
「ああ、もう。ほんとに姫さまは、性格まで姉さんにそっくり……わかりましたよ。みんなにはナイショですよ?」
「わーい。ありがとう。フローラン、大好き」
「はいはい。どうせ、言いなりだからでしょ? しょうがない。ついてきてください」
やりましたね、姫さま。
これで、ご主人さまに会えそうです。
あたしたちは喜んで、フローランさんについていきました。
しばらく庭を歩いていくと、古い石造りの建物がありました。けっこう頑丈そうな大きな建物です。
「こんなところにベリーヒトがいるの?」
姫さまの問いに、フローランさんはうなずきます。
「ベリーヒトは重罪人なので、極秘で、ここに移したんです。ここは昔、戦で使った旧式の武器を保管している場所なので、ふだんは誰も近よってきません」
「見張りがいないけど」
「見張りがいたら、居場所を教えてるようなものじゃないですか。ご安心を。ちゃんと物陰から見ています」
ふうん。そういうものですか。
武器庫の入口は重い鉄の扉に守られていて、錠前は見あたりません。そのかわり、太い木のかんぬきがかけられていました。フローランさんが、かんぬきを外します。
「さあ、どうぞ」
扉をひらいて、フローランさんが言うので、あたしと姫さまは、なかへ入っていきました。
「なんだかホコリっぽいわねぇ。こんなところに、ほんとにベリーヒトかいるの?」と、姫さま。
たしかに、ずいぶんホコリっぽいです。
なかには古い大砲や車輪のこわれた戦車などがありました。が、ご主人さまの姿は見えないような気がするんですよねぇ。
と、そのとき、背後で、入口の扉が音をたてて閉ざされました。
「あ、ちょっと? フローランさん?」
「なんのつもりよ! フローラン」
あたしも姫さまもビックリして、扉をあけようとするけど、ビクともしません。
扉のむこうで、フローランさんの声がしました。
「悪いですね。しばらく、そこにいてください。泣きわめいても誰も来ませんから、ムダですよ」
なんてことでしょうか。
あたしたちは、だまされたのです。
まったく、このお城はどうなっているんでしょう?
いい人だと思うと、みんな裏切ってくれますよ?
「心配しなくても、食事は持ってきてあげますよ」
フローランさんの去っていく足音が聞こえました。
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