第77話『あたしの悪い癖』 

せやさかい・077

『あたしの悪い癖』 





 Aさんの名前は朝比奈くるみ。


 なんでAさんと言うたかというと、堺に来るまでのことは意識の底に沈めときたかったから。


 むろん、あたしの頭も心もパソコンとちゃうさかい、アンインストールとか削除いうわけにはいかへん。


 せやさかい、Aさん。


 せやけど、コトハちゃんが――さくらちゃんに会いたいってサインじゃないかなあ――と言う。


 あたしの心の中で『Aさん』は『朝比奈くるみ』さんに再変換された。



 ちょっと長めのメールを打った。気遣ってくれたことへのお礼と、朝比奈さんのメールがあるまで事故の事はもちろん、堺にダンジリがあったことも知らんかったことを書いた。


 お祖父ちゃんが言うてたダンジリ保険が面白いので、その話も書いた。朝比奈さんとの思い出もいくつか。


 そして――月末の日曜にでも会われへんやろか――とも書いた。むろん絵文字とか使いまくって。



 一晩置いて返事が返ってきた。



 月末は家の用事があるので、またいつか会おうね。そういう意味の返事で、最後に靴の写真が添付されてた。


 ホワイトで赤のラインがええアクセントになってる。


 趣味のええスニーカーやなあ……しばらく眺めて……気ぃついた!



 中学になったら御そろいのスニーカー買おうね……約束してたんやった(-_-;)



 約束だけやない、二人で商店街の靴屋さんのショーウインドウ見て「このスニーカーええね!」言うたときのスニーカーやった。


 考えてしもた。


 朝比奈さんは、遠まわしに、あたしを非難してるんとちゃうやろか。


 会いたいと分かってるのに、あたしは電話とちごてメールで済ませた。朝比奈さんは、きちんと靴の事まで憶えてたのに、あたしは趣味のええ靴やなあとしか思えへんかった。


 やっぱり電話しよか?


 いっしゅん思うんやけど、なんや気後れが先に立ってしもて……ま、今夜はええか。




 一日延ばし……あたしの悪い癖。


 


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