第4話 神隠し
ソウセイは辰巳の両肩を掴み見つめ始める。彼は理由が分からず立ち尽くしている。
「妹さんが行方不明なのは本当なんだな!」
彼は頷く。本当なら、そうしたくないはずなのだ。しかし、彼は頷いてしまった。彼女の真剣で気迫のこもった目に頷かざるを得なかったのだ。
「あの映像と関係あるかもしれないんだ!」
「えっ……どういう事です?」
「こんな所では話せない。誰が聞いているか分からない。そうだ! 君?」
「はい」
「ここから一番近いのは君の家だ! そこで話そう」
「いやぁ……それは」
そう彼が言うと彼女は再び彼の手首を掴む。そして、彼女は彼を引っ張っていく。
一人暮らしの彼アパートの部屋の前まで来ると彼女は鍵を開けるように顎で促す。彼が開けると彼女は彼を引きずり込むように入っていく。後に続いていたミナミも入る。それを確認すると彼女は鍵を閉める。
「君、入ってもいいか?」
「もう入ってますが」
「部屋の中に入っていいかを聞いているんだが?」
「……あっ、はい」
そう彼が言うと彼女は靴を脱ぎ入っていく。ミナミが後に続く。彼は玄関で茫然と立ち尽くしている。すると彼女が入るように促す。
これじゃどっちが部屋主か分からないと思いながらも彼は靴を脱ぎ入る。中へ進むと左が座卓の前に立っている。その前で彼は立ち止まる。
「どうした? 君。座らないのか?」
そうソウセイが言った。
「あっ……飲み物お持ちしますね」
「あっ、そうか」
辰巳は逃げる様に冷蔵庫の前まで行く。そして、それのドアを開き中を見る。その中にはペットボトルの500mlのミネラルウォーターが2本しか入っていない。彼は指3本で挟み持ち上げる。そして座卓の前へ戻る。
「これどうぞ」
そう言うと彼はミネラルウォーターを二人の前にそれぞれ置く。するとミナミがキャップを
「座らないのか?」
そうソウセイが言った。彼はハッとはなるが座らない。二人は目が合う。彼女が首を傾げる。そうしたが彼女は目を逸らすことはない。
「部屋の主である君が立ったままでは私たちは気まずいんだがな、君」
そう彼女が言うと彼は夢から醒めたかのように彼女の言葉を受け止め腰を下ろす。
「君、早速で悪いだが妹さんの件を説明してはくれないか?」
そう言われた彼は唇を隠す。そして俯く。二人からは座卓で見えないが彼は2つの握り拳を作る。3人に沈黙が流れていく。ミナミが沈黙を破る。
「ソウセイ分析官、私が説明しますよ」
そう彼が言うとソウセイに説明を始める。辰巳は俯き始め両手で拳を作る。彼は意識を散らせて耳に入らないようにしている。しかし、実際には聞こえてこないと思い込んでいるだけで、耳からは言葉が入ってきてしまう。
彼は当時の様子を思い出してしまう。小学生だった夏休みだった。彼と妹は両親と共に母親の実家に帰省していた。彼と妹の2人は漁港行った。そして海に突き出したI字形の堤防で海を眺めていたのだ。
彼は尿意を
彼は堤防の
警察や消防などにより捜索が行われた。その上、海上保安庁の巡視艇による海での捜査も行われたが妹は見つかる事はなかったのである。
妹の件は連日に渡りテレビや新聞で大々的に報道された。情報提供を求める特番まで組まれた。情報が多く待ったが、それは売名目的のガセネタばかりだったのだ。それも、そのはずで実際の当事者は辰巳1人しかいなかったのだから、それもそのはずである。
妹の件は今でも、メディアが名付けた神隠し事件として話題に上がる。特にネット上では神隠しとして最も有名な1件である。動画配信サイトでは視聴数を稼ぎ続けている。
彼は妹を1人残した自分を責めた。どうして手を繋ぎ一緒に行かなかったのだと。大学生になった今でも1日に1回は思い出す。忘れたくても忘れられないで、囚人であるかの様に彼をきつく縛(しば)り続けている。
ミナミが一通りの説明を終えた。辰巳は自分の太股を強く叩き続けている。その音に2人は気づく。すると、ソウセイが立ち上がり、そうし続けている彼の手首を掴む。
辰巳が顔を上げ、ゆっくりと目を開ける。すると、ソウセイと目が合う。彼女の瞳は潤んでいるように彼には見える。彼は金縛りにでもあった様に動けないでいる。
ムゲンセン 涼風岬 @suzukazeseifu
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