第八話(エピローグ)
「ただいまリリィ」
その日、ダベンポートはグラムを連れて帰宅した。
手には小さな籐の籠を下げている。
「お帰りなさいませ、旦那様」
すぐに奥からリリィがパタパタと走ってくる。
「まあ、グラム様もご一緒なんですか?」
「こんばんは、リリィさん」
厳ついグラムが微笑むとどこか怖い表情になる。だがグラムにはもう慣れたのか、リリィは怖がる様子も見せずに
「こんばんはグラム様」
と少し片足を引いて両側のスカートの裾を持ち上げた。
「リリィ、君にプレゼントがあるよ」
ダベンポートはコートを脱ぐよりも早く、リリィに手にした籐籠を差し出した。
「プレゼント?」
リリィが不思議そうな顔をする。
「中を見てごらん? 扉を開けてやってくれ。相当退屈しているようだ」
「はい……」
言われてリリィが床に下ろした籠の扉を開ける。
「ニャア」
中から出てきたのは毛玉のような黒い猫だった。黒い猫の毛皮は艶やかで、尻尾はまるで羽根ばたきのようだ。
「まあ、キキ!」
リリィが歓声を上げる。
キキは広げたリリィの手の中をするりと抜けると、早速周囲の探索を始めた。
「キキは今日から君の猫だ」
嬉しそうにしているリリィにダベンポートが微笑みかける。
「でも、どうして」
リビングの中をフンフン嗅ぎ回っている黒猫を目で追いながらリリィはダベンポートに訊ねた。
「なに、飼い主が亡くなってしまったのでね。引き取ってきた」
+ + +
「しかし、あれは結局なんだったんだ?」
リビングで食後のブランデーを楽しみながらグラムはダベンポートに訊ねた。
グラムは今日も飲み過ぎている。リリィのお酌でワインを飲んだグラムの顔は赤かった。
「♪〜」
階下からリリィの鼻歌が聞こえる。キキはどうやらリリィについて行ったようだ。姿が見えない。
「結局、事の始めは
ダベンポートは紅茶のカップを傾けるとグラムに話を始めた。
「サル?」
グラムがダベンポートに聞き返す。
「ああ」
ダベンポートは頷いた。
「カーラ女史は自分の研究の一環としてサルを飼っていたのさ」
カップをソーサーに戻し、話を続ける。
「カーラ女史はさ、動物の知能向上を研究テーマにしていたんだよ。その題材が飼っていたサルって訳さ。サルはカーラ女史に良く懐いて、どうやら女史に従って歌をうたうまでになっていたらしい」
「…………」
「ところがだ」
ダベンポートは人差し指を立てて見せた。
「それに目をつけたのが魔法院だよ。魔法院はカーラ女史に研究レポートの提出とそのサルの引き渡しを命じたんだ」
「おいおい、ひどい話だな」
グラムが眉をしかめる。
「ああ、全くね。そのサルは結局、その後何も食べずに死んでしまったそうなんだが、サルの死骸を受け取った時のカーラ女史の怒りは想像するに余りある」
ダベンポートはもう一口、お茶を啜った。
「そこからが復讐劇の始まりさ。まずカーラ女史は魔法院を辞めた。そしてセントラルに引っ越すと手頃な猫を拾ったんだ」
「それがあの黒猫って訳だ」
「そう。だが、猫は歌をうたわない。そこでカーラ女史は首輪に細工をして猫に歌をうたわせた。魔法院の注意を惹きつける為にね」
「音速の操作ってさっきお前が言っていた、『歌う猫』のからくりってやつか?」
「ああ」
ダベンポートが首を縦に振る。
「音速を変えれば音階も変わる。これを利用する事でカーラ女史は猫に歌をうたわせたんだ。で、あとは君の知っている通りだ」
「魔法院は『歌う猫』に興味を持ち、そしてカーラ女史に猫を差し出すように要求する……」
「まったく、魔法院もひどい機関だよ。まあ、人の心が残っていたら到底務まらない組織だな。まあともあれ、カーラ女史は魔法院を中心にして疫病を流行らせそうとし、それをギリギリで防ぐことができたと、まあそういう事さ」
「冗談にしてはキツすぎるな」
グラムが腕を組む。
「まあな。中でも黒死病が一番ヤバい。コレラや炭疽病ならまだなんとかなるかも知れんが、黒死病は止められないよ」
ふと、ダベンポートはキッチンの水音が止まったことに気が付いた。
「リリィ?」
階下のリリィに声をかける。
「はい」
すぐにリリィがトタトタと階段を上がってくる。
その腕の中には黒い猫が心地好さそうに収まっていた。
「やあ、もう懐いたのか」
ダベンポートの顔に笑顔が溢れる。
「キキを引き取るのは一苦労だったんだ。リリィ、その子の事はよろしく頼むよ」
ダベンポートは魔法院の特免状をリリィに差し出すと、黒猫の頭を優しく撫でた。
「何しろ、飼い主の最期の願いだ」
──魔法で人は殺せない10:歌う猫 完──
【書籍化】魔法で人は殺せない10 蒲生 竜哉 @tatsuya_gamo
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