第11話 魔物急襲
食事から数時間後。
メイは乗り合い馬車の屋根で横になり、星空を眺めている。
( あれがオリオン座、北斗七星、
同じ様な星座が見える。
そこから推測するに、この世界はパラレルワールドなのか、反対側の
メイは仰向けに寝転がっている。
普段なら布団にくるまっていたであろうが、なんだか眠れないのだ。
ここまで来る間に4~5時間も寝ていれば当たり前だが。
キラキラと煌めく幾千もの星々に、少しばかり胸をときめかせる。
( こんなに綺麗な星空は久々に見たなぁ…。)
メイが住んでいた故郷『東京都』は、空気が綺麗と言える状態ではなかった。
それに、『電気』が夜空を明るく染め上げる。
綺麗な星空を見るのは何年ぶりになるのか。
──ガサッ...。──
ハッとし、上半身を起こす。
不覚。
余りに平和な一時に、油断していた。
「敵襲ーッッッ!!!」
ピィイイイイイッッッ
荷馬車を見張って居たのであろうメリルの声と指笛が響いた。
「カンジュさんっ!マークスさんっ!危ないっ!!!」
メイは乗合馬車の上から叫んだ。
声に気付き、街道沿いで寝ていたカンジュとマークスは寝ぼけ眼ながらも飛び退いた。
そして二人が居た場所に叩き落とされる二対の巨大な石斧。
ドゴォン!!!
轟音を撒き散らし、石斧は地面に突き刺さった。
街道沿いの森から出てきたのは二匹の巨大な豚人間『オーク』。
そしてその下っ端であろう大量の、牙の生えた大ナメクジ『スラッグ』、緑のゼリー状の『スライム』、禍々しい毒角を携えた羊『ゴート』である。
全部で100は下らない数だ。
「こ、こんな大軍どこから!?」
狙撃銃を構えながらマークスが叫んだ。
トリガーを引くと、重厚な音が響き、弾かれた銃弾は次々とスライムを破裂させていく。
「ふむ、つい最近アントランドの北に聳える『岩山丘』で、この様な魔物の小隊を発見したという情報は聞いておりますぞ。」
カンジュが青白く光る魔力の矢を1本クロスボウにセットする。
ドシュッと放たれたそれは、無数に分裂し、前線のスラッグ共に突き刺さった。
キィエエエエエイィイ!!!
貫かれたスラッグ達は、奇声を発しながらみるみるうちに萎んでいく。
そして、前線が無くなるのを見計らって猛スピードで突進してくるゴート。
「くっ!数が多すぎるっ!!」
苦言を呈すマークスに、一匹の毒角が迫る。
ガキィンッ!
制したのは二本の短剣。
「俺が守る!!打ちまくれぇっ!!!」
ザシュッザシュッと、一瞬の内にゴートを切り刻むリヒャルド。
「獄炎よ、我が操流に乗り、目標を灰と化せ!!」
『地獄ヘルズの炎牢フレイム!』
魔物達の足元から、炎が立ち昇る。
レヴィの得意とする火属性魔法だ。
高温の炎はレヴィの髪色と同じ紅蓮。
次々と魔物を包み、灰へと変えていく。
「うぉおおおお!!!!魔宝剣、『クリムゾン・エッジ』!!!」
メリルが前線を飛び越え、オークへと向かう。
刀身の根元にある真紅の宝玉が光り、同色の魔力刃が黒色の大剣の刃を覆う。
二対の石斧と接触。
そして巻き起こる爆煙と爆風。
( す、すごい…!! )
メイは眼前で巻き起こる戦闘に目を奪われていた。
『宵の三日月』のチームワークはかなり良い。
『
そしてトドメの火属性魔法。
ボスは近接戦闘に長けた『
前線を埋めていた魔物はもはや二十匹前後。
勝負は決まったも同然であった。
乗合馬車まで吹き飛ばされるメリルを見るまでは。
「ぐぁあああああああっっ!!!」
「「「「メリルッッッ!!」」」」
どうやら並大抵の力では勝てないらしい。
しかし彼等は歴戦のハンター。
その辺の魔物ならば倒せない筈の無い実力の持ち主。
「ハ、ハイオークだと!?」
吹き飛ばされた衝撃で肋骨を骨折したであろうメリル。
息を切らしながらも、彼が漏らした言葉にリヒャルドは驚愕の色を隠せない。
「おいメリル、ハイオークって言ったか!?」
ハイオークとは、オークの中でも上位種。
筋力も戦闘力もまるで違う。
伝説や神話の中では、彼等は群れを統率し、度々人間やエルフを襲っていた様な連中だ。
『ウガァアアアアア!!!』
一同は戦慄する。
ハイオークの更に背後から現れた、一回り大きな赤い人影。
「『オーガ』ですッッ!!!」
カンジュが冷や汗をかきながら叫ぶ。
どうやら二匹のハイオークと百幾匹もの魔物を率いていたのは『オーガ』と呼ばれる鬼の魔物。
オークよりも数段格上の魔物で、Bランクが十人束になろうが勝てないかもしれない。
「くっ、このままだとヤバいぜ!メリル!」
「あぁ、ここまでの様だな...。撤退だ!!!」
メリルはパーティリーダーとして、全員が生き残る道を選択した。
ハイオークは『宵の三日月』五人で一匹を狩れる強さ、それが二匹いる上に上位種であるオーガまでいる。
最早選択肢はそれしか残されて居なかった。
「ま、待ってくれ!!!荷馬車はどうなる!?!?」
騒ぎ立てたのは『行商人』ワンズ。
「倒してもらわなきゃ困る!!何の為に高いハンターを雇ったと思っているのだ!!!ふざけないでくれ!!!」
「『商品』と『命』どっちが大切なんだ!?あぁ!?」
食って掛かるワンズに、リヒャルドが一喝する。
これにはワンズも吐きかけた台詞を飲み込むしかなかった。
商品が届けられなければ商売は出来ない。
しかし、それは一時的な話。
命さえあれば、また商品を届ければ良いだけの事。
何度でもやり直せる。経費だし。
時間が無い。
撤収命令を出そうと口を開いたメリルの目の前に金髪碧眼の美少女がフワリと着地する。
「ワンズさん、『宵の三日月』の皆さん。ここは一つ、私に任せて下さいませんか?」
笑顔でそう言い切るメイに、一同は開いた口が塞がらなかった。
こんな時に、こんな少女に、いったい何が出来るというのか。
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