第六章 白魔女 vs 灰色猫
第1話 究極の呪文
近衛兵たちと姉を従え、皇宮の地下から地上に出てきた京志郎は、オペラグラス越しに見た白魔女と灰色猫の死闘に声を上擦らせた。
「うわぁ、
「京ちゃんっ、マウザーがどうしたっていうの? ……っていうか、それって、宝ノ塚歌劇を見るために、私がお小遣いはたいた高倍率のやつ! 何で、あんたが勝手に使ってんのよっ」
「知らないよ。作業袋に入ってたのを使ってるだけ……おっ、あっ、これはっ……へえっ、いいもん、見つけた」
オペラグラスをぽいっと姉に渡すと、京志郎は後ろに控えていた近衛兵長に命令する。
「ミラージュ! 今から部下を連れて、あの丘を登れ! 」
「はっ! ……然るに、皇帝陛下、あそこには、灰色猫に壊された”氷の塔”の瓦礫が積み重なっているだけだ。 おまけに、中腹では灰色猫と白魔女が戦いの真っ最中だ……危険を冒してまで、行く意図とは?」
京志郎は長身の臣下を下から睨めつける。
「ふぅん、別にいいんだけどさ。ミラージュ、お前って、最近、色々と僕に意見するよね」
「意見? と、とんでもないっ。”氷の塔”の素材にされた仲間を、復活させていただいた恩ある貴殿に、このミラージュ、一生涯、着いてゆく所存で!」
大げさに膝まづいたミラージュに鼻白んだが、京志郎は、
「落ちてるんだ」
「落ちている……とは?」
「あの瓦礫の中に、ジオラマキットの
京志郎は、丘の上をガン見している姉からオペラグラスを引ったくると、イケ面の近衛兵長にそれを手渡した。
「これでよく見て。お前の仲間は別のジオラマキットを使って作り直したけど、あそこに落ちているのは、灰色猫が氷柱の塔を壊した時に辺りに散らばって、魂が抜けたベーシックなフィギュアだ。けど、それがけっこう役に立つ。だから、四の五の言ってないで、あれを出来るだけ沢山、拾ってあつめてこい!」
作業袋をぽんと叩いて、不敵な笑みを浮かべた凄腕のモデラー、相良京志郎。
彼がちょいっと手を入れれば、無機質な塩ビのフィギュアだって、この魔法の国においては、たちまち命を吹き込まれる。
ミラージュはそれを即座に理解した。
「御意っ! 来いっ、パッシュフル、グランピー!」
その時、再び、オペラグラスを取り返した百合香が、甲高い声をあげたのだ。
「みんな、待ってぇ! 白魔女と
すると、辺りが突然、ホワイトアウトした。
真っ白に閉ざされた視界の中で皇宮の黒い影だけが朧に揺れている。
微かに血の臭いがする。その時、不意に上がった白魔女のヒステリックな金切り声。
不安で、不吉で、不穏。究極に嫌な予感!
堪らずに百合香が叫んだ。
「マウザー!! 逃げてぇええ!!」
外へ飛び出して行こうとした百合香を腕で引き戻したのは、近衛兵長ミラージュだった。
「姫! 俺は寛容な男だ。俺の妻になったとしても、束縛するつもりはないが、奴にだけは関わり合うのは止めろ! あいつが白でも黒でもない
「……名乗っている意味?」
「”灰色猫”という魔法使いが選択するのは、幸せをもたらす白魔法だけとは限らない。奴は、破滅と不幸を呼ぶ黒魔法の使い手でもある。よく聞け!
「グレイ・マウザーの心は……白と黒の混じりあった灰色」
それでも……。
少女は言った。
「彼は平和を願う魔法使い。私、信じてるの。そのことだけは、絶対に、絶対に変わらないわ!」
* *
「憎き
舞い上がる雪煙の中に、ようやく立ち上がった白魔女。両目を潰され、敵の居場所を見極めることができない白魔女は、出来得る限りの金切り声をあげて言った。
「我が使うは、この国の
けたたましく笑う白魔女を睨みつけ、灰色猫は、雪の大地につっぷしたまま、強く唇を噛み締めた。
常軌を逸している……そんな呪文を発動させるのは。
「ベルベット」
傍に寄り添ってくれている魔法のマントの名を呼ぶ。だが、灰色猫は半ば、自分自身に言い聞かせるために、こう呟いた。
「分かっているよな。現時点での魔法の国の支配権は、不本意でも、京志郎>白魔女 > 俺だってこと。けどな、真の支配者はその誰でもないんだよ。真の支配者以外は死に絶える呪文だって? そんなものを白魔女に発動されてたまるか! 今、闇落ち覚悟で、それへの対抗呪文を練り上げないと、きっとこの世界の者は、白魔女を含め誰も残れない。何故なら、口先一つで、俺らの世界をこんなややこしくしてやがるのは、天上にのさばっている
あの図書館長なんだから!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます