第24話
「それが何ですか?さっきから僕の式にちょっかいかけてるようですけど」
にやりと笑うタナカは腕輪型のでばいすぉ見ながら言う。
「われわれか、もしくは教団が先に開発するであろうこいつは、あらゆる能力を分析しそれを、データとして収集し、それを引き出すことができる。いわば能力のコピーを作り出せる」
「それって……」
「そう!!」
大げさな身振りと大きな声でタナカが僕の方を見た。両手を広げ仰々しくスピーチでもするかのように低い威圧感のある声で続ける。
「すでにこれが開発されてしまっている以上、時間の問題なのだよ、今はまだ劣化版の式しか再現できないこと、エネルギーの問題、製造コストの問題でこれ一つで世界情勢をひっくりかせるとまでは行かないが、すでにもう目の前にあるのだよ」
世界に何人の能力者がいるのかはわからないけど、その全員分の能力を分析して蓄積できるとすれば、そのデバイスがあるだけでなんでもできる、それどころか量産が可能になればどこの誰でも僕らの能力を好きに使う事ができる。でもそれだと。
「それだと、あなたが言ったように能力を独占するというのとは逆行するのでは?」
「そうさ、ただそうはさせない、教団も一枚岩ではない。そんなことはいい、ようはこのデバイスの開発の技術を独り占め、あるいはブラックボックスとしてこの世から消してしまうんだ。するとどうだ、我々に頼らざるを得ない技術を我々が独占し、金を稼ぐなんてこの力があればいくらでもやりようがある。君の関数の力でどのような過酷な条件でも作り出すことで、そこから新たな物質を作り出す。あるいは新たな合成技術、新たな法則、君の能力一つで、いくらでも手の打ちようはあるんだよ」
そう語るタナカは徐々に言葉に熱を帯びて、最後の方には顔も赤くなってるんじゃないかと思うくらいの熱量を感じた。そしてタナカの語ることはおそらくこの資本主義の世の中であれば至極当たり前の話なんだろう。現に今も世界中の企業が独自の技術なんかで製品を開発したり、特許をとったりしているんだし。
正直なところ、別に反対する理由も、敵対する理由もない。なんならそれで世の中が良くなるなら協力したほうが世の中のためになるのでは?
「聞く限りなら、素晴らしいことのように思いますね」
「君はなかなか話が分かるようだな」
片方の口角をあげて、にやりとタナカが笑う。
しかし、いったいマリアさんがどうしてこの組織を危険視していて、しかもテロ集団のような言い方をしたのか?今まで語られたのはいい部分しかない、となればタナカが語っていない範囲で何か人道的に許せない部分があるのか?それがテロと同等の行為をしている可能性がある。
マリアさんが情報屋という特性上マリアさんの目で直接確認したということはそこまでないだろう。ユリスさんが教団の人ということはユリスさんからそういった情報を仕入れた、あるいは教団自体がユリスさんにそういったことを伝えたかだ。
わからない、本当にこのまま鵜呑みに信じてしまっていいのか?少なくとも僕をここまで連れてくるのにどすを背中に突き付けて、いきなり査定と言って戦闘を仕掛けてくるような奴だぞ?話し合いで終わらなければ、なんの躊躇もなく実力行使に出るような奴ら。そいつらの語る理想論にも似た計画。本当に信じられるか?少なくとも、僕としてはあのマリアさんがわざわざ明華も一緒に呼んで注意してくれるような相手を信じるというほうが難しい。あの人が僕をだますようなことをするとは思えないし、あの明華の可愛がりようから、明華に対してマイナスなことをするとも思えない。
だめだ、信じるにはあまりにも関係地と情報が足りない。だが、ここで協力するふりをして内部を探ることができるのなら、そのテロ組織と言われいるこいつらを内部から壊せるとしたら?
「まだ、完ぺきに信じたわけでもないし、素直に全部を協力する気はないです。ただ状況によっては話を聞いたり協力してもいいのかなとは思いました」
「もちろんだ、初日にいきなり何もかもを信じろとは言わないさ、私だってそうだ、誘いはしたが、ここで全面協力される方が怪しむものさ」
そういって田中は僕の方へと近づいてきた。僕も身体リミッターの式を解除してこれでkン回のひと騒動はいったん落ち着きそうだ。
その時、僕とタナカの間の空間が勢いよく裂けた。文字通り裂けた薄いビニールを左右に引っ張って引き裂いたかのような空間の裂けめそこから出てきたのは、いつぞやのモカさんの手下のSP達。銃弾を何発も打ち込みながら突入してくる。
「ッ!!」
すぐさまタナカの腕輪が緑の式を吐いて、先ほどよりも素早いスピードで銃弾をよけ、時には弾き飛ばしていた。それはおそらく僕に使った時と同じくゴム弾なのだろうけど、それでも当たれば結構痛いし、当たり所が悪ければ気絶だってあり得るほどの威力はある。
「ダメじゃんみなっちゃん」
そして、オーバーサイズのパーカーを着て今にもヒップホップを踊りだしそうな恰好をしたモカさんが遅れてtこの空間に姿を現した。右肩に日本刀を掲げて僕を横目にそんな言葉をかけてきた。
「モカさん?」
「お久しぶりだねみなっちゃん」
きらっとまぶしい笑顔で手を振ってくるモカさん、初めてあの喫茶店で出会ったときに、晴斗に向けていたような感じのいい笑顔をしていた。マジもんの天然陽キャって感じがすごい。もうプンプン陽キャのにおいがするけど、これはモカさんのいい匂いの可能性もあるのでいったん深呼吸しておいた。
「おやおやかわいいお嬢さん、たしかNullsの方だったね?」
「よく覚えてたね、私は忘れてやらないけど」
にらみ合う両者の間にバチバチと火花が散ってるんじゃないかと思うほどに重たい空気と緊張した空気が張り詰めていた。二人の言葉から察するにNullsとニコラ・ブルバキの間にも何らかの確執というか因縁じみたものがあるんだろうか?
「祈里(いのり)の能力はもう在庫切れかい?」
「イノリ?あぁあの遮断式の能力か、今日も使わせてもらっているよ、非常に素晴らしい能力だ」
「そうでしょ?アンタにはもったいないくらいだ」
モカさんの顔、笑顔であるのに目が笑っていない。それどころかまるで相手をその眼力だけで殺せてしまいそうなほどに厳しい目をしていた。そして祈里の式、遮断式。もしかしてさっきからタナカが使っていた腕輪の式、それから僕に起こった式の異変。
ハッと気が付きモカさんに目を向ける。こぶしを握っていて、その手がわずかに震えている。静かに言葉にも載せないように努めて冷静であろうとしているけど、心の中では確かな怒りがこの空間を埋め尽くしても足りないくらいに燃え上がっているというのが僕でも見て取れた。
嫌な、予感が頭を駆け巡った。まさかそんな、存在理由すらもよくある悪の組織っていうようなテンプレ中のテンプレを踏襲しているくせに、もしこの僕の考えが当たっていたら、本当にどうしようもないくらいにつまらない、それどころかどうしようもない位に許されない。許しちゃいけない。きっとそれは僕にだけでなく、明華にもその手が伸びることは容易に想像がついた。
もし僕の予想通りなら、どうして明華が観察対象なのか、どうして明華よりも先に僕に接触してきたのか、今ならその理由に納得がいくかもしれない。
「タナカさん、さっきから僕の式にちょっかい出していた式って、どうやって手に入れたんですか?それどころか、僕の爆破をまねした式、あまりにもお粗末だった。どうやってその腕輪型のデバイスに能力を取り込んだんですか?」
否定してくれ、間違いであってくれ、考えすぎだと、さっきはあんなに理想論を語っていたじゃないか、だから僕のこの考えが思い過ごしであったと言ってほしい。
「Nullsのお嬢さん、彼はNullsに加入でもしたのかな?」
「そういった事実はないね、あたしと一回デートしたくらい」
「それにしてはこのタイミングで来るなんて果たして彼を気に入っているのか、それとも私への怒りかい?」
「後者しかないよね!」
言い切るタイミングで抜き身の日本刀をタナカに向かって投げつけるモカさん、すまますぐ目の前に「w∉A」の式が現れてモカさんの手に再び新たな日本刀が現れる。その柄を両手で握り、袈裟切りの構えでタナカに切りかかる。
「対物はやりにくいんだがね」
タナカもいつの間にか日本刀を握りしめていた。しかしモカさんのそれよりも刃渡りが短いような気がする。モカさんの斬撃をその件で受け止めると、数秒間はつばぜり合いのような状況になったが、鼓膜を切り裂くような音ともにタナカの刀が砕けるように壊れた。
思ったよりももろかったからなのかモカさんが少し前のめりになった。その隙を見逃さずにタナカがモカさんの手首を掴み、自分の方へと引き寄せる、体を入れ替えてそのまま背中に蹴りを入れた。
「クッ!」
蹴られたところで勢いそのまま前転し、体をひねって日本刀を下段に構えたまま片膝を立ててタナカをにらむモカさん、いつぞやのデート()の時とは全く違う表情をしていた。あの飄々とした感じなんてどこへやら、眉間にはしわが寄って、目つきはまるっきり別人に感じる。
タナカはすぐに日本刀を作り手にした。むしろ刃渡り的には脇差に近いのかもしれない。それをもう一つ作り出し二刀流のように構えた。
「真似事しかできない、出来損ないのくせに特許料はいくらもらえるんだい?」
挑発するモカさんはそのままSPを呼び出す。空間にジワリとした感じでSPが現れると、5人ほどだったがその全員が日本刀を携えていた。日本刀ってことは、エンコンにも通用するような強度と鋭利さを持っている。モカさんはこの人を殺すつもりで戦っている。僕との時は警棒とゴム弾の銃を使うくらいだった。
やっぱり、残念というかあまりにもテンプレ過ぎて拍子抜けだ、お粗末すぎる。おそらく僕の考えている理由でファイナルアンサー。それはあまりにも残酷だし、使い古された理由で、使い古された展開で、使い古していいはずのない理由。
「タナカさん、そのデバイス。ひょっとして精度を上げたり、式を維持するのに、能力者の命を持っていくくらいの代償が必要なんじゃないんですか?」
二人の視線が僕に向く、僕は多分冷静でいるはず。ただそれでもモカさんにあんな目をさせるこいつを、許すという選択肢はラブコメの主人公を目指している僕にはかけらも存在しなかった。
「そうさ、これはしょせんプロトタイプ。あくまでもこいつが出来るのは分析と、膨大なエネルギーを使った模倣。目の前で展開された能力や式においてはそのまま分析を通すために大したエネルギーは必要としないが、もし世界中の能力を手にするにはあまりにも役立たずなのだよ」
そこで一息ついたタナカは大げさに悲しそうな表情をした。もうこいつのオーバーリアクションにも慣れた、外国人ともなれば感情表現が大げさになるというのはあながちその噂は間違いないようだ。その感情表現に僕の感情が揺さぶられることはない。
「我々だって殺しを肯定するつもりはないし、喜んで行うようなサイコパスでもない。ただ自分たちの脅威となりそうなものを排除する。それは有史以来人間のやってきた本能のようなものじゃないかね?」
「でたでた、本当はやりたくなくてぇ~、人間が~、昔からやってます~、だから僕は悪くないです~、ってか?そのセリフももうあらゆる創作物で使い古されたセリフなんだよ、もうテンプレ過ぎて哀れだよ。組織の目的と言い、そのデバイスと言い、お前の言い訳と言い」
残念だよ、本当にさっき言ったように世の中に利益を還元するだけの目的で、その対価として金を得るくらいなら僕だって協力しただろう。でも無理正直萎えた。ここまでテンプレの悪役がこの現代に実在するんだって。リアルならもう少しもっともらしく、理不尽かつ合理的に冷酷かつ残忍にその目標とやらを追ってほしかったものだ。
「僕の返事は訂正しよう、返事はこれだ」
次の瞬間、タナカのワイシャツに3本の線が走った。そこからちらりと見えた肌、その肌すぐさま真っ赤な鮮血をまき散らし、当たりのシャツの白を染めていく。そして染めるよりもわずかに早く、3つのうち1つの線だけがきれいに残っていたが、そこには焼けただれたような跡と、シャツの切り口が黒く焦げたようになっていた。
「まだどうにも式は安定しないけど、やっぱり頭でごちゃごちゃ考えるよりも、今の感覚っていうのが僕にとっては一番式を発動しやすいみたいだ」
「ウグゥッ!??」
内臓にまで達したのかはわからないが、タナカが口元を抑え、その抑えた手の間から吐しゃ物と、少しの赤が混じっていた。意外なことに僕自身人を傷つけてしまっても、なんとも思わなかった。少しはうろたえたアリするかもとは思ったがそうではないらしい。それともすでに人として見ていないのだろうか?それとも、殺さずに痛めつけることができると思っているからなのかわからないけど。おそらく今日、僕は負けない。
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