第12話 布教活動
破壊神シーヴの召喚から辛うじて逃れた夜から2日後。俺たちは伊勢神宮へとやってきていた。
「セーラ、全員乗ったか? 」
「はっ! 主天使含む天使300名騎乗致しました」
「そうか……なら行くか……」
「ダーリンいつまでウジウジしてるのよ。いい加減観念しちゃいなさいよ」
「そうよコウ。家族会議で決めたでしょ」
「そうだぜ旦那さま! もう神になるって決めたじゃんか。あたしは旦那さまを連れていかれたら嫌だからな。じゃんじゃん布教するぜ! 」
「わかってる。こうするしかないのはわかってるんだ……しかしまさか光一をからかうために作ったこの衣装を俺が着ることになるとは……」
俺は伊勢神宮の正殿の前でドーラに乗りながら、キラキラ輝く白いローブを着ている自分の姿を見て肩を落としていた。
一昨日の夜。召喚から辛くも逃れることができた俺は、助けてくれたアマテラス様に感謝をした後に、なぜ俺が召喚されるハメになったのか知らないかと尋ねた。
アマテラス様は一つだけ心当たりがあると言って、シーヴは現在複数の世界で人族に苦戦しているという事を聞いたことがあると教えてくれた。
どうもリアラの管轄以外の世界で、魔導文明が異常に発達している世界が複数あるらしい。そしてアマテラス様の管轄外の地球とは別の星でも、異星人からの侵略に耐えてその力を取り込んだ人類が、強力な力を得てダンジョンの魔物を駆逐していってる世界なんかもあるらしい。
その関係でリアラたちにならい、人族を魔王にしようと試みたのではないかと言っていた。
過去にノブナガがシーヴに魂を売った経験を思い出し、魔界の魔族よりも地球の人族の方が潜在能力が高いのではないかと思ったのかもしれないと。
そこでノブナガと同じように、既に力を得た元勇者を召喚して使おうとした可能性が考えられると。
アマテラス様は当然シーヴの手助けなどする気はないと言っていた。なのに今回のシーヴの奇襲ともいえる召喚に対応が遅れてしまったと謝っていた。どうやら今日は弟のスサノオが担当している世界に行っていたらしい。
俺がどうしてアマテラス様の許可なく召喚が成功しそうになったのか聞くと、シーヴは創造神によりあらゆる世界にダンジョンを生み出せる能力があるため許可なく干渉できてしまうと教えてくれた。
アマテラス様は今後は注意してこの世界を見ることにすると言ってくれ、私が来るまでよく時間を稼いでくれたと褒めてくれていた。
俺たちもアマテラス様に助けてもらったことに感謝をしたが、正直内心では冗談じゃないと叫んでいた。
いくらアマテラス様が注意して見てくれるとはいえ、今後も間に合う保証はどこにもない。シーヴも馬鹿じゃないだろうから、次はからめ手でくる可能性もある。わざとアマテラス様の持つ並行世界で騒乱を起こしてその隙にとかな。
俺は他力本願の状態で、毎日ビクビクして生きていかないといけない生活なんて冗談じゃないと思った。
そこでアマテラス様が去ったあと、俺は半泣きの婚約者と恋人たちと夜通し第1回佐藤家 家族会議を開き今後の対策を話し合った。
いや、会議にならなかった。俺以外の恋人たち全員が信仰を集め、神力をアップさせることを提案したからだ。
俺は伊勢神宮近くに引越すとか提案したが、確実性が無いということで却下された。
わかってた。俺もそうするしかないことはわかってたさ。
だからせめて光一が戻るまで待とうと提案したが、これも速攻で却下された。
いつ戻るか、もしかしたら戻らないかもしれない光一を待ってる間に、また召喚されたらどうするのとみんなに言われた。
なかなかに酷いこと言うなぁとか思ったが、アマテラス様から光一はまだ日本の半分しか取り返してないと聞いて先は長そうだなと俺も思った。さすがに死ねば俺が呼ばれるだろうから大丈夫だけど、多分あいつの事だから日本を救っただけじゃ帰ってこないだろうしな。
こうして俺は泣く泣く信仰心を集め現人神になることを決心したというわけだ。
んで、そうとなれば早い方がいいということになり、昨日一日掛けて大急ぎで準備をしてドーラと婚約者とセーラ率いる天使たちを連れて伊勢神宮へとやってきたわけだ。
先ずは下地のある方舟世界で布教をして、度胸をつけてからこの世界で布教をする計画だ。
時間さえあれば方舟世界だけでいいんだが、布教には時間が掛かることから二つの地球世界で布教することになった。リアラの世界に行かないのは人口的な問題だ。あっちはいいとこ5000万人。方舟世界は10億でこっちは40億だ。分母が違う。うまく広まれば今の数倍の神力を得られると思う。
当然早く信仰心が欲しいから自重する気はまったくない。改宗も求めず入口を入りやすくする。あくまで現世に存在する身近な神という位置づけだ。お布施も受け取らないし、神父とかも置かない。像だけ作って信仰すれば御利益があるとってもクリーンな宗教にしようと思う。方舟だけは光一という教祖を置くけどな。
それでも俺が神になるなんてな……
俺はミスリルと金糸でキラキラ輝く自分のローブを見ながらため息を吐いていた。
「光希。私もこんなかっこうで恥ずかしいですが、私たちの明るい未来のためです。行きましょう」
「うふふ、主様と蘭の群れを守るために蘭はがんばります! 」
「あーうん。みんな似合ってるよ」
俺は婚約者たちが身に付けている、総ミスリルの糸製の胸もとの大きく開いた白いドレスを見ながらそう言った。
昨日大急ぎでホビットたちに作らせたこの衣装とティアラを、蘭とシルフィ。そして凛と夏海にセルシアとリムたちに着せている。リムたちの角と尻尾は幻術で隠してあるので、全員が女神のような姿だ。
「私たちは光魔王様の隣で立っているだけで良いのですよね? 」
「ああ、立ってるだけでいいよ。あとは効果的な信者の選定かな。女性の目線で昔は綺麗だったっぽいのを探してくれればいいよ」
信者を手っ取り早く得るには若返らせるのが一番だからな。劇的変化が見込めそうな女性を対象にするのが一番効果的だ。テレビに出た時も見栄えがいい。ビフォーアフターってやつだな。
「まっかせてよ! 年老いたサキュバスたちを見てきたからね! 僕たちはそういうの得意だよ! 」
「昔綺麗だった者はそれなりのオーラがありますわ。ですから私たちにお任せください」
「期待してるよ……はぁ……なら行くか……」
「ぷっ! 本当にダーリン嫌なのね。家族のために頑張ってねパパ♪ 」
「ふふふ、パパ頑張って! 」
「パパか……頑張るしかないよな。パパが世界を破滅させたら子供がグレそうだしな。よーし! アマテラス様! 方舟世界までお願いします! 」
俺は凛とシルフィの言葉に無理やり奮起してやる気になった。そしてアマテラス様に準備が整ったことを伝え、方舟世界へと転移したのだった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「うっ……やっぱりこの浮遊感は何度経験しても慣れないわね」
「ちょっと休憩してから行くか。ここは転移専用の場所で参拝客は入れないからな」
俺たちは日本領大世界フィールドにある伊勢神宮へと転移してきた。
伊勢神宮といっても、ここは正殿からは少し離れた場所に俺が森を伐採して作った転移専用場所だ。ここは立ち入り禁止にしてあり、周囲には結界も張ってあるので誰もやってくることはない。転移の時にかなりの光を発してはいるので相当に目立つが、神主さんはいつもの事だと思ってくれているはずだ。
今ごろ参拝客に神が遊びにきたとでも説明していると思う。
そして恋人たちが転移酔いともいえる症状から落ち着くのを待ち、俺は蘭にドーラが白竜に見えるように幻術をかけるように言って準備を終えた。
本来光竜教のシンボルは火竜に乗って剣をかざす勇者なんだが、今回はより神っぽく見えるように白竜にイメージを変えようと思う。まあ本当のところはヴリトラのとこに預けた一件でクオンが拗ねて、協力してくれなかったんだ。
正確には預けたことに対して拗ねてるわけじゃないんだけどな。
アイツさ、ヴリトラにしごかれてる時にドーラの情報売って取り入りやがったみたいなんだよ。そのうえヴリトラのことをドーラにアピールすることで、立場が逆転したらしい。
いや、全然アピールしてないみたいなんだけどな? でもヴリトラには、ドーラがヴリトラを誤解していたみたいな報告をしているらしい。うん、詐欺だな。
この話をヴリトラを世話しているミラから聞いた時は、俺たちは呆れてものも言えなかったよ。まあ当然ドーラにチクッた。んでクオンはドーラにボコボコにされて拗ねてるってわけだ。
な? どうしようもないだろアイツ。
だから今回はドーラを使って布教することにしたわけだ。
「それじゃあ蘭たちはドーラに乗ったままで、セーラたちは150人ずつ交代で飛んで付いてきてくれ」
「はっ! 主の降臨を演出させていただきます」
「本物の天使だもんね。これ以上ない説得力よね」
「まあな、とりあえず俺も演出しながら行くさ。ドーラ、まずは日本の大世界フィードで布教するぞ。北の新東京に低空飛行で飛んでくれ」
『ルオオォォン 』
俺は天使たちを引き連れ、首都移設工事真っ只中の新東京へとドーラに乗り向かった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
《竜? Light mareか? 》
《いや違う! 天使だ! 天使が飛んでるぞ! 》
《ま、まさか神か!? 白い竜に乗った神なのか!? 》
《私たちの新天地での生活を祝福しにきてくれたとかかしら? 》
《オ、オイ! 竜の背にローブを目深に被った男とその周りに美しい女性が乗ってるぞ! 》
《おお……まるで天女のようだ……》
「凄い人の数ね……みんな建物から出てきてこっちを見上げてるわ」
「ちょうど出勤時間と重なったからかしら? 剣を持つ人や農作業に行く格好の人が多いわね」
「そうみたいだな。いい感じに人が集まってきた。それにしても2年もしないうちによくこの量の家を建てたよな」
俺は川を背に草原の真ん中にコンクリートを敷き詰め、かなりの面積に建ち並ぶ多くの低層住宅を見て感心していた。
最初に俺も官公庁やマンションの移設は手伝ったが、もうすでに百万人は移住しているように見えた。
都市はここだけではないし、日本全体の人の移住はほぼ終わっているかもしれないな。
「光魔王様。数人ほど対象となる者を見つけました。いかがなされますか? 」
「あっ! ボクも見つけたよ! あのおばちゃん絶対美人だったはずだよ! 」
「そうか、ならやるか。シルフィ声を」
「お仕事の時間ね。シルフ、神の声を地上の人たちに伝えて! 」
「くっ……成り切るしかないんだ。成り切るしか……」
俺はそう自分に言い聞かせ、ドーラを地上から20mほどの高さまで降下させた。そしてドーラの頭の上まで移動し、地上から俺たちを見上げる人たちに語りかけた。
『私は時の神の使いコウキ神。光竜教の信者たちの求めに応じ、新世界にて汗を流し働く者たちを祝福するために降臨した。隣人を助けよ。大和国の民よ団結せよ。されば長き人生を歩めることを約束しよう。まずは未来を創る女性たちを祝福しよう。『時戻し』 」
俺は心話でリムたちから対象となる女性の位置と特徴を聞きながら、地上へと時戻しの魔法を複数同時に放った。
俺の両腕から放たれた歪な形の無数の時計は、地上で見上げる40代から60代の10人ほどの女性の身体を覆った。
地上の人たちは時計に覆われた女性から逃げるように離れ、遠くからその様子を見ていた。
パニックにならないのは白竜に天女、そして天使たちを引き連れているからだろう。あとは俺の神々しさ……はないな。
それから数十秒ほど経ち俺は若い順から順次魔法を止めていった。そして全ての魔法を解除し時計が女性たちの身体から消えた時、そこには20歳ほどに若返った美しい女性たちが立っていた。
《え? 有島さん!? 》
《角田のおばちゃん? え? いや、そんな……》
《え? いったいなんだったの今の時計みたいなのは……怖かったわ。ちょっと! 何を驚いた顔で私を見てるのよ 》
《あら? 私の腕ってこんなに細かったっけ? 》
《な、なによこれ!? え? 若返ってる? え? え? 》
『美しき女性たちよ。子を産み大和の国を繁栄させよ。また信者の祈りが届いた時に私は現れるだろう。ここに教会を建てよ。神父はいらぬし賽銭も必要ない。ほかの神を崇めても問題はない。ただ私に祈りを捧げればよい。神を崇めよ』
《コ、コウキ神様……》
《ま、間違いない……若返ってる……時の神……人の寿命を、長き人生を歩ませてくださる神だ》
《わ、私にも加護を! 時の神の使者。コウキ神様! 》
《なんと高潔な……ただ祈れば……祈れば私もあの頃に戻れる……》
《お、俺は信者になる! 》
《私もなるわ! 多くの人にこのことを伝えてまた降臨してもらうわ! 》
《俺は大工だ! 俺が教会を建てる! 》
《俺は像を建てるぞ! 》
『うむ、よい心掛けだ。それではお前たちにも力を授けよう『時戻し』 』
俺は手応えを感じ、真っ先に信者になると言った者と教会と像を建てると言った者を若返らせドーラを西へと向かわせた。
「ぷっ! あははは! ダーリン最高! 」
「ふふふ、似合ってたわよコウ」
「アハハハ! 旦那さま神々しかったぜ! 」
「くくく……後ろ手に聖剣を持って光らせるとは考えましたね光希」
「みんな笑うなって! 俺だって恥ずかしかったんだよ! あ〜こんなのあと何十回繰り返さなきゃなんねーんだよ……」
俺は新東京から離れた途端に笑い出した婚約者たちに、頭を抱えながらそう言った。
『ルオオォォン! ルオッ! ルオオッ! 』
「ドーラまで似合ってたとか言って笑うんじゃねえ! 」
「うふふ、ドラちゃんもおすまし顔でがんばってました。神竜のようでしたよ〜」
『ルオッ! 』
「おてんば竜が神竜ねえ……もう早く終わらせよう。次は新大阪だな。そのまま大フィールドの神殿に行って管理門開けてからアメリカのあるフィードに行くか」
俺は蘭に撫でられて上機嫌のドーラに新大阪がある場所まで飛ぶように言った。
それから新大阪で同じように布教をし、次に管理者権限でアメリカの首都がある大フィールドへ門を繋ぎ同じように布教した。アメリカに着いて早々になぜか隣で蘭が『I Love America』とプリントされたTシャツを取り出したが、俺は速攻で取り上げた。信者が減ったらどうすんだと。
そしてその日はドーラの背に複数張った魔導テントで夜を明かすことにして、婚約者と恋人たち全員にベッドで昼間笑ったことへの仕返しをしたりして過ごした。
翌日から五日間はアメリカの残りの都市とロシアに欧州各国を飛び回り、最終日に新生オーストラリアに行きもともとの信者たちを片っ端から若返らせて伊勢神宮へと戻った。
後半は完全に俺も吹っ切っており、神になりきっていた。凛たちもあちこちで女神様呼ばわりされて上機嫌だったし、セーラたち天使も神と共に地上に降り立つことができて嬉しそうだった。
思えば肉体を持った天使なのにダンジョンに放り込まれてたんだもんな。交代制だったとはいえ、神に仕える天使の仕事にしちゃなんか違うと思ってたんだろうな。俺が地上の楽しさを教えてやらないとな。海とかで。
こうして方舟世界で満遍なく布教した俺たちは元の世界へと戻り、今度は幻術で顔を変えて俺たちの住む世界で布教を行うことにした。
そして7日間で全世界を周り、年が明け少しした頃。
俺はとうとう現人神となったのだった。
ステータス
佐藤 光希
国籍:日本
種族:下級神
職業: 時の神見習い
体力:EX
神力:EX
物攻撃:EX
魔攻撃:EX
物防御:EX
魔防御:EX
素早さ:EX
器用さ:EX
運:EX
取得魔法:神罰Ⅰ、最上級雷魔法、最上級空間魔法、最上級時魔法、上級結界魔法、上級水魔法、上級闇魔法、上級鑑定魔法、最上級付与魔法、上級錬金魔法、上級土魔法、紋章魔法
備考:現人神
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