第32話 VSアロマ1

 剣を抜く。殺しは絶対にしたくない、ただこの3人相手では手加減するのは厳しいと感じていた。

 となると、重要になってくるのはフィオンがどうするかだ。未だ腕を組んできているフィオンに視線を向ける。


「ラクリィ、お前はアロマをどうにかしろ。過去としっかり決別するんだ。あの2人は私がしっかりと押さえておいてやる」


 先程までの相手を小馬鹿にしたような態度とは打って変わって真剣な表情をしている。


「それはありがたいが、大丈夫か?」

「私を誰だと思っている。2体1でも遅れは取らんさ。それに私は私で少し考えがある」

「頼もしいな、わかった。頑張ってみるよ」


 短い会話を終えるとフィオンは腕を放す。それと同時に3人に向けて突撃していった。


「さて、相手をしてもらおうか。私を連行するのだろう?」


 フィオンはアロマと2人を分断するように壁を作る。これで向こうの状況は分からないが、フィオンなら言っていた通り問題ないだろう。後は俺が自分と手で過去との決着をつけなければ。

 アロマの方を向くと、分断されたことに一瞬驚いていたが、直ぐにこちらを向いて剣を構える。


「らっくん、最後にもう一度だけ。戻ってくる気はないんだね?」

「ああ。俺はフィオンについていくと決めた」

「はぁ、そこまで意思が固いならわたしが何を言っても無理そうだね。その・・・・・・ヨルムンガンドは2人が?」


 アロマは俺の後ろで横たわるヨルムンガンドを指さす。


「途中までは手伝ってもらって、止めは俺が刺した」

「なんかヨルムンガンドを倒したことに驚きだけど、戦ってた割に傷が少ないような・・・・・・」


 確かに俺には多少の切り傷がある程度だし、フィオンに至っては無傷だ。変に思われるのもしょうがないだろう。

 前にアロマ達と共に戦った時は、最後の最後まで傷らしいものは出来なかったが、それでも4人で戦っていたのでカバーがしやすかった。だから怪我をしなかった、とアロマは思っているのだろう。だからフィオンと2人なのに大した怪我がなくて驚いているのだ。

 俺からしてみれば、言っては申し訳ないがフィオンのカバーがあれば、それ以外は何もいらないように感じられた。

 相手の行動を予測し、先読みで入る最速のカバー、体験した者にしかわからないだろう。


「フィオン、さん? はそんなにも強いの?」

「強いさ、今まで戦った誰よりも。ただ――――――」

「ただ?」

「仮にもう一度ヨルムンガンドと戦うことになったら、俺1人でも無傷で倒して見せるさ」


 慢心などではない、これは自信だ。

 フィオンは常に自信があるように、大きく振る舞う。だが慢心は一切していない、自信を力と勇気に変えているのだろうと俺は感じていた。

 フィオンは弱さを抱えている。それは俺がヨルムンガンドに食われかけた時に感じたことだ。

 いつか話してくれるといいなと、そのためには今以上にフィオンに信頼されなければならない。そのためにもまずは――――――


「アロマ、もう俺には勝てないぞ」


 過去とは決別だ。


「確かにヨルムンガンドを倒したことには驚いた。でも負ける気はないよ? それにらっくんはわたしにほとんど勝てた事ないでしょ?」


 アロマは真っすぐに斬りこんでくる。それを単純に剣で受け止める。

 少しのつばぜり合い。そこから剣の打ち合いへと移行する。

 剣術自体の技量に大差はない。筋力では勝っている、速度でも。ただ、柔軟性ではアロマに分がある。


「フラッシュ!」


 フラッシュはただ強い光を1瞬は放つだけの魔法だ。

 至近距離で目くらましにフラッシュを使うのはアロマが良く使う手の1つだ。単純だが効果的で、まともに食らった時点でほぼ勝敗は決してしまう。

 だが、俺にとっては見慣れた手だ。タイミングも何となく予測で来ていたので、瞬き程度でやり過ごせる。

 アロマも通じるとは思っていないだろう、ほんの小手調べ程度に放ってきたってとこだ。

 手は緩めない。アロマならこの程度でやられはしないと知っているからだ。


「フラッシュレイ!」

「っ! 殺す気か!!」


 至近距離からのフラッシュレイを何とか回避する。

 貫通力の高いこの魔法をもろに食らえば、身体に穴が開いて死んでしまうかもしれない。これまでアロマが俺との模擬戦で使ったことはもちろん無い。


「フィオンさんのお陰で強くなったんでしょ? だったらこのくらい大丈夫なはずだよね!」

「なんかとげとげしいというか、怒ってるのか?」

「当たり前でしょう!! わたしがどれだけ心配してたと思ってるのさ! それなのにらっくんはフィオンさんとなんだかいい雰囲気になってるし」

「それは・・・・・・申し訳なかったとは思ってるよ」

「まあ、生きててくれたんだから、もういいよ。フィオンさんのところからは、何が何でも連れ戻させてもらうけどね!」


 2度目のフラッシュレイ。アロマも手加減する気が無いのは、もう十分に分かった。

 出来ればアロマと本気で戦いたくなんてなかったが、アロマが引かない以上俺も引くわけにはいかない。

 ここからは、で相手をすることにした。

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