第31話 再開

 フィオンが最も懸念していたことが起きてしまった。

 これが面識のない兵士ならばまだよかったのだが、ある意味一番会いたくなかった人物に会ってしまった。

 あの日唐突な別れが訪れ、もう二度と接点を持つことのないと思っていた。アロマは、あり得ない物でも見てかのような、驚いた表情でこちらを見ている。

 俺はどんな表情をしているだろう。

 唇と掌が乾く。どうしたらいいか、咄嗟に判断出来ずにいた。


「らっくん・・・・・・なんだよね?」


 緊迫した雰囲気が流れる中で、その均衡を破るように言葉を放ったのはアロマだった。


「――――――ああ」


 アロマの問いに肯定で返す。するとアロマは驚いていたような表情を崩し、今にも泣きだしそうな、そんな表情をした。

 心配させているだろうとは思っていた。それでもフィオンと共に進もうと決めていたのだが、そんな顔をされては、なんともいたたまれない気持ちになる。


「らっくん・・・・・・らっくん!!」


 アロマがこちらに一歩踏み出す。


「待てアロマ!」


 そんなアロマを静するように、レイラ中佐が前に出た。レイラ中佐だけではなく、続いてサレンさんもアロマの前に出る。

 少しの間アロマ同様に驚いた表情をしていた2人だが、今は、驚いているというよりも警戒が強く見える。


「ラクリィの隣にいる女。その特徴的な蒼い髪は聞かされたことがある。ミストライフのフィオン・レイネストだな?」

「流石に聞かされているかレイラ・トレース。お察しの通り、私がフィオンで間違いないぞ」


 フィオンがいつか言っていた。ミストライフのことは基本的に秘匿されているが、1部の人物にはある程度細かく知らされていると。

 理由は簡単。犯罪組織が野放しになっていると知られれば民が不安に思うからだ。

 今回は運悪く、その1部の人物もここにいたというわけだ。

 レイラ中佐だけでなくサレンさんも知っている様子だ。これは穏便には済まないだろう。


「あ、あのレイラ中佐。ミストライフというのは?」

「この際だ仕方あるまい、サレン説明してあげてくれ」


 レイラ中佐に言われ、サレンさんはアロマにミストライフについて説明される。

 だが、聞いていると当たり前だが、事実とはかなり違う。あることないこと限りなく悪になるよう聞かされているようだ。

 説明を聞き終えたアロマは再び驚いた表情をした。そして――――――


「らっくん、そんな人といたらダメだよ! 早くこっちに来て!」


 アロマは必死な様子で俺をこちらに来るように言ってきた。


「関わってしまったのだとしても、まだ大丈夫だよ! もし何かしらの罰に問われそうになっても大丈夫、わたしが何とかするから!」


 確かに王女であるアロマが、その権力を存分に振るったなら何とか出来てしまうだろう。

 それでも。いや、それ以前に俺はもう戻ることはなかった。進むと誓ったからだ。

 思わぬ再開に、荒波のように揺れた自分の心を落ち着かせる。


「ごめんアロマ。それにレイラ中佐とサレンさんも。俺は俺が本当に成すべきことを成すためにフィオンと進むことを自信とフィオンに誓ったんだ。もう、そちらには戻れない。たとえそれで3人が、その他の全てが敵になろうとも」


 俺の言葉に3人とも絶句している。直接的になると言われれば無理もないだろう。

 ここで、初め以降静観していたフィオンが何を思ったのか、唐突に俺の腕に自信の腕を絡めてきた。


「そういうわけだアロマ王女様。お前の愛しいラクリィは私がもらった。もう私のだ、お前にはやらん」


 まるで空気を読まずにそんなことを言い放つ。


「ちょ、フィオン!? 挑発してどうする!?」

「なんだ? 事実だろう。お前は私に身も心も、命すら捧げる覚悟があるじゃないか。私もそんなお前のことを心から信頼しているぞ」


 そんなことを腕を組まれながら間近で言われては、思わず照れてしまう。若干顔が赤くなるのを感じた。

 傍から見ればただの惚気にしか見えないだろう。実際にはもっと深い意味があるのだが、そんなことは事情を知らない方から見れば分からない。

 俺達の様子を見ていたアロマからは徐々に表情が消えた。


「らっくん、戻ってくる気はないんだね?」

「心配かけてすまなかった。何度も言うが戻る理由も意思もない。俺は前に進むよ」

「そう・・・・・・、なら仕方がないか。無理やり連れ戻させてもらうよ!!」


 アロマは剣を抜いた。その顔には俺と剣を交えることに対する迷いはなかった。


「仕方がないか。そもそもそこのフィオン・レイネストは最優先捕縛人物だと聞かされている。共に戦った相手に剣を向けるのは心が痛いが、容赦はしないぞラクリィ」

「レイラ中佐・・・・・・」

「ラクリィ、あなたは私にとっては弟のような存在。弟が犯罪組織の人間と共にあるとなれば、連れ戻してお説教するのも姉としての役目です」

「サレンさん・・・・・・」


 3人とも少なからず俺のことを思ってくれているのが伝わってきて、感傷に浸りたくなる。

 しかし、道が違えてしまったからには、俺は俺の信念を貫く。

 こうして、唐突に過去と決別する戦いが始まってしまった。

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