11.イメージチェンジ
村長の家から出ると待ち構えていたかのようにルーフが現れた。
「ちゃんと仕事の許可取れました?」
「あ、忘れてた」
ルーフの驚く顔も見ずに、すぐさま村長の家に入った。
「仕事の話で呼ばれてたのに、終わった雰囲気で外に出てしまいました」
「おお、そうだった」
仕事に戻っていた村長は、振り向きながら笑顔を浮かべる。
あんたも忘れてたんかい。
ルーフが先に言ってるだろうが、改めて魔法の水玉を浮かべながら説明する。
村長は目をキラキラさせながら聞いていた。
「今まで二人掛りでも半日仕事だったから助かるよ。村の外に出る仕事だったから危険もそれなりにあったしな」
「余った時間で他にも何かしましょうか?」
「君も自分の仕事があるだろう。そちらを優先してくれて構わない」
俺の水汲みは数時間で終わってしまう。
村からしたら水の確保が確実にできる時点で十分なのだろうが、働いてる横で暇を弄ぶのも気が引ける。
「気が向いた時に手伝ってくれたら嬉しいよ」
俺の表情から何かを悟ったのだろう。
村長は目を細めて頷いた。
村の食事は朝と夜の二食。
中央にある焚火を囲み全員で食べるらしい。
そういえば俺こっちに来てから何も食べてなかったな。
腹が減ってることを気にすれば鳴ることは必然な訳で、俺のお腹は盛大な空腹アピールをする。
「なんだ君は腹に魔獣でも飼っているのかね」
「いや、昨日からなんも食ってなくて」
顔を赤くしながら照れ笑いを浮かべる俺。
「国が抱える調査員なら食料くらい持っているものじゃないのか? 不慮の事故だったと言っていたが、君……丸腰じゃないか!」
しまった、気づかれた。というか今まで気づかれなかった方がおかしい。
不慮の事故で仲間と逸れたとしても、手ぶらの旅人なんか見たことがない。
考えろ、俺。ここで嘘がばれたらまた振り出しだ。
「この軽装がおかしい。確かにおかしく見えるでしょう。しかし、考えてみて下さい。密命を帯びた者が団体で調査道具を担いで行動していると思いですか」
村長に説明しながらナビを探す。
俺の言葉に唸ってる村長の隙をついて俺はさりげなく背中を向けた。
「そんな者達が来たらすぐに気づかれるでしょう。何かあるのではないかと勘繰られるでしょう。見慣れない者が見慣れない物を担ぎ、見慣れない事をする。それも団体で。ここまでの変化があれば疑いは確信に変わる」
ゆっくりと間を開けながら俺は必死に言葉を繋いでいた。
人は間を開けると真実味が増す。
今、村長は俺の重みのない言葉に重みを感じてるはずだ。
だが本当は違う。
間を開けてる間に俺はナビに小声で文句をつけていた。
「この格好で村に誘導したのナビのせいだよな。どうすんだこの状況」
「背広にしますか?」
「余計、怪しまれるだろ。もっとこう旅人っぽく」
「外套でも着てみますか」
「おお、ナビにしては良い考えだな」
「お腰にきびだんごも付けてみますか」
「おお、ナビらしい考えだな。却下だ」
しょうもないやり取りを経て俺は外套を手に入れた。
「こういった装いの方が自然ですか?」
外套姿になった俺は振り向き、村長の様子を伺う。
村長は目が飛び出しそうなくらい驚いていた。
「村人に馴染むためとはいえ、軽装過ぎたのはこちらの勉強不足でした」
こんな事くらい手軽に出来るのだと思っただろう。
こういう力を持ちながら隠していたと。
「そして、村長。あなたは次に調査道具のことが気になるのでしょう。自分にとっての道具は頭脳であり、魔法です。道具を持つという事は物的証拠を残すという事。あらぬ疑いを持たれない為にも持たない方が良いのです」
膝から崩れ敬いの眼差しを向ける村長に俺は続ける。
「食料も基本現地調達であり、この村の用事を優先させた為に食事を忘れていた。それだけの事です。村長、納得していただけましたか。先ほども言ったとおり、この村に危害を加えるつもりはありません」
「君のことは分かった。君の為になる事なら、こちらも優先的に手伝おう」
真面目モードで頷いた俺に村長も頷いた。
そこで思い出したように俺の腹が鳴る。
気の緩んだ雰囲気の中、村長は家の隅から干し肉を持ってくると俺に差しだした。
「少ないがこれを持っていきなさい」
「ありがとうございます」
俺はありがたく受け取った。
親切は貰って違う形で返せばいい。
「一つ気になったのだが」
安心した所で、村長が神妙な顔で口を開いた。
なにかボロが出たか。
「魔法というのは、他にも使えたりするのかな?」
「四属性の基本は使えます」
村長の顔が沈み、焦る俺。
何かまずいことを言ってしまったのか。
「そんなにも使えるのか! そんなにもか!」
キャラが変わって目をキラキラと輝かせる村長。
これは、まずいことを言ってしまったか。
「その若さで四属性をか! 見せてもらえぬか!」
「ま、まあ、そのうち……」
俺は逃げるように村長の家を飛び出した。
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