第7章 火継ぎの港町⑨
その後、パッチと2,3のやり取りをした後、エルザ師匠は報酬を彼に渡した。
「毎度あり、姉さん。」
報酬を受け取ったパッチは、もとの胡散臭い愛想笑いの表情へと戻った。
「分かっているとは思うが、私がここに来たことは他言無用だ。もし、誰かに話すようなことをしたら…」
パッチは目の前で手をひらひらと振った。
「分かってるよ。あんたのやることには必要以上には首を突っ込まねえさ。これからも、パッチ ザ グッドラックをどうぞご贔屓に。」
パッチの店を出ると、外は太陽が傾き、夕刻が近付いていた。
私たちは新市街地の宿に戻る道すがら、夕食をとるために、桟橋エリアのパブの一つである、「ゴッツ・ピアサイド」という店に入った。昼間の上品なレストランとは違い、大降りな肉の塊を頬張り、ジョッキのエールを豪快に酌み交わすスタイルの店だったが、どの料理も味は絶品だった。
「ミラルダがこの街にいるのは分かったけど、これからどうやって探す?」
エルマはエールのジョッキを片手に、たっぷりとビネガーをつけた白身魚のフライをかじっていた。
エルザ師匠もエールに口をつけながら呟いた。
「ミラルダが接触したという密入国者のブローカーも殺されたようだし、やつの潜伏先につながる情報は手に入らなかったな。こうなれば、向こうから出てきてもらうしかない。」
それを聞いて、私とエルマは顔を見合わせた。
「師匠。つまり、おびき寄せて、待ち伏せする、ということですか?」
「そうだ。問題はやつを釣るためのエサをどうするかだが…」
そう言って、エルザ師匠はじっと私の顔を見た。
「師匠」
「なんだ?」
「おとり役ならお断りします。」
エルザ師匠は形のいい眉を上げてみせた。
「察しがいいな…いや、冗談だ。お前をエサにしたところで、私たち魔女がいることをさらけ出すようなものだ。待ち伏せする意味が無くなる。」
私はむっとエルザ師匠を軽く睨み付けた。
普段あまり言わない分、師匠の冗談はあまり冗談に聞こえなかった。
「それで、結局どうするの?次に密入国者がやって来て、ミラルダが食いつくまで、港で張り込みでもするわけ?」
これまた冗談に聞こえる提案をエルマが口にしたが、エルザ師匠は真剣な表情で答えた。
「パッチはこの街の裏社会で情報屋として顔がきくやつだ。あいつに密入国者がやってくるという偽の情報を流させよう。ミラルダがその情報に食いつけば、おびき寄せることができるはずだ。」
「なるほどね。でも、肝心のエサはどうするの?まさか、本当に船を準備するつもり?」
「それについてはアテがある。早速明日から準備にかかるとしよう。」
そう言うと、エルザ師匠はぐいっとジョッキの中身を干した。
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