403-33 発見、発覚
ただ、そうは言っても、だ。
「それにしても、治癒魔法、ですか……」
マリューの頼みごとが、わたしが治癒魔法を使えるようになること、を前提にしているのは間違いなさそうである。
でも、そもそも、治癒魔法はすごく難しい魔法だ、と聞いているのだけれど……。
「わたしに扱えるんでしょうか……」
「そうですねぇ、一般的にはかなり難しい魔法と言われておりますが……」
わたしが治癒魔法を覚えられなかったら、そもそもマリューの思惑はまったくうまくいかないと思うのだけれど……。
その辺りはどう考えているのだろうか、と思っていたら、その答えはコーレイトさんが聞いていたらしい。
「しかしながら、ノノカ様なら治癒魔法であっても2、3日もあればなんて事なく使えるようになるに違いない、とマリューは言い切っていましたよ」
「え、えぇ……? それはさすがに、いくらなんでも……」
いくらなんでも、マリューはわたしのことを過大評価しすぎている、と思う。
もともとわたしはこちらの世界に来てから初めて魔法を使い始めたのだし、そんなに頭が良いと言うわけでもないのだから、難しい魔法をそんな2、3日とかで使えるようになるだなんて──
…………?
……でも改めて考えてみると、今まで魔法を覚えるのにそんなに苦労した覚えもない……かも?
なんだかんだ、教えられた通りにとりあえず使ってみたら、せいぜい1日とか2日でそれなりに使えるようになっていたような……。
じゃあマリューの言うように、治癒魔法も割とすぐに使えるようになるのかな……?
……いや、いやいや、そもそもそんなに難しい魔法を覚えようとしたことがない、と思う。
今のところ使える魔法と言えば、だいたい全部魔法入門書に書いてあった魔法くらいだから、たぶん全部簡単な魔法のはず。
あれ、でも、《
──なんて、あれこれ思案をめぐらせていたら、コーレイトさんの笑い声が聞こえてきて、はっとした。
「あっ、すみません……」
「いえ、お気になさらずに」
一旦お茶を飲んで心を落ち着ける。
「まぁ、どれだけ時間が掛かるかは別にして……、マリューが治癒魔法を覚えるように、と言うならやってみようと思います」
「ノノカさんならきっとすぐに覚えられますよー。以前学校にトタッセン先生の助手として来てた時も、なんだかすごい早さでたくさん魔法覚えてましたもん」
「いやぁ、でも治癒魔法は別物なんじゃないかな……」
軽い感じで言うロミリーに苦笑いで返す。
わたしの詳しい出自なんて知らないロミリーからしてみれば、なりたてとまでは知っていても、わたしのこともマリューなどと同じ立派な不死の魔法使いにしか見えないし、その不死の魔法使いと言えば、不死化の魔法という、すごく難しい魔法を使えてこその不死の魔法使いな訳だから、治癒魔法くらいすぐに使えるようになるのだろう、とは思って当然だと思う。
なかなかいたたまれない……。
そんなところで、コーレイトさんからひとつ、訊ねられた。
「ノノカ様は、確か《
「ん、あぁ、はい。使えますけれど」
「安定して使えるようになるまでに、どれくらいの時間が掛かりましたか?」
「んぇ? あ、えーっと……」
《
確か《
「何日か試してるうちに慣れたような気がします」
一週間は掛からなかったと思う。
「なるほど……」
その答えを聞いて、コーレイトさんは感心したように頷いた。
「実は《
「んぇ?」
初耳だった。
《
「エイラちゃん、知ってた……?」
「……あまり詳しくは存じておりませんでしたが」
……なんとなくは知っていたのかもしれない感じがした。
「重ねての説明にもなってしまいますが、治癒魔法というのは人体に作用する系統魔法を示す分類です。人の身体に直接触れる魔法であるが故に、扱いには慎重を要し、難易度も高くなっています」
「あ、はい……」
「そして《
コーレイトさんの説明で思い出したのだけれど、そう言えばエイラちゃんが《
しっかり安定させないと怪我をしそうな魔法だし、エイラちゃんはしっかり者だから、念には念を入れて時間を取っているものだと思っていたけれど、もっと単純に難易度の問題だったのかも……。
やっぱりわたしが特殊なんだろうか。
マリューには以前から度々、魔法の覚えが早すぎる、とは言われていたし……。
──あっ、もしかして、これってヤヨイちゃんが何かしていたからなのだろうか?
そこで不意にぴんと来た。
そうだ、異世界で目が覚めたり身体が変わっていたり、大変なことがありすぎて今までなんとなく流してきていたけれど、その可能性は結構高いのではなかろうか。
その異世界での目覚めも身体の変化も、そしてなにより、こちらの世界の言葉を最初から知識として身につけていたのも、ヤヨイちゃんが意図していたみたいだったし、他にも何か役に立つ知識や能力が付与されていてもおかしくはなさそうである。
魔法を覚えやすくなる能力、みたいなのがあったなら、いろいろ納得がいく。
三年越しの発見だ。
なんだか、すごくすっきりした。
「ふふふ、この分ならマリューの頼みごとは、割とすぐに引き受けられるかもしれませんね」
そんなすっきりした様子のわたしを見て、迷いでもなくなったと思われたのか、コーレイトさんがそう言って笑った。
まぁ、ある意味ではその通りで、とりあえずやれるだけやってみよう、と決心できたけれども。
あ、気分が晴れてひとつ思い出したことがある。
「そういえば、後任のコーレイトさんたちがいらっしゃったなら、いよいよフレット先生とは本当にお別れなんですね、ご挨拶に行かないと……」
後任者が到着すれば、引き継ぎをしてミフロを発つ、と言っていたと思うので、早いうちに挨拶をしに行かないと。
「あのおじさんなら、あたしたちと入れ替わりで出発しちゃいましたよー……?」
「……えぇ!?」
ロミリーから衝撃的な事実を告げられた。
「あぁ、前任のフレット先生でしたら、別れを惜しむ見送りは好まない、と仰って……。結局、見送りに間に合ったのは、我々を出迎えに来てくださった村長ご夫妻と、厩舎の管理人のおじ様だけでしたね……」
「黙って出て行こうとしてたみたいで、村長さん怒ってましたよー」
まぁ、村長さんの気持ちも分かるかな、と思った。
それにしても、フレット先生、まさか早々に何も言わずに出立してしまうとは思わなかった……。
馬車と徒歩くらいしか足がないこの世界では、3日掛かる距離も離れてしまえば、もう滅多なことでは会えそうにもなさそうである。
もちろん長く生きていれば、いつか機会もあるだろうけれど、わたしと違ってみんなには寿命もあるのだから、結果的にその機会も限られるだろう。
……ふと思う。
あぁ、そうか。なんとなく感じてはいたけれど、こうやってお別れは続いていくんだろう……、これからもずっと、いろいろと……。
フレット先生とのお別れに加えて、さらに少し、寂しさが積み重なった。
新しい出会いと、再会と、お別れと。
喜びと、戸惑いと、納得と。
すっきり、もやもや、すっきり、もやもや。
その春先のある日は、心がちょっと忙しない日になったのだった。
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