第23話 ぷふ、親って

 いったいどうしてそんな話になるのか、と僕は、彼女の脳の構造を疑ったわけだけれども、さすがに突飛だったと思ったのだろう、香月は補足を始めた。


「学校の授業を受けずに家で勉強するっていうのは、かなり異常な案だけど、堂環くんがまさに実戦しているわけだよね。そして結果も出している。机上の空論はどれだけ偉い人が言った言葉でも価値はないと思うけれど、実践されている理論は、まったく理解できなくても信じるに値すると思うの」


「だから、私は、学校の授業をさぼって家で勉強するは、けっこうありだと思うの。わかっているわ。零は絶対に反対よね。一応、選択肢の一つに加えるというだけよ。わかったから、今はうちの話を聞いて」


「でね、それはいいの。私が疑問に思ったのは、堂環方式を採用している堂環くんが、何で高校に所属しているか、ということなの。そんなの当たり前だって、零は言うけれど、これっておかしなことよ。仮に私が堂環方式を採用したとしても、高校を辞めないわ。だって、放課後の部活に参加しなくちゃいけないから。けれど、堂環くんは部活もしていないんでしょ。だったら、そもそも高校に所属している意味がなくない?」


「ねぇ、堂環くん、何で学校を辞めないの?」


 ふとすると、かなり辛辣なもの言いにも聞こえるが、無垢な香月の表情を見れば、単に疑問に思ったから尋ねたのだろう。率直な感想を述べれば、まぁ、素直で素朴な指摘だ。白殿よりも視点が鋭い。


「それは」


 僕は、少しだけ言い淀んだが、こんなことで恰好をつけても仕方がないと思い直し、正直に答えることにした。


「それは、親に言われたからだ」


「「……」」


 端的に告げたところ、2人の女子は、頭の上にハテナを浮かべてしばらく静止した。

 そんな突飛なことを言ったつもりはないのだけれども、と僕が首を傾げると、香月が、反対側に首を傾げた。


「親?」

「そう。高校くらいは卒業しろと言われている。だから、高校は卒業しようと決めている。けれども学校に通っている時間があまりにも無駄だから、通わずに高校を卒業する術はないかと模索した結果、今の形に落ち着いていたってわけだ」


 そこまで話したところで、


「ぷふ、親って」


 噴き出したのは、白殿である。


「人には、教師の言いなりだとか言って、さんざんバカにしたくせに、自分は親の言いなりじゃないですか。ママがそんなに怖いですか、そうですか」


 こいつ、ここぞとばかりに!


 しかし、白殿の視点から見れば、そう見えるだろう。実際問題として親の要求を受け入れていることに違いはない。ただ、白殿のマウントを取った顔があまりにもむかついたので、僕は、仕方なく身内の恥を吐露することにした。


「うちは僕を含めて三人兄弟。兄と妹がいる。そして、二人とも不登校の引きこもりだ」

「「……え?」」


 さすがに、白殿と香月は驚きの表情を浮かべた。それでも、白殿の方は、あなたもでしょ、とぼそっと零していたが無視することにする。


「兄は小学生の頃からの不登校で、高校には在籍したことがない。妹の方は中学に入学して一ヵ月で不登校になって、以来、二年間、引きこもっている。あいつの方も高校を卒業できるか怪しいもんだ」


「ふ、複雑な家庭なんだね」


 一応といったふうに香月が合いの手を入れるが、目はこちらを向いていない。


「だから、僕が高校に入学したときには、親共々、大喜びだったんだ」

「その一人もこの有り様ですけどね」


 ちくりと呟く白殿を、ちょっと、と香月が肘で突く。


「まぁ、白殿の言う通りだよ。不登校になったことを怒られこそしなかったけれども、がっかりはされた。だから、せめて卒業だけはして、親を安心させてあげたい、ってのが、僕が高校を辞めない理由かな」


 僕が答え終えると、香月は、申し訳なさそうにもじもじとしてた。どうやら、失礼なことを聞いてしまったと反省しているらしい。そういう殊勝なところは、好意がもてる。


「で、僕の話はもういいだろう。結局、香月はどうするんだい? 今のまま、学校の授業を受けるのか、それとも、僕の助言に従って、学校の授業を受けずに、その時間を別の勉強方法に当てるのか」


 問い直すと、香月は、うーん、とまた唸ってから、再び申し訳なさそうに顔をあげた。


「うーん、やっぱり、学校に行かないって選択肢はないかな。堂環くんの話を聞いていたら、確かに学校に行く意味ないんじゃないかと思ったけれど、普通に考えて親が許してくれると思えないし、友達にも会いたいし」


 まぁ、そうじゃないかと思ったけどな。


「当然です」


 白殿は、深く頷いているが、振り出しに戻ったことに気づいているのだろうか。


 かるくため息をついてから、僕は仕切り直すことにした。


「じゃ、課題の設定からやり直そうか」

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