第154話 動き出す仁

これは北海道支部の外に現れた檜山仁のこれまでの物語。


4月2日


檜山仁は空を見つめる。

その空には何も無い。ただその空に一人の男を思い返していた。

その男ー木山廉。炎神の魔武器レヴァンティンの異能を持つ少年で、剣を奪う為、戦いを挑んだものの敗北。その後、現在は山梨支部の高校に転校する事になった。転校初日に彼は屋上で寝そべっていた。

仁は右手を空に伸ばす。その手が空に届く事は無い。だが、手を伸ばす。その右手を強く握り締める。

仁は握り締めた己の小さき拳を見つめる。

山梨支部の仁の居る高校は現在、皆任務の為動いている。

しかし、任務に動かないのは仁一人だけだ。


「君が……檜山仁君だね?」


屋上に寝そべる仁に対して物優しい声で初老の男性は告げる。


仁は寝そべりながら、その男性を見つめる。


「誰だ?」

「……私はこの高校の理事長をやっている者だよ」

「そうか」


仁は静かに目を閉じる。

理事長はそんな仁をただ見つめる。


「何か用か?」


仁の顔をずっと覗き込む理事長に仁は目を開け、告げる。

理事長はにこやかに笑うと話を始める。


「君にやって貰いたい事がある」

「やって貰いたい事?」

「彼を救ってくれ」

「彼?」

「……何も聞かずにやってくれないか?」

「断る」

「……君にしか彼は救えない」

「他を当たれ」

「彼は強すぎる」

「……強いのか?」


仁のその言葉に理事長は無言で頷く。


「……この高校で一番か?」

「……言い切れないが……」

「強いんだな?」

「それは保証するよ」

「……良いだろう」


弱肉強食。それが仁が生きていて学んだ事だ。

それ故に仁は強者との戦いを望む。

仁は立ち上がり、理事長を見つめる。


「この場所に居る」


仁は理事長から受け取った依頼書を見つめる。


「……変わり者と聞いていたが本当らしい」


東京本部に居た仁を向かい入れたのはこの理事長だ。

そして仁が手にしている依頼書には依頼主が理事長となっており、その内容は一人の生徒をこの高校に連れてくる事となっている。


「何の取り柄も無く、魔法も能力も異能も使えない愚かな老人が出来る事は少ない。でも、出来る事があるなら全てやっておきたい。いつ死ぬか分からない老人故に……」

「……そうか……長生き出来ると良いな」


仁はそう言うと屋上を後にする。

仁は依頼書に書かれた山に向かう。

その山の頂上には屋敷があり、そこに生徒は一人で住んでいると書かれている。

仁は退屈そうにその足を進める。

紅蓮の炎クリムゾン・フレイムの能力者であり、魔法も使う事が出来る仁だが、転移魔法を扱う事が出来ない為、仁は歩いて山の頂上まで行く事になる。

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