4.互いに感知
偶然。
ニコラスは自分と似た存在を感じ取った。
それは今超高速で落下してきているヤマメとベイズではなくって、もっと昔からいるような、原住民じみた変わらない時間を過ごしてきていた人物の気配。
これまでもたまに感じることがあったが、この大陸についてからさらに強くなった。
くたびれた薄いコートをと、前にだけつばが付いた大きな帽子をかぶりその気配のするところにフラフラと足を運んだのだった。
東からの風が山脈に当たり、吹く風は乾燥した灼熱の風。それがまた山に当たるのだが、その風は太陽をもたらすだけで西海岸の町は年間を通して温暖だった。
長く続く晴れの日で山火事さえ起きなければ。
鉄道に変わる自由な移動手段として、自動車が登場している。各所に散らばった主な町には悪魔の数字の道路が結ばれた。
ニコラスは自分の足だけで気配のする、南東の湿地帯に向かっていた。
身に付けた元素魔法のお陰で水には困らなかったし、食料も少量でニコラスには足りた。
(やけに人間ばなれしてるね。少しだってしんどくないの?)
二つ目の山脈のてっぺんでボムが尋ねた。
「いや、いまが逆に生きてるって感じがしてるよ。とても清々しい」
そう言って大空に向かい胸を開けた。
この時。空を落下してきている二人に気が付く。
この異変に、ひどく動揺したニコラスは足を一歩後ろに動かした。植生のあまりない山脈の山頂では岩や石がゴロゴロとしている。
それに、足場もそこまで整っていない。
足がつかないとニコラスが気が付いたときは既に遅かった。
背中から、奈落に落ちて行った。
根本的には普通の、魔法の力も関与しない無害の人類であるニコラスの体は落下による回転に耐えきれるはずがなく、当然、生暖かい血液や肉片をまき散らして、下にあった岩に衝突した。
幸い外傷のなかった首を持ち上げて自分の状態を観察してみる。
薄いコートはところどころ破れているし、頭にあったはずの帽子はなくなっている。軽く咀嚼すると鉄の味がする。
全身が麻酔を打たれたようにそこにないように感じる。気絶していないのが不思議なくらいだ。
今は足の動かしようがない。下手に動いてもさらに傷が開くだけになってしまうだろう。今は諦めよう。少し休むだけだ。眠るみたいに。
近くにあるもので体の部分を構成することができるだろうか。
目を閉じて体の回復に意識を注いだ。
そのころ。ヤマメとベイズはニコラスが住み着いていた西海岸の町につき、観光客のようにぶらぶらと歩いていた。
「お腹すいた…。それに暑い。すごく暑い。」
ヤマメは着込んでいた上着を脱いで上半身スポーツインナーだけにしている。ベイズは変身によって半そでになっている。
「君って料理できる?それともお金出せる?」
「多分つくること全般できますよ。」
強い日照りを睨みつけた。
二人は広場の木陰に入る。ベイズは手のひらからグラスを取り出し、その中に生クリームやチョコレートを流し込んだ。
「どうぞ、サンデーです。」
「え?ああどうも」
それを受け取ったヤマメは手に取るなり、凍らせてアイスにし、アルミを集合させてスプーンを作り出した。
「作るってときは作るって言ってくれればいいのに。僕が元素魔法でポンっと作り直してあげるんだからさ。」
「そうでしたか、すみません」
パキパキッと固まったチョコレートを割ってクリームと一緒に口に入れる。
「それにしても、ボクに食べさせるために体にいろいろ入れてきたの?他にもあるんでしょ?」
ベイズが黙ってうなずく。
「わあー優しいね。ありがとう。」
底の方に溶け出したクリームを、細くしたスプーンですくおうとカチャカチャ音をたてながらヤマメは続けた。
「エバーワールダーは簡単に見つけられるものだと思う。ボクたちには基本的に同じハーモニウム、もしくはディスハーモニウムが含まれてできているからね。
だけどホムンクルスはそうじゃないんだ。そうじゃないはずなんだけどなー。なんでマモリは見つけられたんだろ。
ベイズ君は何か感じるかい?」
ベイズは町の向こうにそびえる山を見た。
「あそこにいますね」
グラスを傾けて、流れるクリームを舌でふき取るとヤマメは立ち上がった。グラスをベイズが受け取る。
「さすがフヨウの分身だ。少しのエバーワールダーのかけらも見逃さない。鳥にでも化けて行くかい?」
「早いところ言ってあげたほうがよさそうな気がしますが。」
上げ始めた口元を緩めて、まじめな顔に戻す。
ベイズの見つめている方向に意識を集中させ、ベイズの手を取り、足元を蹴った。
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