客人

「王、今日は一度公爵とカルーナを呼ぼうと思います。お帰りになってからツキヨを呼びます。」

 目だけがこちらを向く。

「体、動かないんですか」

 口がゆっくりと開く。

「フヨウが居れば多少は動けるようになるんだろうけど、居ないからね。口と目を動かすだけで精一杯だ。身体中のディスハーモニウムが反応しない。それどころか、内側から腐っていくようにも感じる。」


 体が動かないからか、それとも頭に集中しているからか、こうなった王はかなり長話になった。昨晩に比べ、声も大きくなっていることから回復したように見えるが、それは今の状況になれたからだろう。

「先にツキヨを呼んだ方がいいですか」

「いや、兄貴達が先でいいよ。」

「わかりました」


 一度王の部屋を離れて、玄関に向かう。

 呼び鈴。そんなものはあっただろうか。

 前に公爵が座った飾りもののソファーにはない。生けてある花にも無く、あるもの全てひっくり返して見るが、それっぽいものはない。目新しいものと言えば、宝石が取り付けられた頭飾り。

 なぜ、今さら目新しいものが目にはいるのだろうか。

 頭飾りに私が鈴だと認識できるものは一つもついていない。

 ブラックウィンの演奏者達を思い出した。あのなかに私が知っている楽器を持っていたのは一人としていなかった。

 これもそうなのではないのか。


 意を決して、それを指先で弾いてみる。


 パポ、パポ、ポロロン


 宝石が数個光って、音を出した。


「どうしたんだ、ココ。この間呼び出したばっかりだろ。」

 頭飾りから公爵の声がした。

「おっとっと、ロイはどうだった?げんきだったかい?」

 カルーナの声もした。

 驚いて固まりはしたが、二人の声にまず答えた。

「いえ、今王は床に伏せっていまして、まずお二人にご報告しようと思い、連絡しました」

 私が答えるとは露にも思っていない二人は、「おっ」とか「えっ」と、答えた。


 驚きの後答えたのはカルーナだった。

「ええっと、その頭飾りの呼び鈴は朕達にしか見えない物の筈なんだ。なぜマルーリがこれを見えるように?」

 まだ動揺しているようだったが、その中には明らかに王になにかあったことが分かったという意味が含まれていた。

「王にこの国を任されました。」

「なっ」


 カルーナはそれからしばらく、呼び鈴の向こう側で考え込んでいるようだった。公爵はやけに静かだった。


「分かった。朕はすぐそちらに向かう。戸を開けてまっておれ」


 パポ、パポっという音が流れてカルーナの声は終わった。公爵の方にも耳を澄ませてみるが生活音一つ聞こえない。

 公爵は片手にワイングラスを持っていたので、常になにかのまなければいけない体質だと思っていたのだが、聞こえないということはもう切れているのだろう。

 もう一度指で弾く。


 パポポポン


 弾いただけではこんな音でないだろう。


 カルーナはすぐに来た。大きな鳥を連れて。

「ありがとうキョーマ君。」

 黒い鳥は地面に立つと人の姿になり、見覚えのある姿になった。

 私の船を屋敷の前まで運んできた、不気味な奴だ。

「彼、キョーマっていうんですか」

「キョーマ・グイン。鳥系の異形の中でも珍しい怪鳥系。英世にいたら間違いなく戦地に出されるから、その前に朕が連れてきた。」

 キョーマはコクリと頷く。

「ドゥブラの奴、来ないってね。仲間外れになるのわかってないのかな。」

 キョーマに待っているようにという指差しをしてから、王のいる部屋に向かった。


「なるほど、ロイの蝕をまともに食らってしまったのか。だが、それを唯一直せるフヨウも何処かにいって見つからないと」

「いえ、図書館の方にいったっていうのは分かってるんです。ですけど、フヨウも不安定みたいで。なんというかセンチメンタルになってるんです」

 カルーナは細い指を口に当てて、静かに言った

「ココだけでは、何があったか全ては分からないだろうな」


 王はすぐにこちらを向いた。

「来てくれてありがとうカルーナ。首は動かせる用になったんだが他はまだ石のように動かない」

 カルーナは左右二つ分の眉を八の字に、慈愛に満ちた顔で

「いいよココ。私は反対しないが、本当にマルーリがココの代理でいいんだね?」

「マルーリしか、この酷務をこなせるのはいない」

「何を任せたんだ・・・」

 冗談ぽくかえす

「私が居なくなってから、マルーリに聞いてくれ。カルーナはマルーリを助けてくれればいい」

「本当に消える前提なんだな。」

「ツキヨの持ち物になるくらいなら消えてしまった方がいい。だろ?」

 カルーナの四つの目が閉じて笑った。

「間違いない」


 カルーナが見えなくなってから、ツキヨは来た。

 相変わらずの薄ら笑いで、何を考えているか予想がつかない。しばらく会っていなかったし、ヤマメとマモリのツキヨに対する悪い話を聞いていたためか、やけに胡散臭い人物に見えるようになった。

 髪に隠れていない目だけが、私たちを見つめている。

「何が起こったかは、すでにフヨウから絞り出したレコードで知っている。だがフヨウは手遅れだ。」

 視線を動かさず、質問を待たず、答えた。

「そうかい。フヨウはなにがあったんだ」

「かすり傷だがロイスにやられてる。ついでにマモリのあのとんでもないエネルギーを受けてる。蝕された部分にエネルギーが溜まり、フヨウはフヨウでいられなくなってる」

 はじめてツキヨは嫌そうな顔をした。

 手袋をはずし掌を見せた。そこにはロイスの髪の色と同じオーブが闇の中に漂っている。前、宇宙の闇のようだと思っていたのは間違いじゃないようだ。

「ロイスのオーブは手に入れれた。英世はロイスが消えたことで落ち着きは取り戻すだろう。さて、今後のことですがね」

 手袋をもとに戻し、私の方に向き直る。

「貴方は王の側にいておいてあげてください。」

 表情とは違う、堅苦しい雰囲気だけを誘い出すツキヨは、私に対し忠誠を誓うようだった。

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