異変
外輪山を越え、湿原を越え、城を登り城上町に着いた時には、久し振りに膝が痛いと感じた。ガロウも同じで、髪の炎が上に揺らめかず、毛として下に垂れていた。腰の辺りで揺れていた陶器からランタンを取り出し、つまみを最大にした。ガロウが持つことで樹が燃えてしまうことは避けることができた。
日が見えなくなる頃、浮いてこちらに向かってくる人影が見えた。私たちは近づこうにも疲労で体が言うことを聞かない状態でただ、人影が近づいて来るのを見守った。
ランタンを腹に置いて横になっていたガロウが上半身をあげて、その目を見開いた。
「や、ヤマメ?」
一番強い光を放つランタンは人影を照らすには十分な明るさを出していた。ヤマメと同じ服を着た人物はマモリを抱いて、王とフヨウを背に浮いている。この人は丸っきりヤマメとは違っていた。茶色の筈の髪は緑色で、小さく可愛らしい筈の体は、大きくどちらかと言えば大人の色気を漂わせていた。
「ヤマメなんだろ?どうしたんだその姿」
ガロウの言葉には答えず、ランタンにはそれ以上よらずに、マモリ、王、フヨウをランタンの近くに寝かせた。
「教えてくれヤマメ、何があったんだ!」
ランタンを抱えて立とうとガロウがもがくが、足までは動かせず、立つことが出来なかった。
「ヤマメ!」
ヤマメは悲しそうな顔をガロウに見せて
「ガロウ君、さよならだ」
「待ってくれ!」
ヤマメは背を向けて何処か遠くに飛び去った。
「ヤマメ…」
先程のヤマメの顔に負けず悲壮感溢れる顔をして、ガロウはまた横になった。
まず、起き上がったのはフヨウだった。
「う、ううん、ヤマメの服きたやつは?あいつに助けられたんだ。くっそぉ、体が痛てえ」
「ヤマメなら何処かにいってしまいましたよ」
驚いた顔をして
「あんな、色っぽいやつがヤマメだったのか?一体何があったんだ」
フヨウの後ろでマモリがモゾモゾ動き出した。
「私のせいです。私を運んでいてそのまま十分に離れられず、私のエネルギーを諸に受けてしまったんです。だから、障害が」
一つ地面を叩くと、叩いたところを中心に窪みができた。
「違う、マモリ。あれはエネルギーを過剰に取り入れてしまったからだ。ヤマメには何も悪いところは見られなかった。」
仰向けに、星空に変わりだした空を見つめながらガロウが言った。
「じゃないと、みんなをドラコスネイからつれ戻ってくることができるわけがない。」
それを最後にガロウは嗚咽を吐き出した。
「…ぐぅ~、くっそ、俺だって光には回復効果があるのに、全く痛みが引かねえ、なんでなんだ…」
あまりにも凄まじい痛みなのか、頭を地面に叩きつけた。
「く、くっそぉー、なんでなんだ、なんでこんな、センチな気分なんだ。俺にはない筈なのに。ああ、なんで、弱虫バーベキュー野郎とおんなじ気持ちになってんだ俺は!!ス、スイセイのところに行かなきゃ、スイセイの所に行かねえと、俺が裂けちまう、早く、行かねえと」
そういって、なんとか体を足で支えると両腕で自身の体を繋ぎ止める様にして暗闇に消えていった。
「ほっといて良いのか?」
「いいのさ、ちょっと感傷的になったほうがあいつらの身のためですよ」
目元を右腕で隠しながらマモリは言った。
「私のオーブ見えませんか、先生が持って来ていた筈なんです。」
「ああ、奥の方にあるよ。取ろうか」
「お願いします」
力を使いきったガロウよりは早く回復した私は全身、痛いが、動かせるようになっていた。
マモリの奥を行き、眩く光を反射するオーブを3つ集めた。
「それぞれ、左うでのところ、右あし、左足のところにおいていってください。」
「はい」
「あ、距離は大丈夫です。」
「おっと、はい」
しゃがみこんだときにバランスを崩しながらもマモリの回りに置いた。
オーブの反射で思い出した。王がまだ目覚めていない。光が弱い?いや、そんなわけはない。そう思って、王の近くに寄ってみた。
王はピクリとも動かない。顔をよく見ようと仰向けにする。体は少しも動いてはいなかったが、口と目は動いていた。
王はとても小さな声で言った。
「コロ、貴方に伝えなくてはいけないことがある。私を私の寝室に連れていってくれ。」
私は強く頷いた。
「王を寝室につれていきます。手伝ってくれませんか。」
「はい、義手も義足も、即席ですが完成しましたし。」
木目調の義手を開いたり閉じたりしてみせた。
「うん、グスッ、火事を防ぐやつが必要だろ。俺も立てる」
涙を拭いながら、立ち上がった。
王の頭の方をマモリが、足の方を私が持って屋敷の方に向かった。
ガロウはランタンを持って道を照らした。
移動中も忙しなく王の口と目は動いて私に訴えかけた。
ようやく寝室につき横たわると、王は小さな声で
「二人にヤマメを探しにいかせろ」
といった。
「お二人はヤマメを探してください。まだきっと何処かにいます。」
ガロウは苦い顔を、マモリはガロウの肩を叩いて、部屋を去った。
二人が去ったあと、椅子を一つ出して王の横に座った。
王は
「いいかい、良く聞いてくれ。私はもう長くはないだろう。ロイスのギフトは蝕。じわじわと傷を与えたやつの回りの奴を悲しませながら殺すのを楽しむ、あいつにはぴったりのギフトだ。だから私は跡形もなく、いづれ消える。」
「だから貴方に、王代理をして欲しい。私の後継者が現れるまで」
「地方の長に定期的に会いに行ってくれ。後継者には貴方の名前をつけなさい。」
王が亡くなった後の話をし終わった後も王は話し続ける。
「私が王になった時、与えられたものの所有権を貴方に移す。一目は私の枕元にある、この鉱石だ。念晶といって念じるだけでツキヨに連絡がとれる。二つ目はまだ案内していない部屋にあるフヨウの設計図。あれは絶対に作らなければならない。時間はかかるだろう。三つ目は王族を集めるための呼び鈴。玄関にかけてある。四つ目は城のなかに部屋を作ることができる杖。最初に会った広間の大階段の一番上にある。残りの三つは私は使ったことがないものだ。五つ目はフーゲンという楽器。六つ目は黒のスカーフ。七つ目は国王の印文字。判子みたいなものだ。使い時はなかった。」
言い終えると、王は目を閉じた。
夜も深まり、外の音も無い静かな中、温かみがあるのはランタンの光だけで、あとはどれも冷たかった。
私の手でさえも。
王の靴を揃えて、私は自分の部屋に戻った。
明日のことをよく考えなければいけない。まず公爵とカルーナを呼ぼう。その後ツキヨを呼ぶ。ガロウとマモリが戻ってきたらなんと言おう。ヤマメが戻ってこなかったらなんと言おう。
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