熱しやすく冷めにくい

それは水しぶきのような音を立てて現れた。

枝の先の先に一つ人影が現れた。なんとなくツキヨに似ていると思ったがツキヨではないことは分かっていた。ツキヨは大理石のような堅苦しさがあったが、その人影はそれこそ水だ。

人影は足を動かすこともなくこちらに向かってきた。ランタンの明かりで顔がわかるようになると、その人はランタンの明かりを忌々しく睨み付けた。

「フヨウのランタンですか。確かにそれがあれば夜でもギリギリ動けますね。よくそれをわたされたものですね」

ツキヨと同じ紫の色の髪は後ろに緩く束ねられ、教会に勤める神父のような格好をしている人物は、王に挨拶もせずに淡々と述べた。

「ツキヨからまず、結果をいう前にそこの方に自己紹介しろと言われている。スイセイ・アライザです。あの馬鹿デカイ建物の中に詰め込まれた書物の管理をしています」

低いがよくとおる声で言った後、私に向かってお辞儀をした。

「それでスイセイ、結果はどうなんだ」

虚ろな目で王が尋ねた。

「全員、英世の王を見放すということで一致しました。此方で保管するため近々呼び寄せることになりました」

それを聞いた王は眉間に指を置いて、上下に擦った。

「まあ、うん、ロイスは良い奴じゃなかったし、王にも向いてなかった。切れやすかったし、うん」

おそらく、ロイスはカルーナと同じように親戚のような人だったのだと想像した。

「また海国のような国が増えることに対しては皆なんていってたんだ」

スイセイは一度首を横に振って、

「もうそれぞれに任せるということでした。現在外に出せる王族はいませんから。」

「それもそうだな」

王は深く考え込んでいるようだった。少し手持ち無沙汰になったスイセイに王は言った。

「もう聞いたかもしれないが、この人は君が待ち望んでいたタイプの人だ。私が考えをまとめる間話していてくれないか。」

スイセイはうなずいて、枝を回り込んで出来るだけ私の近くに来ようとした。

「なぜ、もっと近くにこないんですか」

スイセイはまたランタンを見て、

「ここに馴染んだ人にはわからないんだと思いますけど、それはとんでもない熱を発してるんです。私は体が水と氷で出来ているのでそれに近づいたら形が保てなくなるんですよ。」

スイセイは水性ではなくコメットの方の彗星なのか。

「王が言っていた事はどういうことですか」

「フヨウがあなたの船から持ってきたものの中にいくつかあなたの著書がありましたので、既に読みました。言ったでしょう書物の管理人だって」

恥ずかしそうに目を背けながら言った。

「ツキヨには言えませんがね、ずっとあなたのような変化をもたらせるような画期的な人材が空から降ってくるのを待ち望んでいました。ですので、私からこれをお渡しします。」

広い袖の中から、オーブとも、宝石とも言えない球体を取り出した。

「文字石というもので、二つ一組のものです。私は是非私の書物庫に来ていただきたいと思っていますので、その文字石に書き込むなり念じるなりして頂ければ私がお迎えに参ります。まあ、ツキヨがいないときに限るんですが」

少々冷たい印象だったスイセイが急に沸騰したかのように熱い人に見えた。実際文字石を渡そうとランタンに近づいたときは指が溶けはじめて手汗のように垂れていた。それに気づき文字石を渡したあと、前より遠くに逃げた。

「はあ、すいません、暑くなりすぎました。書物庫はすでにフヨウによって夜でも明るくなるようにされていますのでツキヨ以外は気にしなくていいですよ」

温度によって性格が変わるのだろうか、溶けることであそこまで朗らかになるということは、蒸発しはじめる時にはいったいどんな人物になっているのか。気になりはしたが遠くにいる書物の管理人スイセイが消えてしまうのは私には惜しいことなので、蒸発させるような真似はしないことを誓おう。

「よし、スイセイ。答えを言おう」

「あ、はい」

まだ冷えきっていないのか、舌足らずな声で返事をしてからまた近くに寄った。

「ドラコスネイの港で向かい撃つ。幸いマモリも帰ってきているからスムーズにオーブ化を行えることだろう」

「はぃ、わかりましたぁ」

左腕(文字石を差し出した方の腕)を抱えながら夜の闇に消えていった。

王が一つランタンの明かりを強くした。

「スイセイがツキヨのこと言っていただろ。」

「はい」

「その事は、ツキヨには言ってはダメだ。」


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