第5話

 指示を聞いた黒サングラスを着用している『キアヌ・リーブス』は、

 真剣な眼差しで敬礼をすると、それぞれ持ち場についている

 キアヌ・リーブス』隊へと 視線を向けた

『──仕事の時間だ!生存者の救助が最優先事項!

 ゴブリンに後れを取るような者はここにはいねぇな!?』

 黒サングラスを着用した『キアヌ・リーブス』が、そう声を張り

 上げて檄を飛ばすと自らもウィンチェスターM1866を構えなおして

 生存者の救助に動き出した

『了解!!』

『キアヌ・リーブス②~⑧』がその呼びかけに答えると、手慣れた様子で

 一斉に走り出した



 それはまさに、数々の映画作品で主役を演じているハリウッドスターが、

 一斉に銃火器を装備して移動しているかのような光景だ

 だが、それぞれがハリウッドスターを気取っている様子は無く、

 まるで熟練の特殊部隊員のような統率の取れた集団行動を行っている

 一時的にも混乱状況の中、集落の建物内や物陰から棍棒や斧、中には

 粗末な弓を手にしたゴブリンが続々と現れ、怒りの咆哮と共にその群れで

 包囲を狭めてくる

『――急いで散開しろ!』

『キアヌ・リーブス②』が、ウィンチェスターM1866の引き金を

 絞りながら、そう指示を飛ばす

『キアヌ・リーブス②~④』は、手慣れた様子で引き金を

 絞り撃発させてはいるが『キアヌ・リーブス⑤~⑧』は

 体中に力が入りすぎているのが、傍目から見てもわかるほどだ

 体中に力が入りすぎているのは、いずれも実戦対処が未経験な

『戦場処女の兵員』であるためで、想定していた以上の

 ゴブリンに遭遇してしまい、感情が高まって冷静な判断ができて

 いないせいだろう


 しかし、そんな中でも個々が明確に現在の状況と自分が

 置かれている状況を認識できており、静さを失っていないのは全員が

 これまで厳しい訓練を受けてきた証左で、互いをしっかり

 認識できていることからもわかる事だ

『キアヌ・リーブス②~④』は、大なり小なりゴブリンとの

 実戦経験はあったが、あくまでも山狩りや追跡などの、限定的な

 状況下における戦闘である

 集落一つが作戦区域となるほどの大きな作戦と異常なゴブリンの群れの

 対処は、 初めての事態で対処しきれていない事態で

 対処しきれていない

『行け行け行け!! ゴブリン共の反撃を許すな!!

 追い払って前進するぞ! 』

『キアヌ・リーブス③』がウィンチェスターM1866の引き金を

 絞りながら、そう檄を飛ばす

 轟音を響き渡ると、銃口の先にいたゴブリンは、腹部を爆ぜ

 飛ばされながら 地面に倒れ伏していく

 だが、ゴブリンもただ突っ立っているわけではなく、物陰に隠れてやり

 過ごそうとするものや、それこそ縦横無尽に屋内へと飛び込む

 行動をする個体もいる

 いずれも射線に入らないように行動しているの は驚きに値する事だ

 戦闘時の判断と行動は、人間と何ら変わらない知性を

 この『異世界』のゴブリンは有しているようだ



 黒サングラスを着用する『キアヌ・リーブス』は、早足で

 歩みつつ実戦経験のある『キアヌ・リーブス③④』と

 実戦未経験の『キアヌ・リーブス⑤⑥』を引き連れて、警戒動作を

 取りつつ前進する

 ゴブリンが身を隠して奇襲を仕掛けてくるかもしれないからか、

 崩れかけている集落の家々の扉を銃弾で撃ち抜き

 または蹴り破って屋内に突入する

 廃墟とも人家とも見分けの付かない煉瓦造りの家屋は、一見 乱雑な

 積み方がされているが、内情はキッチリと整頓されている

 ように見える

 二階建てが多かったが、そのほとんどがゴブリンに蹂躙されているため

 廃村を彷彿とされる悲惨な状況は変わっていない


 その建物内のほとんどには、狂気の宴に興じるゴブリンで犇めいて

 哄笑しながら愉しんでいた

 屋内の床には血だまり、大便と肝汁が飛び散り、壁は爪痕と糞尿が

 乾いてこびりついており、天井には犠牲者の腐乱死体を逆さづりに吊るされ

 テーブルには歯 のみ抜かれた子供の頭部が飾り付けられたままになり

 一面血に染まっていた


 阿鼻叫喚の地獄の処刑場の様な有様な場所で、はしゃいでいた

 ゴブリンは突然の闖入者に狂宴を邪魔されたため鉈や棍棒を手にして

 一斉に襲い掛かろうとする

 黒サングラスを着用する『キアヌ・リーブス』と『キアヌ・リーブス③④』が

『キアヌ・リーブス⑤⑥』がウィンチェスターM1866の引き金を

 絞るよりもはやく、ゴブリンへ撃発させた

 鼓膜が千切れそうな轟音が建物内で凄まじく反響し、銃口から

 炎と煙を吐き出させる

 次々に撃ち放たれた銃弾は大気を切り裂いて、複数のはしゃいでいた

 ゴブリンの頭部や身体を瞬時に撃ち抜いていく


 全身から勢いよく緑色の体液を吹き出しながら踊る様に倒れていったり、

 胴に大穴を空けられて 臓物を撒き散らしながら、床に倒れたりする

 個体もいる

 だが、それでもゴブリン達は何が起きたか理解できていないにも

 関わらず、 けたたましい悲鳴にも似た奇声を発して

 武器を振りかざしながら突進してきた


『露払いを頼む!!駆け出しは俺と共に生存者の検索と救助活動!』

 黒サングラスを着用する『キアヌ・リーブス』が指示を出す

『了解!』

『キアヌ・リーブス③』が叫ぶと、各自の役割をこなすべく、素早く

 散して動き始める

『行け行け行け行け!!』

『キアヌ・リーブス④』がそう言葉を発しつつ、武器を

 振りかざしながら突進してくるゴブリン達へウィンチェスターM1866の

 引き金を絞る

 再び凄まじい発射音が建物内に木霊する

 先頭に立っていた数匹のゴブリン達が頭部や胴体を穴だらけにして

 倒れ伏していくが、撃ち出された銃弾から致命傷は避けながらも

 耳や腕の端を失う程度の傷だけなゴブリンは、勢いが衰えるどころか

 さらに激しさを増したようにも見えた


 その様子を確認した『キアヌ・リーブス③』は、手に持つ

 ウィンチェスターM1866の銃口を向け、引き金を絞り銃弾を

 発射させる

 射線に入っていたゴブリン達は、腹に銃弾を食い込ませていくのが

 痛々しい表情で横たわり、のたうち廻る

 射撃の腕は熟練した兵士のそれであり、その射撃技術は

 ハリウッドスターが映画で披露する様な華々しいものではないものの

 確実にゴブリンを 仕留めていく様は圧巻である

『各員、『漆黒の銃士隊』の評判に著しく傷をつけるような、生存者の

 誤射は決してするな!!だが、ゴブリンは決して許すな!!

 それと下手に仕留め損なうと『倍返し』される!確実に仕留めていけ! 』

 黒サングラスを着用する『キアヌ・リーブス』は、ウィンチェスターM1866

 を構えつつ吼えるように喝を飛ばすと、屋内の生存者探しへと動き出す



 黒サングラスを着用した『キアヌ・リーブス』は、まだ何処か全身に

 力を入れている『キアヌ・リーブス⑤⑥』を引き連れては、潜在的な

 脅威の排除及び生存者の救助活動を開始した

 それは『ルームクリアリング』の手順を忠実に行う作業だった

『お前は右半分!

 俺は左半分と2階を調べる!』

 黒サングラスを着用した『キアヌ・リーブス』がウィンチェスターM1866を

 構えつつ指示を出す姿は、まさに歴戦の戦士 と形容するに

 相応しい出で立ちである

 流れるような動き、圧倒的な威圧感を感じさせる様子は、ハリウッド俳優

 そのものだ

『キアヌ・リーブス⑤⑥』は、無言のままただ頷くのみで

 行動を開始した

 それぞれが家屋内の一階にある部屋を片っ端から開けては、部屋内の

 生存者を確認するため念入りな作業を続ける光景は

『ルームクリアリング』の手順 を忠実に実行している



 この行動もその作業も、時間を要するが決して無駄な事では

 無く着実に生存している者を救出できる

 足音を極力殺しながら素早く移動、物陰やドアの隙間から

 銃口を出して室内の状況を確認後、息を殺しながら部屋内へと

 踏み込む

 またゴブリンが潜むかもしれない部屋に内に踏み込む際には、

 細心の注意を払い怪しげな所や異常を察すれば、ウィンチェスター

 M1866の銃口を向けて警戒する

 ゴブリンの姿を察知すればすばやく引き金を絞り、頭や胸を

 射貫き射殺した

 また声を発しては生存者の有無を確認を実行する

 その様な動きが出来るのは、実力を伴わなければ到底なしえない事

 だがその動作は、軍事や警察の特別部隊さながらに

 洗練されていた

 黒サングラスを着用した『キアヌ・リーブス』は、厳しい表情を

 浮かべたままウィンチェスターM1866を構えつつ二階へと

 移動する

『キアヌ・リーブス⑤⑥』とは違い、その動きは実戦経験豊富な

 ベテランの兵士の様だった

 踊り場で一旦立ち止まっては警戒態勢を取る



 踊り場から続く階段の上には、3匹のゴブリンが何か

 大声を発しながら 集まっていた

 黒サングラスを着用した『キアヌ・リーブス』は、ウィンチェスター

 M1866の銃口を向けると引き金を絞った

 轟音を発して撃ち放たれた銃弾は、ゴブリンを確実に捉えては

 胴体や頭に風穴を空けていく

 ウィンチェスターM1866を構えたまま2階部分へと踏み込むが、そこも

 1階部分と同じく荒らされていた

 壁には血糊が飛び散った跡や、何かの肉片と思しきものがこびりつい

 ている様子からここで数多くの殺戮が行われた事が容易に想像できた

 特に血溜まりが出来ている床一面の中には、少女らしき一人の遺体があった

 少女は全裸にされ、全身は傷だらけにされ特に下半身は酷かった

 両手両足は切断され、頸は胴体と切り離されている

 また両目はくり抜かれているという凄惨な状態となっていた

 その傍らには、瞳からは涙が溢れ出している虚ろな

 幼い少年の姿がいた

 その少年も全裸にされており、身体や顔など全身には無数の

 切り傷があり、また打撲による青あざが至る箇所にあった


『生存者発見!!』

 黒サングラスを着用した『キアヌ・リーブス』が、そう聞こえるように

 大声を張り上げた

『そちらに向かいます!』

 下の階から『キアヌ・リーブス⑥』がそう返答してきた

 黒サングラスを着用した『キアヌ・リーブス』は、生存者に

 近づこうとしてふっと脚を止めて奥にウィンチェスターM1866の銃口を

 向ける

 間も無くして、呻くような呼気と共に醜悪な貌に犠牲者の血で

 ペインティングらしきものを施したゴブリンがカタカタと骨を

 鳴らしつつ奥から姿を現した

 そのゴブリンは体格が大型で硬そうな材質の 金属製の鎧を身に纏い、手には

 大型の手斧が握られている


 現れたゴブリンは、これまで数々の略奪や殺戮をあげさまざまな理由で、

 群れや巣穴を渡り歩いてきたのだろう

 その動作には一切隙が見当たらず、熟練した兵士と比べてもなんら

 遜色がない動きだった

 そしてゴブリンは唸り声をあげると猛スピードで駆ける

 黒サングラスを着用した『キアヌ・リーブス』は、そんなゴブリンに

 動じる素振りも見せず、ウィンチェスターM1866の銃口を向けて

 引き金を絞った

 放たれる轟音とともに撃ち出された銃弾は、金属製の鎧を身に

 纏ったゴブリンの胴体に風穴をあける

 だが、その勢いは衰えずなお動き続けるため、そのまま頭部に向けて

 引き金を再び絞る



 撃ち出された銃弾は、頭部をも砕いて貫通していくと胴体に

 開いた風穴と同じように頭部の穴にも気味の悪い緑色の液体が

 流れていくのが見て取れた

 金属製の鎧を身に纏ったゴブリンは、そのままその場で

 崩れ落ちて動かなくなった

 息絶えた事を確認しつつ、黒サングラスを着用した『キアヌ・リーブス』は

 幼い少年に近づくと、ゆっくりと抱きかかえた

『ご無事ですか?』

 一階から迅速に駆け上がってきた『キアヌ・リーブス⑥』が、そう

 声をかけてきた

『 援護を頼む』

 黒サングラスを着用した『キアヌ・リーブス』は頷きつつ、そう

 返答すると少年を抱きかかえた状態で2階から 降り始める

『了解!』

『キアヌ・リーブス⑥』はそう答えると、その後を追うように2階から

 降り始める

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