第66話
マムの看病をミミと交代し、ドナと佑麻が久しぶりに街に戻ると、佑麻を見る人々の目が一変していた。
『彼がマムの心臓を生き返らせたユウマだ』
『彼の一族は皆ドクターだって』
『彼は日本に幾つもの大きな病院を持っている』
『彼はいつでも心臓を止めたり動かしたりできるそうだ』
噂は街に広がるとともに誇張され、噂だけ聞けば彼はあたかもハリー・ポッターであるかのようだ。家に向かう道すがら、すれ違う人々がふたりを遠巻きに見ているかと思えば、中には感極まったように、佑麻に握手を求める老人までいた。
家に着いて、看病から解放されたふたりは、美味しい家庭料理、久しぶりのシャワー、柔らかい寝床を満喫し、貪るように睡眠をとった。そして翌日から、異変が起きた。
いつもの朝のように、佑麻とソフィアが、パンデサールを買いに行こうと門を開けると、家の前に大勢の人が集まっていて、出てきた佑麻を取り囲む。
驚いてドナがその理由を聞くと、佑麻から心臓蘇生法を教えて欲しいと言うのだ。ドナは、彼は正式のインストラクターではないから教えられないと説明し、帰ってもらおうとしたが、実際にマムの心臓を蘇らせたのだから、そんなことは関係ないと動こうとしない。
実のところフィリピンの成人死亡原因のトップは心疾患で、人口10万人に対し約80の数字。それは、約250世帯にひとりの割合で、ポックリ病(心不全)で亡くなっていることを意味する。
もし自分の親の心臓が止まったとしても、それを蘇生できる方法を身につけられればこんな安心なことはない。
「どうしよう?ドナ」
「うーん…これは、やるしかないか」
ドナと佑麻の第一回心肺蘇生法市民公開講習は、その日の夕方行われた。
開催のニュースは、チャンパカ通りからサンロケ区に広がり、参加希望者が拡大した。当初予定していたコミニティハウスでは到底収容しきれなくなり、ファーザーの理解のもと会場を急遽教会に変更。嫌がるドミニクを傷病者に見立て、佑麻が段階を追って説明し、それをドナがひとつひとつ丁寧に翻訳した。
説明のあとは全員で試技。ペアになったおばさんの執拗なマウストゥマウスから逃げまわるドミニクの姿が、会場の爆笑をかった。
講習が終了すると参加者の全員が佑麻とドナそしてドミニクに握手を求めてきて、彼らは心地よい疲労感とともに深い充実感を味わっていた。
翌朝、佑麻とソフィアが外へ出ると、今度は隣町のコミュニティーリーダーが立っていた。第二回目もすぐに開催され、その後も噂を聞いた各地域から、たび重なる開催要請を受けた。
繰り返し講習を実施したおかげで、ドナと佑麻がやっていることを徐々に理解してきたドミニクが傷病者から説明員にまで成長。彼の助力もあり、マムが病院から帰ってくる頃には、10回を越える開催回数となっていた。
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