旅の準備

1

ギルドを出た二人は、街の商店街を歩いている。

大体の物はここで揃うため、ここを拠点とする冒険者はここで準備を行う。

「レイナ、何を仕入れるのですか?」

「そうね、まずは野盗に狙われやすくなる大荷物かしら。」

「大荷物ですか、それならまずは、バックパックからですね。」

革製品を扱う防具屋に入る二人。そこで、それなりに大きめのバックパックを二つ購入する。

「これに、かさばりそうな物を入れてダミーにするわ。」

購入したバックパックを背負うレイナ。次は、ダミーの道具を仕入れるのだが、そこで問題が発生した。


「どれも、数があると重そうですね。」

防具屋の側にある道具屋に足を運んだ二人。そこに並んでいる商品を見て、ロムが呟いた。

「そうね・・・。」

ロムの言う通り、道具屋にあるのは瓶詰されたポーションや、かさばりそうにない薬草と言った類のものが多い。

そもそも、かさばる道具を持つ事が、冒険者にとってはリスクのため、小さくまとめられたものが多いのが現状だ。

「かさばる物となると、どうしても重さは仕方ないかもね。」

瓶に入ったポーションを手に取るレイナ。いくらかはバックボケットに入れるが、それ以外はダミーの予定だ。

「背負ったバッグが、膨らめばいいのよね・・・。」

そして、レイナはハッとした表情を見せる。

「そうよ、そうだわ。何も道具じゃなければならないってことはないわね。」

そう言って、ポーションの瓶を棚に戻し、道具屋を出るレイナ。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

ロムもあわてて手にしていた商品を棚に戻して、レイナの後を追いかけた。


「急にどうしたんですか?」

置いて行かれそうになったロムは、その理由をレイナに尋ねる。

「ええ、道具じゃなくてもいいって事に気付いたの。」

「あぁ、確かにダミーなら何でもいいですよね。」

「程よく膨らんでいて、かさばりそうなもの。ちょうどいいものがあるわ。」

レイナが立ち止まった店。そこは、普通なら冒険者には縁のない店。

「寝具店?」

「そう、ここにあるわ。」

レイナが、寝具店に足を踏み入れる。頭に大きな疑問符を浮かべたまま、ロムは後ろについていく。

「あったわ、これよ。」

そう言って、レイナが手にしたものを見て、ロムは納得の表情を浮かべた。

「なるほど。枕ですか。」

レイナが手に取ったのは、中が空洞となっている編み枕だ。

「これなら、かさばる上に重くない。最適ね。」

その枕を5つほど重ねて、バックパックと並べてみる。

「十分に、大きな荷物になりそうですね。」

「これにしましょう。」

その枕を10個買い求めるレイナ。不思議そうな顔をする店員に笑顔を見せた。


「店員さんも、不思議がってましたね。」

「そりゃあ、大家族ならともかく、宿屋関係じゃなければ、一度に10個もいらないでしょうし。」

5個に分けた枕を、それぞれのバックパックに詰めた二人。傍から見れば、十分に重そうな荷物に見える。

「それもそうですよね。他には、何か準備はありますか?」

「ダミーの荷物は準備できたから、後は携帯食料と水かしら。」

「それなら、明日の朝にでも道具屋で準備した方がいいですね。」

「そうね。」

ロムの意見に同意したレイナは、他に準備するものがあるかを考える。

「出発前に消耗品の準備をするから、今日はもう終わりかな。」

「では、レイナ。このまま、食料品街までお手伝い願えますか?」

「え?」

ロムの突然のお願いに、一瞬戸惑うレイナ。

「お客様の食材を仕入れないといけませんから。お客様、食べたいものはありますか?」

その言葉に、レイナはそう言う事かと笑顔を見せ、ロムに答える。

「そうね、ロムの手料理・・・肉のスープとか?」

「かしこまりました、お客様。」

そのやり取りが面白かった二人は、思わず笑っていた。

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