第20話「アフターワールド・新月トンネル②」
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……ところで。ゲンスケたちの住む『
……とはいえその集団というのは、町の若者が中心となって結成された不良グループと言ったスタイルであるため、この話を聞いた人は始め、その集団の一体どの部分が奇妙なのか理解できないことが多い。
もっともである。……なにせ、それが彼らの被る殻と言っても過言ではないのだから。
「おーいケンジ〜、飯行かねえ?」
スキンヘッドの少年がケンジという同学年の少年に食事の誘いをした。スキンヘッドの少年は夏場だというのに学ランを着ているからか、びっしょりと汗をかいている。
「……ノブヒコか。悪いけど今日は寄るところがあるんだ。また今度でいいかな」
ケンジはスキンヘッドの少年ことノブヒコにクールな返事をした。ケンジは金髪の少年で、今年高校に入学したばかりである。
「ツレねえなァ〜〜、イイじゃんよ昼飯ぐらいよォォ〜〜」
ノブヒコはケンジの肩に自分の腕を乗せながら言った。ちなみに時間は午後一時。ついでに言うと平日の昼下がり。別に祝日というわけでもない。要はこの二人、サボりである。
「……何度言っても同じだノブヒコ。今から俺は会うやつがいるんだ」
「お、もしや彼女か?」
「いいや、ケンカ相手だ」
慣れた口調でケンジは答えた。
不良グループと言っても、この街のそれらは上述のとおり奇妙な存在である。ただのケンカをすることもあるにはあるが――その多くはどこまでも非日常に浸された空気感を伴っている。
彼らとて、元は普通の不良グループだった。「いや、普通の不良グループって何?」……などと、この話を聞いた人物が訊ねてくるときもあるが、そこはさほど重要な事柄ではない。重要な問題はやはりきっかけの方であろう。私はそう思うのだ。だからきっかけについて話したいと思う。
――というわけできっかけの話、はじまりはじまり。
「……その話はまた今度で良くない?」
……ケンジは私に対してそのようなことを言った。まったくもってひどい話である。
「いや、あのさ。ナレーションとか地の文っぽく喋ってるとこ本当に悪いんだけど――俺のスマホに居座るのやめてもらえるかな」
――ああ、なんとひどいやつ、なんという冷血漢。この私に対してここまでの塩対応とは片腹痛し――じゃねーわ、じゃねーけどいい感じに適切なワードが浮かばないからいいや。
「……なあケンジ、おめーのスマホにいるそいつ何? さっきから画面に文章をつらつら並べてっけどよォ」
ノブノブがなんか言ってる。こんにちはー。
「こんにちわー……ってなんだァ!? ノブノブってなんだ!!?」
などとびっくりしているノブノブ。いや別に深い意味はない。なんとなくノブノブって読んでみただけなのだ。失礼、誤字である。呼んでみただけなのだ。
「なあケンジこいつほんとになんなんだよォォーーーーー!!?」
なおもビビるノブノブ。……ケンジ、教えてあげなさい。
「……自分で言えばどうです?」
うっさいなー、言ってくれなきゃスマホのバッテリー残量いっぱい食べちゃうぞー。
「あー、もう。わかりましたよ。……気が変わった。教えるよノブノブ」
「いやおめーまでその呼び方すんの?」
「今だけだよ。……で、この謎の女の子なんだけど」
女の子。……ふふふ、ケンジめ、ちょっとは気の利いたことを言うじゃないか。
「簡単に言うと、電子のようせ」
バーチャルメイガスだばかものーーーーーっ!
バーチャルメイガスだ! バーチャルメイガス! 電脳空間でなんかすごい魔術とか使う魔術師だ! ケンジおめー、わかってて間違えただろ!
「ばーちゃるめいがす? なんだそりゃ」
ノブノブーーーーー! 今の文章読んでなかったのかおまえはーーーーーっ!
「ああうん、簡単に言うとリアルガチの電脳生命体」
「リアルガチで言ってんのか?」
「リアルガチで言ってる」
「そいつはすげぇ。リアルガチで」
「だろ? でもあまりにもバッテリーを食うわけ。さっさと俺のスマホから出ていってほしい」
ケンジー、そんな事言わないでー。泣いちゃうぞーーーーー?
「見てのとおりめんどくさいサイバー魔術師ってわけだ。すまんなノブヒコ、驚かせちまって」
「いやいいぜ。こんな珍しい出来事、そうそう見られるもんじゃねーからな」
……ううぅ、私を見くびりやがって……。今に見てろこの不良ども。そのうち上手いことやって受肉してやるからな! その時になって『なんて美人さんなんだーーー!』ってなって『もっと優しくしておけばよかったーーー!』ってなっても遅いんだからなーーー!
……てなわけで、この不良どもがどう奇妙なのかについて話すのは保留ということにしておこう。……まあケンジのケンカ相手って、だいたいそういう奇妙な奴らなんだけどさ。
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「にしても、なんなんだろうね、この穴」
通称『新月トンネル』。それを眼前にしてもなお、向こう側が見えることはなかった。……一瞬ブラックホールを連想したのだが、もしブラックホールだったのなら私なんてとっくに吸い込まれているわけで。だからとりあえずブラックホールではなさそうだねってなった。
「ふむ、こればかりは何とも分かりかねます。……ですがキリカ。この場にはソリッド・エゴの臭いがあります。ゆえに、それに関する事象であることには違いありません」
なるほど。チトセさんが言うのだから間違いはなさそうだ。……けれど、仮にこの黒い穴がエゴだったとして、その持ち主はどこにいるの?
「ねーチトセさん。ソリッド・エゴってのは、エゴの持ち主が絶対いると思うんだけどさ。ここにはいなさそうだよ? そこんとこは実際どうなの?」
私はチトセさんに問いかけた。するとチトセさんは事もなげにこう言った。
「……地縛霊、いるじゃないですか。そのうちの半分くらいはソリッド・エゴですよ」
「……マジ?」
「ええ」
「リアルガチで言ってる?」
「リアルガチで言ってます」
「そっかー……」
そうなのか……。いやまあ、ソリッド・エゴっていわば人の心が具現化したものなのだから幽霊……というか生霊的な感じはある。ていうか生霊の一部をソリッド・エゴって呼んでるまである。
……ただ今回の場合は地縛霊にさえソリッド・エゴがいるときた。いやそれもうヤバいじゃん。発現した異能はちゃんと一緒に連れて行ってほしいものだ。
「つーかキリカちゃん知らなかったっけ? 俺前に話さなかったっけ」
「ゲンちゃんそんなこと言ってたっけ? 私の記憶では聞いた覚えないなぁ」
「アレ? 言ってなかったかー、あれ……?」
ゲンちゃんはどうか知らないけれど、とにかく私は知らないのだそんなこと。
……でもまあ。それはそれとして。私はやっと近づいたのだ。――エイリさんが感知した謎の闇を。私は、そのために魂境町に戻ってきたのだから。
/独白
あのワルキューレはもういない。だから私にはもう能力などない。……そのはずだった。
あの戦いの終盤。そう、カイが『アルティメット・アンサー』を発動してから――。私から能力は消え去ったはずだった。けれど、どうしてか私には能力が備わっていた。――それがソリッド・ハートではなくソリッド・エゴと呼ばれるものだと知ったのは、この町に戻ってきてからのことだった。
でもそれだけでは現状の説明はつかない。……カイや城島先生の言っていることが本当なら、私は既に超越者ではないはずなのだ。にもかかわらず、私はこうして『星塊』や
……それは一体どうしてなのか。その答えは未だ出ていない。でも、それでも、あの闇を追っていれば――いつかわかるかもしれない。……などと、私らしくもないすがりっぷり。調子、狂ってんのかも。
……直接あの自称ワルキューレに聞くことができればよかったのだけれど、彼女はもういない。……だから、他の方法を探さないといけないのだ。
そんなわけで私は、とりあえず身近なところから探し始めることにしたのだ。奇妙な出来事であればなんでも飛びつく。そう考えると今の私は――どことなくハイエナのようである。
/独白、おわり。
次回、「アフターワールド・新月トンネル③」。お楽しみに。
ReAct Ego/from Solid Hearts 澄岡京樹 @TapiokanotC
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