君とさいごの電車旅 ~Y Ver.~

Twitter300字SS第56回お題「旅」より

(300字、改行・スペース含めず)


「このまま、何処までも行こう」


 電車に揺られながら、君がいつになく真面目な顔をして言う。

 だから。


「勿論」


 繋いだ手をぎゅっと強く握り返して即答した。

 車窓の景色は、いつの間にか夜の色に塗り潰されていて、青い街灯りが蛍のように映り込んでは、すっと遠ざかっていく。乗客はわたしたち以外誰もいない。いつの間にか皆いなくなってしまった。ふたりきりの貸し切り電車旅。楽しくなってきた。


「付き合わせてごめん。でも、ありがとう」



 泣きそうな顔で君が呟くから、その白く冷たい唇に口付けて、ふふっと笑う。


「いいのよ」


 わたしは君の隣にいられるだけで幸せ。

 だから互いの首にある痕は気にしなくていい。

 ただ愛に殉じた。それだけのこと。



【了】

→同じ冒頭から始まって異なるエンディングに着地する話もあります(~N Ver.~)

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