第122話≪尾てい骨骨折・2≫
新・ここは世田谷豪徳寺・25(さくら編)
≪尾てい骨骨折・2≫
昨日の学校はさんざんだった。
教室の席に座る時は、家での体験があるので、尾てい骨を庇うように座れる。
だけど授業中にノートをとろうとして顔を上げた拍子に姿勢が真っ直ぐになって、もろに尾てい骨に響く。
さすがに家にいるときのように気軽に叫んだり唸ったりはできず、その分表情になる。
「佐倉、おれの授業、そんなにつまんないか?」
数学の先生は、三度目に目が合ったときに言った。
「いえ、そんなことはありません」
「……だったらいいんだけどな」
で、授業の後半、ムズイ数学の公式の説明のときに、またやらかした。論理的な思考が苦手なんで、説明はじっくり聞かなければ全然わからない。で、つい身を乗り出したところで、まともに尾てい骨に響いた。
「……!!」
声にこそ出なかったけど、痛みはマックスで、我ながら怒った顔のようになったと自覚した。
「あのなあ、佐倉、数学なんてつまんねえよ。教えてる自分でもそう思うよ。数学なんて、買い物に行った時にお釣りの計算出来りゃ十分だ。微分なんて微かに分かったでいいし、積分なんて分かった積りでいいんだ。要は数学を通じて、論理的な説明に慣れるようにすることが重要なわけ。分かるか? そうすれば将来結婚しようかなって相手に出会った時に、惚れた晴れたってこと以外に互いの所得や月々の経費、ローンの計算なんかがきちんとできるわけさ。そうすりゃ、つまらん家庭争議なんか起こさずにすむんだよ! いいか、佐倉……」
そのお説教の最中に、悪気はないんだろうけど「だいじょうぶ?」という気持ちで、マクサがシャーペンでお尻をつついてきた。
「ウググ……!!」
「あ、ひょっとして、こんな愚痴こぼすおれのことバカにしてんだろ! いいよ、どうせお前らは、おれのこと……おれのこと……今日は、もうこれでおしまいだ!!」
八分も早く数学が終わってしまって、ちょっとクラスは騒ぎになった。「先生、昨日彼女と一悶着あったんだよ」「え、フラれたとか!?」「フラれるってことは、フッテくれる彼女がいたってことでしょ」「でも、さっきのさくらは、やっぱ変だよ……」
マクサや恵里奈が聞いてきたのなら「うるさい、あんたたちに関係ない!」と開き直れるんだけど、あろうことか、由美と吉永さんというクラス一番と二番の清純真面目コンビニ聞かれたから、つい喋ってしまった。
「じつは……」
「「え、尾てい骨骨折!?」」
クラスのみんなに知られてしまった。
二人に悪気はない「骨折」というところにアクセント感じて共感の叫びをあげただけ。恵里奈はジョバレだけあって、尾てい骨骨折のなんたるかを知っているんだろう。こいつも悪気なく爆笑。とんだ人気者になってしまった。
で、二時間目以降は、例の睡魔と尾てい骨の痛みが交互にやってきて地獄の一日だった。
ゆうべ夢を見た。
夢の中にあたしに似た女学生が出てきた。制服はスカートが長めだったけど、同じ帝都だ。
―― あなただれ……? ――
―― 佐倉桜子よ ――
―― え……? ――
―― あなたのひいばあちゃん ――
―― え、ひいばあちゃんが、どうして、そんな若い格好で……? ――
―― 実はね…… ――
なんだか長い物語を聞かされた。で、最後にとんでもないことを頼まれた。
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