第114話≪TEIKOKU5 聖火ドロボー≫

新・ここは世田谷豪徳寺・17(さくら編)

≪TEIKOKU5 聖火ドロボー≫





 古い学校には伝説や言い伝えが付き物である。


 佐伯君の乃木坂学院でもマッカーサーの机(『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』に詳しく載っている)とか、どこにも通じない階段とかがあるそうだ。


「さあ、六つ目よ!」


 米井さんの号令で、部活も終わった5時半に、あたしたちは、学校の玄関に集まった。


「ここに、帝都女学院の六つ目の不思議があります!」

「え、え、ええ?」


 そんな感じで、あたしたちは玄関を見渡した。


 玄関に入って右側が事務室の窓口。左側には大きなショーケースがあって、優勝杯や優勝旗、なんかの感謝状や表彰状……この手のものは、うちぐらいに古い学校なら倉庫に一杯ぐらいある。その横に『憧れ』というタイトルの少女の胸像。こんなのも珍しくない。ヘタに創立者のジイサンの銅像があるよりは趣味がいい。


「これ」


 5分ほどしてマクサが指さした。


 そこには5人の帝都の女生徒が、変な手つきして、不器用そうに固まっている油絵が飾ってあった。右の下を見るとSEIKO1964とサインが入っている。よく描けた絵だけど、線や色のタッチから美術部の生徒かOGが描いたものだろうと推測された。


「あ、この子たちの手、手話だ!」


 吉永小百合という、一度聞いたら忘れられない名前の子が発見した。


「なんて書いたあるの?」


 一番背の低い恵里奈が乗り出して聞く。


「それが……へんだな?」


 小百合はご本家に負けないくらい人生前向きな顔で小首を傾げた。


「どう変なのよ?」

「古い手話なんで自信ないんだけど、ド・ロ・ボ・ーとしか読めない」


「「「「「泥棒!?」」」」」


 みんなの声が玄関ホールに響いた。


「バレちゃったかしら?」


 声に気づいて振り返ると、なんと校長先生が立っていた。


「あ……ア!?」


 小百合が、さらに何かに気づいて口を押えた。


「そう、このドロボーの「ド」の手をしているのが私……!」


 というわけで、校長室に通された。


「あなたたちが七不思議を探しているのは知ってたわ。食堂のオジサンや技能員さんがうわさしてたから。でも、ここまで来るとは思わなかった」


「あたし、これが本命だったんです。あとのは、これの引立てみたいなもんです」


 引立てに、あたしら引きずり回したのかよ……。


「以前、校長室にお邪魔したときに引っかかったもんで」

「ああ、あれ……」


 校長先生が振り返ったところには、校長専用の飾り棚があって、そこに古ぼけたランプがあった。よく見るとランプの下にもSEIKOと字が彫り込まれている。


「その字と絵のサインがいっしょで、手話の「ド」の女の子が若いころの校長先生だって分かったんです」

「よくわかったわね?」


 同感。


「名札の字は崩してありますけど『白波』って読めました。そう読めると……頭の中で補正したら、校長先生になっちゃったんです」

「ハハ、しわを伸ばして、ぜい肉とったのね」

「あ、いえ、その……」


 米井さん以外が、みんな笑った。


「あれ、東京オリンピックの聖火を盗んだの。だからド・ロ・ボ・ー」

「え、聖火盗んだんですか!?」


「「「「「どうやって!?」」」」」


 感嘆と質問がいっせいに出た。


「むろん聖火そのものは盗めやしないわ。「ロ」の子が写真部でね、聖火リレーのスケジュール調べて写真を撮りにいったの。それを大きめのスライドに焼いてね、「ボ」の字の子が演劇部でね、スポットライトのレンズの真ん中に貼りつけて、太陽の光を集めて火を起こしたの。それやったのが「-」の子。で、その年の運動会の聖火に、これを使ったってわけ」


「あの、SEIKOというのは?」


「美術の松田先生。偶然名前が聖子だから、手話と重ねて読むと……」


「ドロボー成功!?」


 というわけで、56年ぶりに聖火のランプに火をともした。帝都伝統のオチャッピーの聖火!


 帰りに、校長先生は米井さんと佐伯君に声をかけていた。


 声は聞こえなかったけど「がんばってるわね」というのが口の形で分かった。


 七不思議の残りは、あと一つ。


 それは、もっと意外なところに……あった。


 いや、起こった!

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