第105話≪まるで 星に願いを……2≫

新・ここは世田谷豪徳寺・7(さくら編)


105≪まるで 星に願いを……2≫



「……あたし、戸籍謄本を見てしまったの」


 数分の沈黙のあと、米井さんが口にしたのは理解不能な一言だった。


 しかし、そのあとまた沈黙になってしまったので訳が分からない。


「じゃ、先生が話すけど、いい?」


 米井さんは、黙って頷いた。口を開いたら自分が爆発してしまいそうで、何かを必死で堪えているのがわかる。


「去年、乃木坂の文化祭にいって、米井さんは佐伯君と付き合うようになったの。それで、付き合いは順調に進んで、二人は、とてもいい友達になった……とても大事なね」


 ここまでは、当たり前に理解できた。Tデパートで見かけた二人は、そのとても大事を通り越して、身内のようにお気楽な状態で、こういう関係に、夢を重ねてしまうあたしたちには、つまらないものだった。


「念のため、この話は人には内緒だからね」


「「はい……」」


 先生の念押しに、あたしたちは静かに頷く。感情を表に出したら、米井さん崩れてしまいそうだった。


「ところが、この春に佐伯君は健康診断にひっかかり、精密検査で病気だってことが分かったの……命にかかわるような。そして、6月頃からは、ずっと入院生活。米井さんは、毎日お見舞いにいった。お互いに友達以上の気持ちに……なっていった」


「先生、もう大丈夫です。あとは自分で言います」


 米井さんは、涙をこらえながら、でもしっかりあたしたちの方を向いて言った。


「去年、うちのお祖父ちゃんがが亡くなったんで、遺産相続のために、お父さん戸籍謄本を取り寄せてたの。それを、たまたまあたしが見つけて読んでしまった。そして分かったの。あたしは、ずっと弟と二人兄弟かと思っていた……あたしには、双子の兄がいた……そして、いろいろ調べているうちに分かったの……佐伯君は、あたしの双子の兄だった」


 表面張力一杯の心から、涙が一筋流れていった。


「あたしは……彼も、兄妹の関係に戻そうとした。あの日は、兄妹の気持ちでTデパートに行ったの。そこを佐倉さんに見つかったってわけ。で、例のチェ-ンメール。もう、頭ぐちゃぐちゃ」


「そう……そうだったの」


 そう返すが精一杯だった。


「でも、訳わかんないけど、あなたたちじゃないことはよく分かった。先生の話でも半信半疑だったけど、今のあなたたちの顔を見ていたら分かった。わたし気が楽になった。今まで一人で胸にしまい込んで……でも、ここまで分かってくれる友達が五人もできた。ありがとう!」


 あとは、六人で泣きの涙だった。先生はあたしたちを六人だけにしてくれ、次の授業は進路指導のための公欠あつかいにしてくれた。


 この話は、これでは終わらないんだけど、こないだお姉ちゃんに夏休みの読書感想用にもらった『ノラ バーチャルからの旅立ち』の中に収録されていた『星に願いを』の話に通じるものがあった。


 不思議な体験だった。こんな身に染みる読書感想。それも書いた後に、こんな感動がきたのは初めてだった……。

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