第85話『突然の解除』
ここは世田谷豪徳寺
85『突然の解除』(さつき編)
「東京に帰っていいことになりましたよ!」
世話係の柿崎一曹が、珍しく生の喜びをむき出しにした。
どこか子供っぽい。
でも最初に会った時の女子高生風とは別の底抜けの明るさが滲んでいた。
諜報や警護の仕事はしているが、根は無邪気な人なのかもしれない。
「なにか変化があったんですか?」
「C国が宣戦布告を取り下げたんです。もっともC人民共和国じゃなくて、C民主共和国ですけどね」
噂では聞いていた。
孫文章という老人が担ぎ出され、分裂の危機にあったC国をナントカ自治区を独立させただけで、統一を当面の間維持することを。しかし、その裏で、文字通りうちの裏のアパートの住人が関わっていたとは、まだ知らなかった。
「こんなもの持たされた」
昼食で一緒になったタクミ君が胸元から引っ張り出して見せてくれた。
「え、認識票じゃない。これって普段は身分証明といっしょの定期入れみたいなとこに入ってるんでしょ?」
「ああ、特別製。さざれ石の微粒子を混ぜた金属でできてんの。さつき除(よ)け」
「ええ、あたしの指輪だけじゃだめなの?」
「念には念を。これが立川に帰る条件」
妙なもので、こうやってさざれ石で互いの想念を遮断してしまうと、逆に相手への関心が高まる。一か月近く続いた一緒の暮らしが終わるのが、ちょっと寂しく思えてくる。
食堂でバカ話をしたのが、タクミ君とのお別れだった。
彼は、その足で東京に帰った。
あたしは身の回りを整理し、二時間ほど遅れてS駐屯地を後にした。見送りは柿崎さんだけだ。
三時の新幹線に乗り、何か月ぶりかで我が家を目指した。
やっぱり、この一か月緊張していたんだろう。京都を過ぎたあたりで眠ってしまい、目が覚めたら浜松のあたりだった。
渋谷まで出て、ちょっと息抜き。
店のガラスに映る自分を見て決心。バイト時代から通っている格安の美容院へ。
なじみの美容師さんは系列の別の店にいっていたので、若い女の子にやってもらった。
「どんな風にしましょうか?」
「任せるわ。とにかく今の自分とイメチェンしたいの」
「分かりました。あたしの得意なので……」
最初はどうなるかと思ったが、思いのほか若々しいフレッシュな変形フェミニンボブにしてくれた。
「ありがとう!」
そう言って、店を出ると五分で女子高生の一群に取り囲まれた……。
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