第82話『オレって脇役なんだけど』
ここは世田谷豪徳寺・82(忠八編)
『オレって脇役なんだけど』
この物語を始めたのは、オレの責任らしいよ。
去年の暮れに、豪徳寺の脇道で水道工事のガードマンのバイトをやったのが、そもそもの発端であり、間違いだった。
オレは……改めて自己紹介。
四ノ宮忠八って古風な名前の大学生。特に取り柄もないけど、欠点もない。世間でいう「毒にも薬にもならない人間」の典型。
一応東大生だけど、今のご時世、東大生というだけではなんの値打ちもない。「理一、文三、ネコ、文二」って格言知ってるだろうか?
東大の中のランク付け。オレは、この中の文二(文系二類)。つまりネコの下で、東大ではいちばんヒマ。ヒマな分将来の選択肢に贅沢は言えない。まあ、普通の公務員か中堅企業。学校の先生というシンドイだけでやりがいのない仕事も入っている。
だから、物語の最初のころの東大生というところにアクセント置いてもらっては困るんだ。
でも、微かだけど才能めいたことがある。
選挙なんかがあると、七割の確率で当選者が分かる。特に統計資料を分析したり、政策や公約から判断するわけではない。ただ、なんとなく「この人はいけるなあ」と思うだけ。
AKBの総選挙も第一回から全部当てた。先年の指原はみんなにバカにされたけど、予想道理になり、みんなから僅かな掛け金をせしめた。
それなら、賭博の才能も……と言われると俯かざるを得ない。親父以上のご先祖には、このバクサイもあったらしく、五代前の爺さんは岩倉具視の賭博場でずいぶん稼いだようだ。
で、この五代前は岩倉具視の悪友で、岩倉具視の貴族とは思えない面構えの責任の半分は五代前にある。
このへんの話で分かると思うんだけど。オレの家系は華族で、いま時の人である竹田さんとは遠い親類になる。
こうも取り柄のない人間なんで、オレは普通に生きようと思った。
親父の会社なんか相続しても、オレには人徳も経営の才もない。だから下手にご先祖のマネなんかしたら、あっという間に重役たちの陰謀か、株主総会の議決で社長をクビになる。成らないためには、最初からならないことが大事。
だから、去年の年末は、並の大学生らしく水道工事のガードマンをやっていた。
そこで、たまたま出くわしたのが佐倉さくら。
一目見て……恋に落ちたのなら、オレも自分を誉めてやるんだけど、そうではない。
――この子は、近いうちにスターになることを予感してしまって、頭に血が上った――
そいで、狭い工事現場の端っこの道を誘導しているときに、さくらのスカートに誘導棒をひっかけてしまい、一騒ぎになったのは、最初の方を読んでもらえば分かると思う。
その後元華族ブームなんかがあって、一時はマスコミにも追い掛け回されたけど、ブームが過ぎれば、ただの人に戻った。
さくらには「チュウクン」と軽く言われてはいるが、家(アパート)が近所なんで、たまに会ったときなんかは気軽に声を掛け合う付き合いをしてくれている。ま、正直なとこは妹の篤子がさくらに気に入られ、その付き合いのおこぼれにあずかっているだけ……というのが、正しい答かもしれないんだけどね。
そんなオレの運命の歯車が回り始めたのが、C国と自衛隊の佐世保沖海戦だった。
「お兄ちゃん、すぐに出かけなさいって」
妹の篤子が、全てを用意してアパートで待っていた。旅行に必要なもの一式と真新しいスマホ。
「そこに載っている人に電話して」
昔から妹には頭があがらないので、素直に電話した。
―― はい、孫文章ですが ――
きれいな日本語だったが、オレの勘はタダモノではないと言っていた……。
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