第73話『C国艦隊との遭遇』

ここは世田谷豪徳寺・73(惣一編)


『C国艦隊との遭遇』





 ブリッジは緊張していた。


 おれは臨時砲術士のほかにも「艦長業務見習」という役割が与えられているので、いっしょに艦橋に立っている。


「北北西30海里から、C国駆逐艦と思われる艦船三隻が我が艦隊に接近しております。一時間半後には最接近、接近ポイントはここです」


 航海長がモニターのドットを示した。


「領海から僅か5海里のところやないか……」


「おそらく、その前に進路を変えるでしょうが……」


「予断だけでモノ考えたらあかん。もし、ここで出会うたらどないすんねん?」


 艦長が、だれともなく声をかけた。不思議な言い回しで、おれは自分に向けられたような気がしたが、副長が答えた。


「領海接近の警告をし、警戒行動をとります」


「今のとこ模範解答やな……佐倉くん、なんで阪神は人気あるか知ってるか?」


「はあ……おもしろい試合をするからじゃないですか?」


「せやな。ホームランでも凡ミスでもリアクションがおもしろい、選手も観客も吉本ばりのリアクションしよるからな」


「ボケと突っ込みですか?」


「せや、あれが阿吽の呼吸で、お互いイジリあいすんのがおもろいねん。船務長、118番通報は?」


「電測で発見と同時に、第七管区に通報済みです。巡視中のやしまが向っています」


 C国との艦船への接触は、第一義的には海保の仕事である。たとえ相手が軍艦でも、海自は後方から見ているしか手がない。


 艦長は、10海里までは、阪神や吉本のバカな話でブリッジを和ませていた。


「C国艦視認。ソヴレメンヌイ級3隻、引き続き接近中」


「進路変更しないのか?」


「領海ギリギリまできて反転するんでしょう。やしまは間に合いません」


「突っ込みは、相手がボケてからやで……」


「こちらが先にボケますか?」


 航海長が海自としては、当たり前の提案をした。どちらかがボケる、つまり繰り返しの回避運動をしながら牽制しあうのが、C国を相方にしてのコントのやり方だ。


「領海の直近や、こっちからボケたらちょっと恥ずかしい。まあ、こっちも護衛艦三隻や、礼儀としては、向こうからボケるのが常識。戦争やってるわけやないねんからな……」


 そう言いながら、艦長は赤いキャプテンシートから腰を上げるとCICに向かった。目でおれに付いてこいと言っている。


――C国艦、8海里に接近――


 ブリッジからの報告が上がってくる。艦長は8回裏同点の阪神の監督のような余裕で言った。


「総員戦闘配置。いこま、かつらぎにも総員戦闘配置させろ。取り舵30、二十ノット2海里でC国艦隊の左舷側に回り込む。船務長、C国艦隊に接近警告」


 わが吉本艦隊は、キレのいいボケをし始めた。


「ボケだけで済んだらええねんけどな……」



 艦長の独り言は、おれにしか聞こえなかった……。


 

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