第68話『次の役は佐倉さくら!?』

ここは世田谷豪徳寺・68

『次の役は佐倉さくら!?』




 次の仕事は東京だよ


 マネージャーの吾妻さんが突然言った。


 二カ月ちょっとに及んだ『ワケテン』の仕事が、やっと一段落。最後まで遅れていたマサカドさんの役も、あたしがモーションキャプチャーをやって、あっけなく終了。

 由香の役の撮影が終わった時に花束をもらったけど、マサカドさんの仕事で、撮影そのものが終わり、もういっぺん花束をもらうとは思ってもいなかった。

 久々に東京に帰って学校にいきたかった。思えば、一月に学校の先輩であり、シンガーでもある原鈴奈にそそのかされ、新曲のプロモにちょっと出たのがきっかけだった。


 気が付けば、半年足らずで女優のはしくれになってしまった。


 四月の初めに、この『ワケあり転校生の7ヵ月』の仕事をもらったのが本格的な女優の仕事だった。

 役が大阪の女子高生だったので、ほとんど大阪に居続けだった。まともに学校に行けた日はほとんどない。さすがに中間テストは日帰りだったけど、まともに受けられた。

 この仕事が終わったら、しばらく普通の帝都女学院の生徒に戻りたい。毎日授業のノートを解説付きでファックスしてくれたマクサや恵里奈と机を並べたかった。


 でもね……たとえ、東京での仕事とはいえ、ドラマや映画の仕事ならば、まともに学校に行けるのは望み薄だ。

 

 正直、フルマラソンを終えたあと、もう一回走ってこいと言われたようなもの。


「今度の役は、むつかしい。それに女優としては、一度は通っておかなきゃならない道でもある」


 あたしの落ち込みを屁とも思わずに、吾妻マネージャーは、今時めずらしいシステム手帳とにらめっこしている。むろんパソコンやタブレットなんかも使っているが、システム手帳だと、まず自分で書き、その上日に何度も見なおすことで、常に頭の中に自分のスケジュールや担当しているタレントのことなどが入ってくるので、このアナログでかさばるばかりの手帳の化け物がいいらしい。


「今度の役はむつかしい。主役だしな……」

「……ありがとうございます」

「なんだ、気持ちが入ってないなあ」

「いいえ、そんなことありません。主役に時めいています!」


 本当は、時めいてなんかいなかった。こんどのワケテンで、女優の大変さ。特に主役の重圧ははるかさんを見て、よく分かっている。だから嬉しさよりも気の重さが先にやってくる。


「今度の役は、佐倉さくらという役だ」


 一瞬どこかで聞いた名前と思った……で、自分の名前であることに気付いて、戸惑った。どういう意味だろう?


「しばらくお休み。自分の生活に戻るんだ」

「え……」

「今まで学校に行っていたのとは大きく違う。佐倉さくらを演ずるつもりで学校にいけ」

「は、はい!」


 あたしは、吾妻さんにドッキリで威かされた後のように、ドギマギしながらも嬉しかった。


 しかし、吾妻さんが言ったのは、単なるドッキリではないことが、学校に行って分かることに……なるんだよ(;'∀')!

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