第7給料日11日後の自宅

「起きろ、寝坊助」


日が昇っても起きる気配のないぐーたらなやつを足蹴にして起こそうと試みる。


「もう少し~、ご慈悲を~」


布団を頭までかぶり、徹底抗戦の構えのようだ。こっちも、長々とかまってる暇はない。見捨てる決断を採用。


「そうか、じゃあな」


「ま、まって~」


足で軽く小突いた後、声をかけて仕事に向かおうとしたら、足をがっちりと掴まれた。


「なんだ?」


「起きるから~、まって~」


「なら、さっさと準備しろ。飯の準備してくる」


「あー、うー、わかった~」


「待たずに喰うし、喰ったらおいてくからな」


「あっ、あいっ、着替えてすぐ行きます」


声の感じが変わった。これなら、二度寝の心配もないだろう。来なければ本当においていくだけだ。部屋を出て、台所に向かう。後は盛り付けだけのところまでやってあるからすぐ喰える。


温めたスープを器に盛り、おすそ分けでもらった試作のバゲットをテーブルに持っていく。スープは、肉屋のロイズ謹製の贅肉の腸詰ーー贅沢で上質な肉だが、切れ端や処分間近の肉をミンチにして、動物の腸に詰めて適度な長さに捻って切ったものーー入りだ。大きいほうはあいつに譲ってやることにする。スープの入った皿をそれぞれの席に置く。後は、通称ノコギリ包丁を取ってきてバゲットを切っていく。


「レーヴ、準備できたかー?」


「ま、まってください。今行きまーす」


「待たん、先に食う」


まだ、もたもたしているようなので捨て置いて、朝食を食べ始める。スープは素材が抜群なので、煮込んだだけの男料理だが旨い。バゲットは少し硬すぎる気もするが、スープに浸して食べるにはちょうどいい。ブレンダが話していたフレンチェットに使ってみるのもいいかもしれない。バゲットもフレンチェットも古代料理の一つだ。バゲットは古代パンとも呼ばれそれなりに普及している。かつては、歴史学者により麦バットという謎めいた名前をつけられていた時代もあった。現在では、とりあえず安い黒パンと硬いが美味い古代パンが一般的である。あと王宮や上流階級では白パンと呼ばれるふんわりと柔らかくとてもおいしいパンが存在するらしい。


「あああっ、先にたべてるぅっ」


「やっと来たか」


「まっててって、言ったのにぃ」


「食わないのか? おいてくぞ」


「食べますよぉ、でも相変わらず先輩のって大きいですね」


「さっさとしろ、それとも無理やり口に突っ込んでやろうか?」


「無理ですよぉ、僕の口じゃこんな大きいの咥えきれないですよ」


「立派だろ? ちゃんと味わって食えよ」


「はーい」


レーヴはいそいそと食事を始めた。腸詰めがかなり立派なので朝食にしてはボリューミーかもしれない。でも、ある意味肉体労働者である俺たちはこのぐらいの量ならぺろりと平らげ朝の活力にする。


「おいしかったです」


「そいつぁ、よかった」


キレイに空になった食器を下げて、台所の水桶に放り込んでおく。


「じゃあ、行くか」


「はいっ、今日も一日頑張ります」


そして、俺たちは職場に向かうため部屋を後にした。

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