第三十四便 重いだなんて言わないでっ!

 その後は森の中を抜けたり海沿いを走ったりした。出発前にグリシーヌが言った通り、道路は二頭立ての馬車が通れるようにある程度の広さでそこそこ整備されていた。

 森の中を抜けるときは、伸びて来た根っこでできた凹凸のせいでかなりペースが落ちたけど。


 それから、最初の橋を渡る時は、お兄ちゃんがかなり慎重になった。そう言えば、昨日、というか今日も、城からここまでは橋がなかった。


「フッフは幌を合わせて約1トン。馬の重さを考えると、二頭立ての馬車はそれより重いはずだし、荷物の重量も考えれば当然橋もそれに耐えるよう作られてるはずだけど」


 これも念のため、ということで、お兄ちゃんはグリシーヌとヴィオレットにオレから降りるよう言うと、二人だけ(!)で橋を渡った。

オレたちが渡り終えてから、グリシーヌたちが徒歩で橋を渡る。


『荷車の騎士の分際で! ヴィオレットはそんなに重くないですの!』


 この世界でも、女の子は「重い」と言われると怒るみたいだ。


『ヴィオレット、私たちが健康的な体型を維持できていることに感謝しなくては』


 違うみたい。


 ちなみに、この面倒な作業は、橋の作りがそこそこ頑丈だってわかったのと、お兄ちゃん曰く、「嵐が近づいてるから急ごう」っていう理由で、三本目の橋からは省略された。


 ともかく、そういう時間のロスも含めて、昨日グリシーヌと会った場所から1時間40分、メーター読みだと45㎞くらい走ったところで、崖際の道路を抜けると前方に尖塔が見えて来た。

『まさか、こんなに早く』

 グリシーヌがため息を漏らした。隣でヴィオレットが、『まやかしですの! 陰謀ですの!』と喚いている。

「前半の3馬時が80㎞、後半の45㎞が2馬時半って、ホントいい加減な単位だよね」

「測量技術の問題もあるから仕方ないよ。かかった時間を考えれば、3:2.5にかなり近いし」

お兄ちゃんがこの世界のことまでフォローしてから、グリシーヌに訊いた。

「あれが港ですか?随分大きな街に見えますが」

 確かに、近づくにつれて、尖塔だけじゃなくて、崩れかけた城壁や大きな石造りの建物が見えた来た。

『はい、ここは私が生まれる前は、東の国の首都だった場所です。当時は〝ポールグラン〟と呼ばれていました』

『何、じゃあ、街を捨てちゃったの?』

『捨てたんじゃないですの! 勇気ある撤退ですの!』

『ヴィオレット! 知りもしないで適当なこと言わないの!』

『だってお姉さま』

『私もよく知らないけれど、〝夏の魔女〟に襲われたらしいわ。って、荷車の騎士様に伝えてね、フッフ』


 同時通訳ちゃんとしてるよーだ。


「それで、貿易に有利なこの場所から、現在のお城のある所に移ったんですね?」

『はい。ただ、この島、少なくとも領内ではここ以外に港に適した湾がないので、港としての機能だけは残し、定期的に来る外国の貿易船との取り引きを行っています』

「グリシーヌ姫様が毎回来ているわけではないですよね?」

『もちろん、普段は専門の馭者が馬車を駆って来ているのですが、今回の流行り病で、その馭者も寝込んでしまっていて、他の者は戦争に行っていますし、健康状態が良かった私が、父上の反対を押し切って来たのですが、帰路、馬車が壊れて……』

 それから又お兄ちゃんをメスの目で見る。

『荷車の騎士様があの時助けて下さらなかったら、私も、私の国の者もどうなっていたか』

「グリシーヌ姫様ががんばったからですよ」

 お兄ちゃんはグリシーヌの視線に気づかず、初めて見る街の様子を眺めながら答えた。

「まあ、それはそうと、倉庫はどこですか?」


 ざまあみろ。

 オレはグリシーヌに舌を出した。

 彼女がオレをちょっと睨んだ。

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