第三十二便 変な単位を言わないでっ!

 出発前にグリシーヌが言っていたけど、港までは五馬事半くらいらしい。


『地図をお見せできなくて申し訳ないのですが……』

 申し訳なさそうに彼女が説明したところによると、昨晩オレたちがグリシーヌと会ったところから、更に南に二馬時半くらい行ったところが港。


「そこから前線に直接行けるんですか?」

 お兄ちゃんが訊いたら、グリシーヌは首を横に振った。

 言い忘れてたかもだけど、この動作の意味もオレたちが元いた世界と共通(一部を除く)。


『前線と港の間には島の中央、イモータリテ山がそびえたっています。山沿いの迂回路は道も悪いので、城の近くを通る街道まで戻るのが最も早いと思います。ですから、往路で5馬時半、帰路も同じ、そこから7馬時ですから、馬車であれば、馬の休息も含めて最低でも四日はかかる距離です』

「道はどんな感じですか? グリシーヌ姫様とお会いしたところから城までは、そこそこ整備されていたように思いますが」

『港まではほぼ同じように整備されています。我が小国が他の大国と対等に渡り合えたのは、海外との貿易のおかげでもありますから、先祖代々港までの街道は整備して来ました』

「前線までは?」

『港まで程ではありませんが、馬車が通れる程度には整備されています』


 まあ、整備って言ったってアスファルトじゃないけど、確かに、更地の割には凹凸が少なくて走りやすい。

 でも、港が大事ってなら、その近くに都市を作ればいいと思うけど。

「それはまた何か理由があるんだよ、きっと」

 お兄ちゃんはオレの陰口を聞いて、たしなめるように言った。


 ちなみに、この世界(少なくともグリシーヌたちの国)での〝一時間〟は、元の世界で言うところの大体二時間くらいみたい。時間は、日中なら城内(城の壁の中)では日時計、城外は太陽の高さで見ているようだ。

 城内ではともかく、城外、つまり国のほとんどの場所では、曇ったり雨が降ったりすれば、勘。

 夜は星の位置で見ているみたいだけど、そこまで時間に追われる生活をしてないから、あくまで目安みたいだ。

 そして、〝馬事〟という単位だけど、これはやはり、馬が一時間(つまり二時間)で走れる距離のことだった。

 ただし、


 時間の計測が不正確

 距離の計測も不正確

 〝馬〟と言っても、元の世界の馬と微妙の違う生物


 結局、これもかなり大雑把なようだ。


 だから、メーターでほぼ正確な距離がわかると言ったら、グリシーヌたちは驚いていた。

 助手席から見えるメーターパネルは、『朝日と星の絵』くらいに思ったらしい。

 

 地図は見せてもらえないけど、どうせあてにならないと思う。

 まあ、王様が王様だしね。

 いっそ、お兄ちゃんがこの国の王様になっちゃえばいいのに。


 その場合、グリシーヌは、まあ、厨房係で雇ってあげてもいいけど、ヴィオレットは国外追放だね。


「痛っ!」


 寝ぼけたヴィオレットの肘がお兄ちゃんの脇腹に刺さった。


 ……ヴィオレットも、侮りがたし。

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