第22話 混沌のマスカレード-3 命を預け合う恋人たちと……
「やはりっ! 槍を振るう君は頼もしい!」
「どうして前へ出て来たんだアーヴァイン! ここは死地だ! そして君は我が国の……」
「第二王子! だから家臣である
殺戮の波は、決してエメロードや一徹の周りだけに押し寄せているわけではない。
肉の裂けるくぐもった音、骨の砕ける鈍い音、腱がちぎれたバチンッ! という音はあちらこちらで聞こえる。
そしてその音が生じたところでは、必ず誰かの悲鳴と、床に崩れる音から、絶命した者がいることを誰にも分からせた。
その災禍にはとりわけ目的があるから、こういったところに集中した。
すなわち、抵抗するに足る力を持っている者のところに。
槍の柄を棍とし、叩きつけ、突きこみ、槍の穂先を返すと、その腹で殴りつけたルーリィ。
アーバンクルスは突いた剣を、的確に相手の急所へと差し込み、薙ぐとともに唱えた魔技を存分に発揮する。
そう、だから襲撃者たちは、ルーリィとアーバンクルスを作戦の弊害になると判断した。
「クッ!」
「伏せろアーヴァイン」
二人の連携は見事なもの。動きの詰まったアーバンクルスは声に反応し身を低く沈みこませる。
「ガハッ!」
鈍音と共に、後ろに男がのけぞり倒れたのは、アーバインがしゃがんだことでできた空間に、ルーリィが思い切り振った槍の腹に殴り飛ばされたゆえ。
「大丈夫……‼」
「まだだよ! 《シャッドルーウォッ》!」
ルーリィがかけた言葉を塗りつぶし、アーバンクルスは唱え挙げる。
視線に導かれる形で振り返ったルーリィは絶句した。
アーバンクルスに応えた石の槍が、パーティホールのフローリングを突き破り、床から
「が、ガフッ! フ、フ、フグゥ!」
生えた石の槍の、上に伸びる力に押されるように、貫かれたまま宙に浮く男は口から血を吐き、ぐるりと白目をむきながら槍の埋まった腹を押さえ、あえぐ。
「あ、あ……カハァ……」
内臓を引き裂かれ、背中を貫通する。そんな目にあったジタバタもがく男が、助かるはずもなく。やがて細い吐息を、最期の生の活動を絞り出した男は、ガクリと力尽きた。
力尽きて、柱が埋まる力に抵抗をやめていくから、ズブリズブリと死体は深く、石の槍に沈み込んでいく。
「やはり、アーヴァインも騎士……なんだな。私は……」
「ルーリィッ!」
悲鳴に反応し、至近距離でそんな凄惨な光景が目に飛び込み、一瞬の呆然。
「アーヴァッ!」
アーバンクルスの声でやっとのこと我に返ったルーリィ。その時、走りこんできた恋人に抱きしめられ、床に押し倒された。
「ッ!」
それをさせられるだけの事が起きたことは一目見て理解した。
あおむけに倒れ、先ほどまで立っていた箇所に視線を送る。その先を、凄まじいスピードで、何かが過ぎ去った……だけじゃない。
死んだ男を貫いていたままの、直径も太い石柱槍に、過ぎ去った《何か》がぶつかり、そして……
「あれは……敵か!」
「ガァハァァァ!」
石柱槍は粉々に砕かれた。
砕いたその弾となった男の挙げた叫び。ルーリィの脳裏にこびりつきそうなほどよく響く。
ビクンビクンと、それでもまだギリギリ生を保っている、弾となった男の様子を目に、飛んできたその軌跡を目でたどり、その軌跡の始まりと予想できる場の光景に、ルーリィは槍をあわや落としそうになった。
敵、敵、敵敵敵。
が、すべては、立っていたその男を中心として、怨嗟の声を挙げていた……床に伏しながらだ。
五や十では利かない、倒れている襲撃者の数。
涙を流し、叫んでいた。痛みの患部に手を当てながら、呻いていた。
「あの男がやったのか……」
立っているのは、仮面の黒衣の男。
首に巻いていた黒い帯を緩め、胸で一つ大きく息を吐いていた。
両手に何本もの、銀の
「冗談も……大概にしてくれ? なんて無茶苦茶なんだ」
いまも、一人の敵が退けられた。
黒衣の男から受けたたった一蹴り。どれほど馬鹿馬鹿しい力かはしらない。が、聞いたこともない衝撃音は爆ぜ、ルーリィが
あまりにも信じがたい光景。あまりにふざけた戦い方に、さしものルーリィも打ちのめされたかのように不愉快男へ零すしかない。
「ルーリィ、取り急ぎは行くよっ!」
「行くってどこに⁉」
状況は……そこから変わった。
「あの黒衣の彼のもとに、いまや彼が十分な戦力になることが分かった!」
先んじて立ち上がったアーバンクルスの、ルーリィを抱き起して口にしたセリフがきっかけ。
「ゆえに、こちら側の戦力を集中させる!」
そうして、アーバンクルスはルーリィの手を引いて走り出す。
声を耳に、走る方へと目を向けたルーリィも、その考えの意味に気が付いた。
ある意味で、陣営が出来ていたから。
黒衣の男、そして今までは気づかなかったが、その近くには、先ほど黒衣の男を救ったボディライン際立つ赤いドレスを身に纏った女も、男と同じく銀の
その二人の後ろには、いつの間にかこのパーティの参加者で、闘えない者たちが逃げ込んでいたのだ。
そう、ある意味では陣営。
黒衣の《不愉快男》、そのパートナーを自称した女を防衛ラインとした、パーティ参加者の陣営。
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