三眼の覇王~ゲームの開始前に死んでしまうキャラに転生した俺は運命を変える~

黄昏時

第1話 ごく普通の転生者?

「……ハァァ」


 俺は大きなあくびをしながらベッドから上体を起こす。

 俺はこの世界に生を受けて三年ほどになる転生者だ。

 とはいえ俺はこの世界をよく知っている。


 何せこの世界は俺が前世で一時期めちゃくちゃハマっていたゲーム「Defiers of Destinyデファイアーズ・オブ・デスティニー」、略してDODというゲームの世界なのだ。


 DODは簡単に言うと、魔王や邪神を倒す王道RPGゲームだった。

 ただ他のゲームと違う点があったとすればそれは無限のエンディングが存在すると言うことだ。


 まず持って主人公として選べるキャラに制約はなく、世界に存在しているキャラクターなら誰でも選べ、尚且つそのキャラクターごとにエンディングが存在していたのだ。


 さらに特筆すべきは、全く同じエンディングは二度と辿り着くことができないと言うものだ。

 有識者が調べたところ、全て同じ行動で同じ選択肢をしたとしても同じエンディングには辿り着くことができなかったらしい。


 どうやってそんなゲームが作られたのかは謎だったが、凄まじい完成度と飽きないゲーム性に俺はDODの虜になっていた。


「けど……なんでよりによって……」


 アインハルトなんだ!!!!!!!!!


 俺はそう叫びたいのを必死に我慢しながら唇を噛む。

 DODは元々どのキャラでも選ぶことができたが、それは存在していればの話である。

 

 物語の英雄や故人を選択することができないのは当たり前の話。

 そして俺が転生したアインハルト・スティファーノは後者の故人なのである。


「つまり既定路線だと死ぬんだよ……しかも5歳で」


 そう。

 問題はこのまま行けば二年以内に死んでしまう運命ということだ。

 しかもその死因は……


 誰にどのように殺されるのかまではわからないが、暗殺されるのは知っている。

 なにせアインハルトはプレーヤーの中では有名なキャラクターだったからな。


 


 それがプレーヤーの中でのアインハルトの通称だった。

 理由は発売前に公開されたPVの影響だ。

 映像ではまるでアインハルトが主人公かのように紹介されていた。


 ただ蓋を開けてみると開始段階で既に亡くなっており、回想でしか出てこないキャラクターと言う残念なものだった。

 これにはかなりの批判とDLCでアインハルトを選択できるようにするようにという要望が殺到していたらしい。


 かく言う俺もDLCでの実装を望んでいた人間の一人ではある。

 なにせPVで流れた一文がかなり唆るものだったからだ。


 《既存の魔法を使うことはできないが、それを遥かに凌駕する特殊な力を宿している》


 そんな売り文句を言われたらプレイしてみたいに決まってるだろ!

 だから正直そんなアインハルトに転生できたのは嬉しくはあったりする。

 とはいえそれは死ななければの話である。


 暗殺されて死ぬのがわかってるならなんとかなると思うかもしれないが、事はそう簡単な話ではない。

 なにせアインハルトは辺境伯家の長男であり、正真正銘の貴族。


 しかも辺境伯であるため、軍事力は言うまでもなく自宅の警備は最高峰。

 その上父親はこの国で五本の指に入る実力者。

 更には死ぬ前提で作成されたためなのか、能力も異常なほど高水準ときている。


 正直なところ、普通の暗殺程度では死ぬとは考えられない環境と実力なのだ。

 いくつか仮説を立てることはできるが、どれも可能性の域を出ないものばかり。

 結論としていますべき事はわからないことを考えるのでなく、自身を守れるだけの力をつけること考えた。


 ではこの世界における力……強さとはなにか?

 この世界……つまりはDODの世界観は剣と魔法のファンタジー世界。

 しかしながらステータスやレベルアップのようなものは存在しない。


 唯一存在するのは特性と呼ばれる資質のみだ。

 その資質次第でその人の強さや能力が決まると言っても過言ではないだろう。

 例えば『怪力』の資質を持っていれば筋力が常人よりも高く力が強かったり、『集中力』の資質を持っていれば極限の集中を発揮できるが、脳への負荷で長時間使えないとかがある。

 

 しかも特性には大まかに分けて四種類あり、一般特性・種族特性・上位特性・特殊特性の四種類だ。

 そして俺ことアインハルトはわかっている情報だけでもかなり高水準の特性を保持している。


 わかっているというのは現状では自身の特性を確認するすべがないのだ。

 というのも特性の確認は特定の場所でしか行えず、プレイすらできなかったアインハルトに至っては事前情報として公開された物以外はわからないということだ。


 因みに公開されたアインハルトの特性はこんな感じだった。


一般特性

『記憶力』『集中力』『目利き』『直感』

種族特性

『適応力』

上位特性

『超人』『不屈』『短命』

特殊特性

『三眼』『血統因子』


 これはあくまで一部の公開であると公式が断言していたため、更に増えるのは確実だ。

 とはいえこれだけでもDODではかなり上澄みの特性所持者だろう。


 一般特性は汎用性の高い感覚系の特性を複数所持しているのは大きい。

 種族特性に関しては人族であるため特になく。

 デバフ特性として『短命』を所持していることを考慮しても、上位特性と特殊特性が複数あるのはかなり評価が高い。


 まぁDODの主要キャラと呼ばれる人物達は普通に持ってたりするんだが、そのキャラ達とも公開されていない特性と育成次第では十分張り合えるレベルだろう。


 コンコン


 そんなことを考えていると、不意に扉をノックする音が聞こえた。


「坊ちゃま、朝食のお時間です」

「わかりました。すぐ行きます」


 俺は扉の外から聞こえてきたメイドの声にそう返し、手早く着替えを済ませ食堂に向かう。


 食堂に入ると周囲に執事やメイドが数名立っており、入ってきた俺に対して軽く会釈している。

 それに対して軽く会釈を返しながら、俺は部屋の中央にある唯一の机に向かって歩を進める。


 そこには既に若い男女が座っていた。

 彼らはアインハルトの両親であり、今生の俺の両親でもある。

 母はセシリア・スティファーノ、父はグレゴール・ヴァロリアン・スティファーノ。


 二人共かなりの美形でアインハルトもその遺伝子を色濃く受け継いでいる。

 DODでもグレゴールはかなりの人気キャラのうちの一人だった。

 強さもこの国の5本の指に数えられる実力者だ。


 ただ俺はグレゴールでDODをプレイしたことは一度もない。

 なにせバックグラウンドがあまりに悲惨で、俺には合わなかったからだ。

 グレゴールでプレイを開始するときの一文は「愛する妻と息子を殺され、復讐のために生きる元・辺境伯」。


 この一文を見て分かる通り、母親であるセシリアもまた俺と同じタイミングで暗殺される。

 グレゴールに関してはプレイしたことはないものの、ネットのお陰で多少知っている部分があったりするが、母親であるセシリアに関しては全く情報が無い。


 とはいえ、二年も一緒に生活していればわかってくることもある。


「遅れて申し訳ありません父上、母上」


 俺は先に席についている両親に向かってそう言いながら軽く頭を下げる。


「いいのよ。私もいま来たところだから。ね? 貴方?」

「あぁ。だからアインハルトも気にせず、席に座りなさい」


 セシリアは満面の笑みでそう言い、グレゴールは表情を変えずただどこか柔らかい口調と雰囲気でそう言った。


 そう。

 俺ことアインハルトは両親に愛されている。

 何なら溺愛されていると言っても過言ではないだろう。


 なにせ俺が一人の時間が欲しく寝室を分けたいといったところ、二人から猛反対されたからな。

 二人を説得するのに一ヶ月近く要するとは考えてなかったよ……


 だからこそより強く思い、覚悟を決めたのだ。

 絶対にこの二人を不幸にはしない……救ってみせると。

 俺はそう考えながら軽く会釈をして席に座る。


 俺が席についてから少しすると、部屋に朝食が運ばれてきた。


「そういえば貴方、アインの先生は決まったの?」

「まだだ」

「なら再来月の第二王女様の誕生会には間に合わなそうね」

「そうだな。アインハルトには悪いが、留守を任せることになりそうだ」

「いぇ大丈夫です。私のことは気にせず父上と母上は楽しんできてください」


 俺は二人に対して笑顔でそう応える。

 先生……謂わば家庭教師のようなものだが、教える内容は多岐にわたる。

 一般教養・貴族のマナー及び作法・国の歴史・算術・語学等様々だ。


 一般的に貴族の子供につける家庭教師は5人〜6人と言われているらしい。

 らしいというのも、執事やメイドが話していたのを盗み聞きしただけだから確かではないが……


 とはいえ幼年期という今後に多大な影響を及ぼす時期の教育に、適当な人間を当てがうなどできるはずがない。

 素性や関係の悪い貴族に弱みを握られていないかなどの調査を行い、慎重に吟味するのは至極当然のこと。


 とはいえ、流石に時間がかかりすぎな気がしなくもない。

 何せ俺が生まれてくるのはわかっていたのだから、そこら辺の準備はある程度できたはずなのだ。


 何というか、作為的に遅らせているような気がする。

 単なる気のせいという可能性も否定できないから何ともいえないが……


「アインが居ないのに楽しい要素なんて何もないわよ? どうせ媚の売り合いだけの場なんだから、疲れるだけよ。ねぇ貴方」

「フッ、そうだな」

「ハハハ」


 セシリアの心底嫌そうな言葉に笑顔で返すグレゴールを見て、俺は乾いた笑みを浮かべながら応える。

 実際その通りなんだろうが、ここまでハッキリ言う貴族は他にいないだろうな……


 セシリアは貴族の出であるのだが、それにしては珍しく貴族嫌いで領民に寄り添った思考の持ち主だ。

 グレゴールも同じく腐敗を嫌い領民に還元されない政治を嫌うため、二人が結婚したのは必然だと言えるだろう。


 そしてそんな二人の間から生まれた子供が同じような考えなのもまた必然だろうな。


「にしてもアインは本当に物分かりが良くて賢いですね! 先生がついたらすぐに知識を吸収していくんでしょうね」

「そうなればいいのですが……」

「そんな謙遜までして……大丈夫です! 母である私が保証します! アインは立派な大人に成長すると!」

「ありがとうございます。母上」


 そうやって胸を叩いて宣言するセシリアに向かって俺は感謝の言葉を伝える。

 横で聞いていたグレゴールはそれを見て笑みを浮かべる。


 本当にいい両親だよ……

 この二人を不幸にしないためにも、行動を起こすのだ。

 そう覚悟を決め、俺は視線をグレゴールへと移す。


「そういえば父上、お話させていただきたい事があるのです。食事の後少しお時間はありますか?」

「……夜ではダメか?」

「できれば早い方が助かります。ただお時間が無いようでしたら夜でも構いません」

「……長くは難しいが大丈夫か?」

「はい!」

「では食事の後少ししてから私の執務室に来なさい」

「ありがとうございます! 父上!」


 俺はそういってグレゴールに向かって頭を下げる。

 よっし!!

 まずは第一段階だ!


 今日動くと決めて話す内容も考えてあるんだ。

 勿論事前に今日はグレゴールに時間が多少あるのは執事やメイドから確認済みだ。


「何ですかアイン? 私には話せないような内容なのですか?」

「いえ、そんなことはありませんよ母上。ただ父上の許可を貰ってからちゃんと母上にもお話しさせていただきます」

「いいですよ。どうせ母は除け者ですよ」


 セシリアは不貞腐れるようにそういいながら視線をそらす。

 だが次の瞬間には悪戯っ子のような笑みを浮かべながらこちらに視線を移す。


「嘘です。しっかり後で母にも教えてくださいね。約束ですよ?」

「勿論です。母上」

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