第33話 襲撃

「カナレに猫の姿で1週間ぐらい東富士を調べて貰うといのはどうでしょう。相手の動きを知るのは基本ですから。

 それで、動きがあって東京に出てきた所を迎え撃つのは?東富士で倒してもそのまま秘匿される可能性がありますから、衆人が見ている前で対処する方がいいと思います」

「ですが、カナレが猫の姿で対処すると、それこそ問題ですよ」

「いえ、カナレではありません。ご主人さまが対処します」


「ええっー!!いや、そんなの無理です。俺は普通の人間です」

「カナレに防御の能力を与えられているのでしょう。私もご主人さまに攻撃の能力を与えますから」

「いやいやいや、そんな簡単に攻撃力が貰えるとは思えないです」

「ご主人さま、私を誰だと思っています。神ですよ」

「駄女神ですよね」

「ご主人さま、酷い」

 カナレの姿をした女神さまが泣き出した。こうなるとカナレ自身が泣いているように見える。

「分かりました。やります。やります」

「ご主人さま、ありがとうございます。では、カナレと交代します」

「ご主人さま、女神さまの案を採用するのですか?ご主人さまに危険な事をさせる訳にはいきません」

「だけど、約束しちゃったし。狐の暴挙を抑えるには仕方ないかもしれない」


 結局、女神さまの案を実行することになり、カナレは1週間、田舎に帰省する事にして、ケーキ屋の美佐江さんと店長には断りを入れた。

 カナレは夜中に大猫になると、家の屋根の上を駆けて行く。

 女神さまもカナレと一緒に行ったので、久しぶりにこの部屋に一人だ。

 だが、この部屋は次元の狭間にあるので、窓の外の空間は歪んでいる。

 外の様子はTVでしか分からない。


 そのTVに黒い車が映った。今度は、防衛省の見張りがついたんだろう。

 翌朝、起きて見るとやはり車は止まっている。

 どうやら、相手もいろいと手を打っているみたいだ。


 俺はいつもの通り大学へ行き、それからバイトをしてからアパートに帰って来ると、玄関の所が何だか違和感がある。

 それはうまく口では言えないが、経験的な勘というか、誰かが中に入ったのでばないかというような感じがする。

 恐らく、防衛省のやつらが中に入ったのかもしれない。

 俺はドアノブを回して、部屋の中に入った。

 その瞬間、空間が歪む。

 どうやら、この特別な部屋の方には、入れなかったみたいだ。部屋を荒らされた形跡はない。

 すると、通常空間の部屋はいろいろと調べられているかもしれないが、あちらは探しても何も出ないだろう。

 TVを見て居ると、車から二人の男が出て来て、こちらに歩いて来る。

 アパートの階段を上って、部屋の前に来た。ドアをノックするが、俺は空間の部屋で知らんぷりをしている。

 俺が応答しないので、男たちは鍵穴をいじり出す。

 鍵が開いて部屋の中に入ってくるが、そこには誰もいない。

 俺は空間の部屋の中から、自分の部屋の中を見ており、それは変な気分だ。


「おい、誰もいないぞ」

「たしかに、部屋に入ったのを見ただろう」

「窓にも鍵がかかっているぞ」

「おかしい、どこに行ったんだ?」

「風呂と、トイレはどうだ」

「どっちにもいない」

「天井とクローゼットは?」

「そこも確認したが、いない」

 俺はその様子をTVに付けたハードディスクに録画した。


 翌日、俺は大学に行くために、アパートを出た。

 すると、車から降りた男が二人、俺の後をつけて来る。

 さすがに朝であり、人通りも多いので、襲って来る事はないが、それでも電車に乗り、大学の入り口まで来た事は確認している。

 建物の中から外を見ると、見張っているのが目につく。

 授業が終わると、今度は自宅近くのレストランでバイトするため、移動するが、朝と同じように後ろをついて来る。

 そして、レストランのバイトが終わって、アパートへ向かう公園を通っている時、俺の行く手を塞ぐように3人の男が立った。

 後ろには、後をつけて来た男が2人立っている。

 計5人で俺を囲んだ。

 しかも、男たちは目出し帽を被っており、顔は分からない。

 服も黒っぽく、身体は鍛えてある事が服の上からでも分かるが、手に武器は持っていない。

 所詮、学生と思っているのだろう。


 男たちは何も言わずに殴りかかって来た。

 カナレや女神さまから能力を貰っていない俺ならば、この男たちの相手にもならないだろうが、今は防御の能力と攻撃の能力がある。

 殴りかかってきた男の動きがスローモーションに見えている。

 俺はそれを躱し、殴って来た男の右手を取ると、一本背負いのように投げた。

 すると男はそのまま空中を飛んで行き、ジャングルジムにのめり込むようにぶら下がった。

 男は動かない。

 それを見た他の男たちは、一瞬怯んだが、拳に鉄サックを嵌めると、今度は一斉に襲って来た。

 正面から来た男の右手を取り、俺の後ろから来た男の顔面に鉄サックの嵌った拳を合わせると、後ろの男の顔面から骨が砕ける音がする。

 次に右から来た男の右手を取り、正面から来て、相打ちしている男の側頭部に同じように鉄サックを嵌めた右手を誘導すると、先ほどの男と同じように骨の砕ける音がする。

 さすがに訓練されているのだろうか。頭の骨を砕かれているはずなのに声は出さない。

 今度は、反対側に回り込むと、男の腕を掴んで、やはり一本背負いのようして投げると、ブランコの横棒に背中の方からめり込んで、身体が逆くの字になっている。

 こうなると生きていても、下半身不随になり、一生車椅子生活となる。

 俺は、残った男の後ろに回り、鉄サックを嵌めている手を縛り上げた。

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