第17話 銀行強盗
「カナレ、さっきの事はどう思う?」
「さあ、どういうつもりなんでしょうか?」
その時は、狐がどういうつもりで男たちを連れ去ったのか分からなかったが、翌朝のニュースでそれが分かった。
「昨夜、大川に男性2人の死体が上がりました。この2人は現金輸送車襲撃犯人の一味と見られ、どうやら仲間割れのあげく、殺されたとみて警察が残り二人の後を追っています」
「カナレ、このニュースどう思う?」
「昨日の二人は小者です。とても現金輸送車を襲った犯人とは思えません」
「カナレもそう思うか?だとすると、狐は犯人に仕立てる為に、あいつらを連れ去ったという事かもしれない」
「何故、現金輸送車の犯人を殺さなかったのでしょう?」
「まだ、生かしておいて利用するつもりなのかもしれない」
「どういう風に利用するんでしょうか?」
「さあ?そこまでは、分からないが」
だが、その答えはそれから数日が経過し、事件となって現実の問題となる。
俺が大学からバイトに向かおうと、駅を降りたら、いきなり通行規制が張られている。
「どうしたんですか?」
近くに居た人に聞いてみた。
「どうやら、銀行強盗らしいよ。人質を取って立て籠もって居るという話だ」
「えっ、銀行強盗ですか」
俺は、遠回りして、バイト先のレストランに入った。
「店長、香苗さん、大丈夫ですか?」
「おおっ、一くんか、駅の方はどうだった?」
「ええ、凄い警戒でした。とても歩ける状態ではありません」
「こっちも、お客さまも来なくて、今日は開店休業状態よ」
「ちょっと、カナレの所に行って来てもいいですか?」
「ああ、行ってくるといい」
俺は、着替えもせずに店を出て、カナレが勤めているケーキ屋に向かった。
店の前に来て中を覗いても、誰もお客がいない。
俺は自動ドアから中に入った。
「いらっしゃいませ」
美佐江さんが迎えてくれた。
「あら、一くん。どうしたの?」
「いえ、銀行強盗があって、店も暇なんで、カナレの様子を見に来たんです」
「あっそう。ちょっと待ってね。カナレちゃん、お兄さんが来たわよ」
美佐江さんが奥に向かって呼んでくれる。
「あっ、お兄ちゃん」
「カナレ、大丈夫か?」
「うん、私は大丈夫。そっちは?」
「こっちも大丈夫だけど、お客が来なくて休業状態なんだ」
それを聞いた美佐江さんが、答えてくれた。
「あら、そっちも。こっちも今日はお客が来なくて。警察が外出しないようにって言ってるから。それから、幼稚園や学校も早退だって」
見ると表を歩いて人も疎らだ。
「どうしようか?」
「この状態だと、しょうがないから、今日はお店もお終いだわ」
美佐江さんは奥の厨房の旦那さんと相談している。
「今日はもう閉店にするって。カナレちゃんも一くんと一緒に帰った方がいいって」
「カナレ、お言葉に甘えてそうするか?」
カナレは着替えてくるために奥に行った。
「一くん、これ持って行って。もう捨てるしかないから、持って行って貰って構わないわ」
「いいんですか。こんなに貰って」
「いいのよ」
美佐江さんはケーキの入った箱を2つ渡してくれた。これだけで、今日の夕飯の心配はしなくても良さそうだ。
カナレが着替えてきたら、俺のバイト先のレストランに向かう。
裏口から中に入ると、店長と香苗さんが店を閉める準備をしていた。
「店長、どうしたんです?」
「いや、今日はもう駄目だろうから、店を閉めようって、香苗さんと話をしていたんだ」
「私も子供を学校まで迎えに行かなきゃ」
「そうですか。仕方ありませんね。あっ、これ、美佐江さんから貰ってきました。良かったら香苗さん1つ持って行って下さい」
「えっ、いいの。サンキュー、一くん」
香苗さんはケーキの入った箱を1つ持つと、さっさと帰って行った。
「じゃあ、俺とカナレも帰るか?店長、お先に失礼します」
「ああ、気を付けて帰れよ」
俺とカナレは店を後にした。
まだ、暮れていないうちにアパートに帰るってことはなかったので、部屋でカナレと向かい合うと変な感じがする。
「ご主人さまどうします?」
「そうだな、食事にするか?」
何気にTVを点けると、銀行強盗の中継をしている。
どこのチャンネルを回しても中継になっている。
どうやら、かなりの事件になっているようだ。
「パンパン」
TVから銃声がした。
「今、犯人が発砲しました。中の様子は分かりません」
レポーターが興奮気味に話す。
俺とカナレもTVの方を見ている。
「犯人は二人組で、この前現金輸送車を襲った犯人と見られています」
「カナレ、どう思う?」
「恐らく、狐に操られている二人でしょう。
ですが、この前水死体になった二人は、替玉でした。そして、この二人が本物だとしてもまだ二人が行方不明です。
狐は残り二人をどうするつもりなんでしょう」
「うーん、どうしても狐の目的が分からないな。やつは何をしたいんだろう」
「だけど、人間に対する復讐と言ってました。まだ何かするつもりなんでしょう」
「あっ、今警官隊が突入しました。警察が突入です」
レポーターが忙しくマイクに向かって話しかける。
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