第16話 現金輸送車襲撃
「それでは、ここに居るカナレも誰か人に憑いた魂だと言うのか?」
「私のこの身体は、女神さまが女神さまの身体を元に作ってくれました。
なので、人に憑いた身体ではありません」
それを聞いて、俺は安心した。狐と同じではないようだ。
だが、その不思議な服はどうなんだろう。
「その不思議な服はどうなんだ」
「これは女神さまが、私の体毛から作ってくれた特殊な服です。その時に様々な能力を付与してくれました」
こちらも女神さまの手作りらしい。
もしかしたら、女神さまは、狐を退治する役目をカナレに持たせたんじゃないだろうか?
そう思えば合点がいく。
だけど、そうであっても今の俺にはカナレと別れる事は考えられない。
カナレが言ったように、俺とカナレは前世ではきっと強い絆で結ばれていたような気がしている。
きっと、その時も俺はカナレに助けられていたんだろうな。
「カナレ、俺の側に居てくれないか。これは俺からの頼みだ」
「私はご主人さまと一緒に居ていいんですか?」
「当たり前だ。これからも俺の側に居てくれ」
カナレは涙を流した。
「さて、では、ご飯にしようか」
俺は賄い物をタッパーから出した。
「ご主人さま、人間の姿で居る時は、暖かい物でも大丈夫です。
どうやら、猫舌って、猫の時だけみたいです。そこはあの女神さまも、ちゃんとやってくれたみたいです」
「そう言えば、風呂もそう言ってたな。人間の姿で居る時は、完全に人間界に適応できるんだな」
「どうやら、そうみたいです。あの女神さま、駄女神じゃなかったんですね」
「さあな、俺もその女神さまに会ってみないと何とも言えないな」
「きっと、女神さまは今も見ていますよ」
「それじゃあ、悪口は言えないな。女神さまは、お美しいとか言ってた方がいいかな」
「フフフ、今頃は赤くなっているかもしれません」
「ハハハ、そうだな。女神さまは、お美しい」
二人、食事の時に笑い合った。
それから数日した朝のTVで、今度は現金輸送車が襲われたニュースをやっていた。
輸送車の警備員は二人とも刺殺されたとの事だ。
「カナレ、これもあの狐の仕業だと思うか?」
「その可能性が高いと思います」
TVではニュースの続報をやっている。
「目撃者の情報から現金輸送車を襲ったのは男性4人組と思われ、警察は行方を捜しています」
「男4人組だと。こいつらも狐に操られているのかな?」
「狐も念術は使えるでしょうから、その可能性は高いと思います」
現金輸送車襲撃の事件はあっと言う間に広がり、大学でも話題となっていた。
「最近、物騒な事件が多いな」
「ああ、現金輸送車で盗まれた4億円って、まだ見つかっていないんだろう」
「石田、またお前のアパートの近くじゃないか。本当に大丈夫なんだろうな?」
「そんな事、俺に言われてもどうしようもないじゃないか」
「まあ、それはそうだが…」
大学が終わって、駅からバイト先に向かう道路を歩いている時だ。パトカーがサイレンを鳴らしながら走って行く。
スマホのニュースサイトを見ると、現金輸送車を襲った時に犯人が使ったと思われる車が発見されたとあった。
バイト先のレストランに入ると、香苗さんが早速、事件の事を言ってきた。
「一くん、現金輸送車の強奪で使った車が、河川敷で発見されたって。なんだか、あそこの河川敷だけ、殺人や強盗があって怖いわ」
「犯人は分かったんですか?」
「それは、まだみたい。あっ、それじゃ私は、お先に上がるわね」
「はい、お疲れさまでした」
俺は香苗さんと交代した。
香苗さんと交代すると直ぐにディナータイムになる。
そして、8時になるとケーキ屋が閉店となるので、カナレがこっちに来てくれる。
一段落したと思った客足がカナレが来た事でまた増える。今度は男性客が多くなって、お酒もかなり出るので、店としては有難い。
以前は8時を過ぎるとお客も少なくなっていたのに、これがカナレ一人でこんなに変わるものだろうか。
聞けば、ケーキ屋の方も売り上げが依然と比べてかなりアップしたらしく、美佐江さんはカナレに感謝していると言っていた。
やはりカナレは福を招く、招き猫なんだろうか。
そして、バイトが終わって一緒に公園を横切って帰る時だ。俺とカナレの前に男2人が立った。
「おい、ちょっと金を貸してくれないか」
「…」
俺は黙った。こいつらは例の強盗団の仲間かもしれない。
「おい、どうした。金を出せって言ってるだろう」
「断る!」
「威勢がいいな。ちょっと分からせてやるか」
そう言うと二人が殴りかかって来た。
だが、カナレが前に出てその男たちに蹴りを入れた。
「ぐっ、くそ、舐めたまねを。これが目に見えないのか」
男たちはナイフを出した。
その時だ。男たちの後ろから肩を掴んだ女の人が居る。
「「あっ、姉さん」」
「ちょっと、あんたたち、私の友人に手を出すなんていい度胸ね」
「えっ、姉さんのご友人で。それは失礼しました」
男たちは引き下がった。
「それじゃ、子猫ちゃん、またね」
狐はそう言うと、男二人を連れて去って行った。
俺とカナレは、以外な展開に目を合わせている。
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