第2話 出会い
どれだけ走ったのだろう
気味の悪い景色は消え去り、気が付けば月は太陽に姿を変えていた。
陽の光を浴びて少しばかりの正気を取り戻し歩みを緩める。
気持ちが落ち着くと周囲を見渡す余裕が出てきて景色を楽しめるようになった。
そよ風が木々を凪いで周囲からは鳥たちのさえずる声が響き渡る。
そんな道なき森を抜けると開けた土地に出た。誰かの所有地なのだろう。耕された手ごろな畑と丸太で組み上げられた小屋がそこにはあった。近くに薪を割る姿が見えた。
ようやく人に出会えた
すすけた栗色の髪に袖をたくし上げたシャツを着た少年だった。
観察するように彼の一挙一動を眺めていると流石に視線を感じたのか
「だれかいるのかい?」と問いかけてきた。
ようやく人に会えた喜びから「ここにいるよ」と返すと驚いた顔で立て続けに捲し上げるように言葉をつづけた。
「ここに人が来るなんて珍しいね。僕くらいしかこの森に出入りしてないと思ってたもの。木の実を取りに来るにしてもここは
この森で初めて出会った彼は思ったより饒舌だった。
「ところで君はどうしたんだい?こんな森に用なんてないと思うけど・・・」
「さ、散歩かな?」
「そんな鎧を着てかい?」と笑う
そう言われて初めて自身が鎧を着て短剣をぶら下げていることを思い出した。その様子を見てますます笑い続ける。
「おなか空いてない?もうすぐ終えるから家に入っててよ。」
と言うと割った薪を片付け始めた。
そんなことない・・・と言おうと思ったけど彼の好意も無下にできない。
「それじゃあ、おじゃましようかな。」
彼の家は一人暮らしにしては広かった。
簡素な造りだろう?と彼は言うが隙間風もない立派な小屋だった。
まさか君が建てたのかという問いには祖父達が建てたんだと自慢げに答えた。
その祖父は2年前に亡くなっている様でそれを機に町へ移ろうと何度か考えて見たもののこの思い出の家を離れるの惜しんで結局変わらぬ生活を送っていると自嘲していた。
「祖父と建てた家だからね」そう12歳の少年は笑って見せた。
祖父との思い出を僕に聞かせるのが嬉しくて仕方ないかのように思える。
「ところで町は近いのかい?」
「町は近くないなぁ。2~3日かかるみたいだよ?僕は村しか行ったことないから詳しくないけどね。」
「村があるのか。そのうち行ってみようっと。」
「うーんどうだろう。あんまり歓迎はされないよ?」
「どういうこと?」
「あそこはよそ者に厳しいんだ。それは僕に対してもだけどね。」
彼は続けて「僕は村の人々から特に好まれていないんだ。昔に祖父と村の人の間で何かあったみたいでね」
そう寂しそうにつぶやいた。
「でも友達がいるから平気さ。その子とはたまにしか会えないけど仲が良いんだ。僕より立派でね。こっちに引っ越して来いとも声かけてくれているんだ。」
「やっぱり引っ越せばいいじゃないか。この家が無くなる訳じゃないんだから」
「さっき言ったろ?僕は村の人々に好かれていないって。その代表格は彼の父親なんだよ。僕がなにしたって訳じゃないけど目の敵にされているんだから。でも仕方ないよ。僕みたいな身寄りのないやつがうろついて欲しくないさ。」
「そう言うなよ。目の前に身寄りどころか身元すら分からないのがいるんだから。」
「え!?別に君のことをそんな風に思っているわけじゃないよ!あくまでも僕の話さ。」
「でも対等になれそうな相手で嬉しいでしょ?」
「うん。」
「即答じゃないか!」
「だって嬉しいんだもの。一人で暮らして村では疎まれる。わかるだろう?」
「うん、まあ、そうだな。」
「なんか分かってなさそうだね。昨日焼いたパンがあるからそれをお昼にしようか。」
そう言うと彼は部屋の奥へ駆けたと思うと
「ゴメン、やっぱり手伝って。腕を振るおうと思ったけど何出したらいいか分かんないや。」
「えー・・・うーん、普段から食べているものが良いかな。」
「そんなんでいいの?」
「たぶんそれが得意でしょ?」
「それはそうなんだけど・・・そうかなぁ?」となんだか腑に落ちないようだ。
どうやら自分の納得する歓待をしたいようだけど普段の料理は嫌らしい。
そろそろ空腹に耐えかねた僕は「まあ昼は簡単に済ませて晩ご飯で戴けたらいいな。」と言ってしまった。
すると目の色が変わり「夜も居てくれるの!?じゃあ早く済ませて狩りに行こう。鳥でも猪でも何でも獲れるよ!」と興奮している。
「じゃあ支度してくるね!」と慌ただしく準備を始めた。
あまりの急ぎように面食らっていると弓とナイフを携えた彼は「じゃあ行こうか。森の夜は早いからね。」と急かすと僕を連れて家を出たのだった。
結局僕は昼ご飯にありつけなかった。
何処に行くのだろう @weasel7811
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