31:告白のための準備をしよう

『綾人に聞いたけど、あの二人、付き合うことになったんだってな。お試しとか言ってたけど、まあ大丈夫だろ。良かったね』


 恵からのメッセージだった。

 続いて笑顔のスタンプが送られてきた。


 あれからずっと、私のことを気にかけてくれていたらしい。

 風船のように想いが膨らみ、口をついた。


「……好き」

 呟いた数秒後、猛烈な熱が頭を駆け巡り、私は身を縮めてタンブラーの箱に額をくっつけた。


 無理だ。柄じゃない。

 スマホ画面に呟くだけでこれなのだ、実際に面と向かって唱えるなんて恥ずかしすぎる!


 ――でも、芹那だってきっと同じ気持ちだったはずだ。


 照れや気恥ずかしさを乗り越えて、青葉くんに告白したのだ。


 私はホッカイロより温かくなってそうな頭を持ち上げ、文字を打った。


『私も芹那から聞いたよ。良かった』

 同じ笑顔のスタンプを返す。

 チャット画面を開きっぱなしにしているらしく、既読の文字はすぐについた。


 恵は起きている。起きて、同じ画面を見ている。


 ――だったら。

 私は思い切って、文字を打ち込んだ。


『もし私が偽彼女役を止めたい、本物の彼女になりたいって言ったらどうする?』


 送信ボタンを押そうとして、指が止まる。

 

 ごめん、無理。


 そう返ってくる未来を想像して、指が震えた。


 怖い。

 ダメだ。とても言えない。


 恐怖心に取り憑かれて、文章を削除している間に、恵から新しいメッセージが来た。


『エンドラのお知らせ見た? 二人協力プレイの高難易度ダンジョンが新規追加されたじゃん。石回収したいし、明日の放課後、一緒にやらない?』


「はあああああ……」

 私は息を大きく吐き出しながら脱力し、俯いた。


 人の気も知らず……ゲームのお誘い……。


 ごつん、と傾けた額とタンブラーの箱がぶつかる。

 疲労感が凄い。気力を丸ごと持ってかれた。


 大体、青葉くんに言われたでしょうが!


「君たち二人はもはやゲーム中毒だから止めろと言っても聞かないでしょう。だから止めろとは言わない、でもせめて中間テストが終わるまで控えなさい。ゲームは一日一時間まで!」って!


『恵はほんとブレないな!』


 八つ当たりも込めて、高速で文字を打ち込んで送信すると、

『え? 何が?』

 実に平和な回答が返って来た。


 もういいよ。あなたはそういう人だよ。

 なんで私、こんなゲーム馬鹿が好きなんだろ。


『嫌ならいいよ?』

 予想通りの言葉が送られてきた。

 恵は決して強制はしない。いつも私の意思を尊重しようとしてくれる。


『いいえ、お付き合いしますよ』

 私は苦笑しながらそう返した。


『助かる。じゃ、お休み』

『はい、お休み』

 お休みのスタンプを送り合ってから、私はスマホ画面を消した。


「全くもう……」

 このままだと私、永久に恵の『良いゲーム友達』から脱せられない気がする。


 そしてこのままでも楽しいからいいか、なんて油断してたらある日突然恵が美少女を連れて来て「彼女できたからバイバイ!」と爽やかに別れを告げてくるに違いない。


「ふんだ。おとなしく噛ませ役になんてなってあげないからね」

 私はタンブラーに恵の顔を重ね、指でつんと突いた。


 明日の放課後、これは願ってもない告白の大チャンスだ。


 二人協力プレイというなら、恵が風間くんたちを連れてくる可能性は限りなく低い。


 拒絶されたらと思うと、やっぱりどうしようもなく怖いけど、芹那はその恐怖を乗り越えたんだ。


 私も芹那を見習って、勇気を出さなきゃ。

 好きになって欲しいなら、まずは気持ちを伝えなきゃ。


 でも、どうやって伝えよう?

 普通はストレートに「好き」で充分だと思うけど、恵がゲーム好きだから……。


「……マイルームの公開を指定したフレンドのみに限定しなきゃ。まずは花の採取から始めるか。今日は徹夜確定だな」


 あれこれ考えて告白のプランを練った後、私はエンドラの画面を立ち上げた。


 ごめん、青葉くん、今日は一日一時間のゲームの誓約を破ります!

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