後枠 元魔王、旅に出る。
「少しばかり留守にしますから、あとのことはよろしくお願いしますね」
という軽い言葉を残して、現魔王であるモチは、私たちの旅の仲間に加わった。
ここまでともに旅をしてきた面々とともに、魔王城の門をぬけ、広がる地平を見下ろしていた。
「魔王様がいなくて、魔の国は大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。私がいないくらいでダメになる国でしたら、そもそも誰も安心して暮らせないですからね。モタ様だって、各国の要人様との会合に飛び回っていましたから」
「へぇ」
なんだその疑いの目は。
「でも今回のこれは、完全に私用じゃないのか?」
「違いますよ? だって、あなたは私の恋人になるお方なんですから。人間的に言えば、つまり、魔王の王配になる男なんですよ」
「ならねぇよ、そんなの」
「なんだ? 我が子のモチが気に入らないというのか?」
「お前もそっちの味方なのかよ」
「あたりまえではないか。我が子なのだぞ?」
「あーもー、わかったよ、もうなんでもいいから、さっさとサビレ村に帰ろう。魔法とか乗り物とか、そんな感じに簡単に行けるんだろ?」
「そんな魔法はありませんよ?」
「乗り物もないし金もないぞ?」
「じゃあ、どうするんだよ」
「なにを言ってるんですか、イト様。私たちにはこんなに立派な二本の足があるじゃないですか」
「おいおいまさか? この期に及んで?」
「さあ、みなのもの、サビレ村への徒歩の旅をはじめようではないか!」
「やっぱりか!」
凹◎凹◎凹◎
こうして私たちは、再び、長い長い旅路へとくり出すのだった。
きっと今度の旅も、おもしろおかしくなるに違いない。
そんな予感が、私を笑顔にさせていた。
「もうほんとに、バカなんじゃないの!?」
「バカとはなんだい、魔王に向かって」
「元、だろ?」
「今の魔王もここにいますよ?」
「うるせぇ!」
「いいから、ほら、サビレ村に帰るんだろう? ニニに会いたくないのかい?」
「それは……会いたいけどさ」
「だったら、四の五の言わずに、歩いた歩いた」
「へいへい」
そう。
私と勇者をめぐる成り行きの旅は、まだまだ始まったばかりなのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます