第37回 元魔王、勇者をたおす。

 「魔王様は玉座にいますよ」という話を聞いた私たちは、まっすぐにそこへと向かっていた。


 廊下を進み、広間を抜け、階段を上がる。



 そして――



 玉座の間へと続く扉を前にして、私たちは立ち止まっていた。


「みなのもの。

 この先に、魔王である我が子がいる。

 私にとっては、ただの帰宅の挨拶になるのだが、みなにとっては謁見ということになるのだろう。

 だから気を引き締めて臨むようにな」


「わかってるよ。あんな村だけど、礼儀作法なんかはきっちりと教えられたからな」


「ボクも大丈夫ですよ。これでも町を仕切っていたほどなんですから」


「オレも、もちろんだ。お偉い様方に料理を振る舞ったこともある」


「ワタシは……よくわかんないけど、とにかくおとなしくしてるよ。あばれたり、さわいだりはしない」


「うむ、みな、よい心がけだな。よし、それでは私のほうも準備にとりかかろう」




 凹◎凹◎凹◎




「MOちゃーんだいなまーいと!」


 これぞ、着ぐるみMOちゃんの必殺技!


 魔法を使って弓なりに飛んで、相手にボディプレスをたたきこむ。


 ただし今回は、誰かをつぶすために放ったのではない。


 おどろかすために使ったのだ。



 だから私は、相手の上にではなく、その目の前に着地して、突然あらわれたような演出をしたのだ。


 そのかいあって、おどろかしたかった相手――現在の魔王である我が子のモチは、目を大きくあけて、身体を大きくのけぞらせていた。


 叫び声まではあげていない。


 ちょっと悔しい。


「我が子モチよ、ただいま帰ったぞ」


「お、おかえりなさい、魔王様――じゃなかった、ええと、モタ……様?」


「その呼び方は、公の場での礼儀としてはよい心がけだが、間違っているぞ。

 この姿のときの私は、モタでも元魔王でもないのだ。

 今の私は、見てのとおり、『MOちゃん』だ」


「わかんねぇって。その着ぐるみ作ったの、ニニなんだからさ。初めて着たの、コソコの町だっただろ?」


「そういえばそうだったな。ではモチよ、今後、この姿のときは『MOちゃん』と呼ぶように」


「は、はい。承知しました。ええと、では、MO様」


「『MOちゃん』だ」


「MOちゃん様、あの、その、そろそろですね、どいてさしあげたほうがよろしいかと思うのですが……」


 モチは、私の身体の下を指さした。


「ん? なにがだ?」


 私が身体を後ろにかたむけると、身体と床のすきまから、人間の頭が出てきた。


「うおっ……、いつの間に!?」


 そこで伸びていたのは、さきほど門番が話していた、あのひとりで来訪したという勇者だった。



 現魔王であるモチは、まさに勇者と一戦をまじえるところだったらしい。


 勇者が剣を構えて、猛々しくモチへと走りせまったところで、突然私が降ってきたのだという。


 つまり勇者は、運悪く『MOちゃんだいなまいと』の餌食となってしまったのだった。


「不運な勇者もいたものだな」


「俺もモタのせいで村から追い出されたんだけどな」

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